2012年ロンドン五輪ボクシング男子ミドル級で金色に輝くメダルを手に入れた日から時は流れ、村田諒太(帝拳)も歳を重ねて31歳になった。長男は今月6歳の誕生日を迎える。5月20日に行われるWBA世界ミドル級タイトルマッチ。村田にとって人生の節…
2012年ロンドン五輪ボクシング男子ミドル級で金色に輝くメダルを手に入れた日から時は流れ、村田諒太(帝拳)も歳を重ねて31歳になった。長男は今月6歳の誕生日を迎える。
5月20日に行われるWBA世界ミドル級タイトルマッチ。村田にとって人生の節目になる大一番は、子どもにとっても記憶に残る一戦になるかもしれない。子煩悩として知られる村田は、そのあたりのことも少なからず意識している。
「もう何回も(テレビ中継で試合を)観て、そろそろ記憶に残ってるでしょうから、そういった意味でも負けられないという気持ちは強いです」
だが、プロボクサーとして強い自分を見せたいのかというと、ちょっと違う。
「大事なことは父が偉大かどうかとか、父が強いかどうかとかではなくて。子どもと僕との関係はボクシングと切り離した関係であるので、そういう形でどれだけ子どもに尽くしてあげられるか、子どもにいい教育をさせてあげられるか。あまりつなげては考えていないですね」
帝拳ジムでトレーニングをする村田諒太(左)と田中トレーナー。撮影:五味渕秀行
プロボクサーという特殊な職業の父だが、子を想う気持ちはごく一般的なものだ。昨年会ったときに「長男がボクシングをやりたいと言い出したらどうする?」と質問すると、こんな答えが返ってきた。
「どうしてもやりたいって言ったら、それは自己責任でやればいいかもしれないですけど、親としては止めます」
自身もボクシングを始めた当初は家族から心配されていた。結果的にボクシングの道を歩み続けているが、「報われる世界じゃないので」と客観的にボクシングを見ている。
村田の奥さんも、村田に対して特別なことはしない。試合前も、いつもと変わらぬ態度で送り出してくれる。
「普通ですよ、本当に。ケガしないでね~とかね。妻が今さら、僕に対して画期的なひとことを言ったりとか、そんなのではなくて。そんなことを言ったら普段の僕を出せなくなっちゃうじゃないですか。だから普通ですよ」
だが、それがいい。「全力でサポートしてくれる態勢を作ってくれています」と素直に感謝する。
帝拳ジムでトレーニングをする村田諒太。撮影:五味渕秀行
父として最も身近な存在は家族だが、ボクサーとして最も身近な存在といえば帝拳ジムでトレーニングする選手たちだろう。ビルの1フロアでWBC世界バンタム級チャンピオンの山中慎介から練習生まで、各々が目標に向けて汗を流してパンチの音を響かせ、ウォーミングアップやクールダウン時には近況を話し合ったりする。
しかし、村田は世界タイトルマッチ挑戦について山中と話したことはほとんどない。
「まったく状況が違うじゃないですか、山中先輩と僕の状況と。だから話したところで多分それは無意味というか、通ずるものがそんなにないんじゃないですか」
トレーニング中に言葉を交わす山中慎介(奥)と村田諒太。撮影:五味渕秀行
たしかに階級も違えば、王座防衛として戦う山中と、初めての世界タイトルマッチを迎える村田では比較しようがない。だが、たった数メートルしか離れていない場所で山中がトレーニングをしている姿がある事実は、これから世界を目指す立場からしたらどれだけ心強いことか。
4月3日に行われた記者会見で村田は開口一番、感謝の言葉を口にした。ボクシングはリングの上に登ったら、頼れるものは己の拳しかない。しかし、そこに立つまでの過程で多くの人が尽力してくれている。
自分に関わったすべての人のためにも負けられない日が迫る。
帝拳ジムでトレーニングをする村田諒太。撮影:五味渕秀行
Round 6に続く→【村田諒太 ミドル級王者への道 R6】感謝の気持ち、応援する気持ち『BELIEVE IN TWO』
●村田諒太(むらた りょうた)
1986年1月12日生まれ、奈良市出身。帝拳プロモーション所属。2012年にロンドン五輪ボクシングミドル級で金メダルを獲得して脚光を浴びる。アマチュア時代の成績は137戦118勝89KO・RSC19敗。2013年8月にプロデビュー。以降、2016年12月のブルーノ・サンドバル戦まで12戦全勝(9KO)。
取材協力:ナイキジャパン
世界タイトルマッチに備えて帝拳ジムでトレーニングをする村田諒太撮影:五味渕秀行
世界タイトルマッチに備えて帝拳ジムでトレーニングをする村田諒太撮影:五味渕秀行
帝拳ジムでトレーニングをする山中慎介(奥)と村田諒太撮影:五味渕秀行
世界タイトルマッチに備えて帝拳ジムでトレーニングをする村田諒太撮影:五味渕秀行
世界タイトルマッチに備えて帝拳ジムでトレーニングをする村田諒太撮影:五味渕秀行