三塁側ブルペンで投球練習をする米田天翼(つばさ/市和歌山)のボールが、なかなか指にかからない。「自分でも浮いてるなと感じていました。気持ちが浮ついて、ボールも浮いている感じでした」 気持ちが上ずるのも無理はない。3月23日、選抜高校野球大…

 三塁側ブルペンで投球練習をする米田天翼(つばさ/市和歌山)のボールが、なかなか指にかからない。

「自分でも浮いてるなと感じていました。気持ちが浮ついて、ボールも浮いている感じでした」

 気持ちが上ずるのも無理はない。3月23日、選抜高校野球大会(センバツ)5日目に組まれた市和歌山対花巻東は、1回戦最大の好カードと見られていた。高校通算56本塁打の怪童2年生・佐々木麟太郎(花巻東)と、大会屈指の速球派右腕・米田との対決は大きな見どころだった。



初戦で花巻東を破った市和歌山のエース・米田天翼

佐々木麟太郎にインコース攻め

 試合が始まってもなお、米田は自分自身を制御できずにいた。花巻東の1番打者・宮澤圭汰に対して1球もストライクが入らない。四球で出塁を許すと、続く2番・渡辺陸の小フライとなったバントを三塁手の田嶋優汰がダイビングするもこぼし、無死一、二塁。ランナーをためた状態で佐々木を打席に迎えてしまった。

 ストレートも変化球も抜けてしまう。怯んでも不思議ではない場面だった。ところが、この場面で米田のなかで何かが弾けた。

「ここは技術よりも、気持ちで押しきろう」

 1ボールから、この日初めて140キロに乗った快速球に、佐々木のバットが空を切る。次のボールは142キロとさらに球速を上げ、空振りが続く。市和歌山バッテリーは徹底して佐々木のインコースをえぐった。

 市和歌山の半田真一監督は言う。

「長打を狙ったスイングをするバッターなので、腕が伸びるところを拾われると、すごく飛んでいくと思いました。花巻東は佐々木くんだけでなく、宮澤くん、田代(旭)くんを警戒していたので、バッテリーには『インサイドを使っていきなさい』と話していました」

 佐々木との第1ラウンドは、詰まってバックネットにぶつかるファウルなどを挟み、カウント3ボール2ストライクにもつれ込んだ。最後は140キロの高めのボール球を振らせて空振り三振。この瞬間、米田は「インコースのストレートで詰まらせた」と手応えを得たという。

 4番の田代も高めのストレートを振らせ、花巻東が誇る超高校級の強打者から連続三振を奪った。5番の小澤修にはライトにタイムリーヒットを浴びたものの、これもまた詰まらせた打球だった。2回以降、米田はゼロ行進を続けていく。抜け気味だったリリースも、「3回くらいからバッターのヒザ元を目がけて叩きつけるイメージで投げる」と微修正した。

 佐々木には2打席目も139キロのストレートで空振り三振。3打席目はこの日最速となった145キロのストレートで、力ないサードフライに打ちとった。パワーヒッターをパワーでねじ伏せる圧巻の投球。佐々木にとっては、高校生活で初めて直面した大きな壁だったに違いない。

目標は日本ハムの畔柳亨丞

 1学年上に同じ右投手の小園健太(DeNAドラフト1位)がいたせいか、米田は小園と比較されることが多かった。だが、米田はきっぱりと「小園さんは小園さん、自分は自分なので」と語る。

 身長185センチ、体重90キロと長身で多彩な変化球を自在に操る小園に対して、米田は身長174センチ、体重78キロの中背で最速149キロの剛球を武器にする。昨秋、米田は小園と自分の球質の違いについて、独特の表現で語っていた。

「小園さんがミサイルなら、自分はピストルを目指しています」

 米田はそう言うが、球威にかけては小園の同時期よりも上だろう。そして米田は、昨春のセンバツで自分の目指すべきストレートを目撃している。

「畔柳亨丞さん(中京大中京高→日本ハム5位)を見て、衝撃を受けました。相手バッターが張っていてもあえてストレートを投げて、バットの上をボールが通過するようなすごい球でした。自分もあんなストレートを投げたいです」

 体型も投球スタイルも、畔柳と米田は重なる。ただし、米田は花巻東の中軸相手には剛速球で封じた一方、そのほかの打者には変化球の抜け球が目立った。そのため、球数は8回までに130球までかさんだ。

 5対1と4点リードで迎えた9回表は、粘る花巻東の猛反撃を受けた。2点を失い、二死無走者から四球を出して佐々木まで打順が回ると、甲子園球場はこの日一番の大歓声に包まれた。

 8回に回っていた佐々木の4打席目は、打ち損じながら米田の143キロの速球を引っ張り、ファーストゴロにしていた。5打席目になり、そろそろ佐々木が順応してくる可能性は十分にあった。ところが、結果はエルボーガードをかすめる死球。高まる期待とは裏腹に、ふたりの勝負は肩透かしのような形で幕を下ろした。

 その後、田代に1点差に迫られるタイムリーヒットを許したものの、小澤を詰まったレフトファウルフライに。米田は辛くも完投勝利を収めた。苦しい試合を乗り切り、米田はこんな実感を語っている。

「ああいう場面で、自信のあるストレートで押しきれた。気持ちが前面に出ていたと思います」

 次戦は3月26日の第2試合、関東を代表する強打線の明秀学園日立と対戦する。

 追い込まれれば追い込まれるほど研ぎ澄まされる、米田天翼の真価は見られるのか。大会No.1右腕の座は、もうすぐそこまで迫っている。