「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント出演インタビュー後編「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、女性アスリートの今とこれからを考える「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を展開した。その一環…

「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント出演インタビュー後編

「THE ANSWER」は3月8日の国際女性デーに合わせ、女性アスリートの今とこれからを考える「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を展開した。その一環として「女性アスリートのカラダの学校」と題したオンラインイベントを6日に開催し、1、2部で計150人が参加。「食事と体重管理」と題した第2部にゲストとして登場したのは、東京五輪ボクシング女子フェザー級金メダリスト入江聖奈(日体大)だった。

 ボクシング選手ならではの厳しい減量と食生活について、1時間にわたって明かした入江はイベント後にインタビューに応じた。後編では自身のキャリアについて語り、大学限りで競技引退を表明している21歳は、大学院進学を希望していることを明言。そして、五輪金メダリストとなっても謙虚さを崩さない理由と、一人の女性として描く自身の未来を明かした。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 五輪金メダリスト・入江聖奈は、誰よりも自分自身がその肩書きにしっくり来ていない。

「まず、いまだに金メダリストって、実感が湧いていないので。いったい、いつになったら湧いてくるものなのでしょうか?」

 真顔で言った入江。獰猛に相手を打ち込むリングを降りると一変、ひたすらに腰が低い。

 謙虚に。驕らず。小学3年生から始めたボクシング。勝ってなお、父に「調子に乗るな」「天狗になるな」と口酸っぱく言われ、中高は能力以上に振る舞う選手を見ると反面教師にした。愚直なまでの低姿勢で高みを目指し、大学3年生の夏、胸に提げたのはオリンピックの金メダル。

 メディアから引っ張りだこになり、突然、スポットライトを浴びた。テレビ出演で対面した憧れのフワちゃんには感動したし、生の明石家さんまにはオーラに圧倒された。しかし、変わったのは周囲で、変わらないのは本人。素顔は食費を1日500円に抑えることに必死な学生だ。

「なんか、嫌じゃないですか。金メダリストだからって偉そうにしたら。成績は凄いけど、素朴だねって言われた方が、私にとっては絶対カッコいい。最近は五輪2大会でメダルを獲っても変わらない、フィギュアスケートの宇野昌磨選手は見ていて凄く素敵だなって思いました」

 周りに流されない。自分を貫き、人生を歩く。ボクシング競技も、あと1年を切った大学生活限りでの引退をすでに公言。「今まで突っ走ってきたので。パリ五輪までやろうと言われても、あと2年あまりは私にとって、ちょっと長い」。今回、その後の夢を初めて明かした。

卒業後は大学院進学を希望「金メダリストでチヤホヤされるのは今だけ」

「私、大学院に行こうと思っています」

 アスリートの大学院進学といえば、スポーツ分野の探求が多いが、そうではない。

「カエルの研究がしたくて。カエルを守りたいんです」

 金メダル獲得以降、天真爛漫なキャラクターとともにカエルへの愛が話題になった。目指すのは研究者の道。現在通う日体大の大学院ではなく、他の大学院の試験に挑戦し、合格を目指すという。「カエルの生態学を研究し、保全に繋がるようなレールを作っていきたい」と夢を持つ。

 五輪金メダリストの大学生アスリート。性格は明るく、知名度は抜群。望めば、テレビなど華やかな舞台もあっただろうし、就職にしても企業からすれば引く手あまただっただろう。しかし、本人は「金メダリストとしてチヤホヤされるのは今のうちだけ」と言う。

「テレビにもたくさん呼んでいただきましたけど、私の人間(としての評価)がどうのこうのというのは関係なく、金メダリストだから呼んでいただけただけ。テレビのトークで勝負できるかと言えば、違う話。もっと、そういう世界に(行きたい)とは全く思いません。

 なおさら、私はこれからカエルの研究という道を目指そうとしている。その世界では(実績が)全く、なんにもない人間なので。より『金メダリスト』というのが、あっち(遠く)に行くと思う。そういう環境でまた頑張っていく方が大事だと思っています」

 初めて公の場で話したという将来の夢。ちょっと照れたのか、入江は「金メダルがなくても、一人の人間として『入江さんはいい人だね』と言われるようになりたいな、と思っております」と急にかしこまった語尾になったが、本気ぶりは十分に伝わってきた。

「自分を信じてあげることが、ボクシングでできた」

 まだ大学3年生の21歳。競技を終えても長い人生が待っている。部活のチームメートはリングから面接に戦いの舞台を移し、就活の真っただ中。「ガクチカ(学生時代、力を入れたこと)」を探し、人生設計を立てている。

 では、入江自身はどんな女性であり、人間になりたいか。この日の国際女性デーに合わせたイベントに合わせて聞くと「やっぱり、カエルを守れる人間でありたい」と屈託なく言い、マジメな顔になった。

「そのためには、ちゃんと努力が続けられる人間じゃないと駄目だし、周りの環境に左右されない心を持っていないと駄目。カエルを守るために、いろんなことが大切になると思うので」

 その努力の尊さを教えてくれたのがボクシング。

「私は別にボクシングの才能とかないと思うけど、練習はちゃんと頑張ってきた。それで金メダルを掴めたと思う。努力し続ければ、カエルの研究でも、きっと良い成果が出せる。そう自分を信じてあげることが、ボクシングでできた。簡単には折れない心が身に付いた。ボクシングさまさまですね」

 インタビュー後、年齢がひと回り以上も上の筆者が「入江さんの話を聞いて、私ももっと謙虚に生きようと思いました」と伝えると「いや、そんな。みんな、人それぞれですから」と笑った入江。

「本当は、まだ大学1年生の気分です。もう年齢的には大人なんですけど、社会人になる心の準備が追いついてない。どうしよう……」とこぼした弱音とは裏腹に、その内面は随分と大人びた女性に映った。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)