アメリカの野球解析メディア「ファングラフス」では、このほど「イチローがパワーヒッターになることはできたのか?」とのタイト…
アメリカの野球解析メディア「ファングラフス」では、このほど「イチローがパワーヒッターになることはできたのか?」とのタイトルで記事を掲載。イチロー自身が2007年に米メディアに対して「もしも、打率.220でよければ、40本打てるかもしれません。でも、誰もそれを望んではいない」と話していたいことを紹介した上で、安打製造機に対する「IF」を特集している。
■イチローの「正しい」選択…「パワーヒッターになれたのか?」、可能性を探る
今季メジャー17年目のシーズンを迎えているマーリンズのイチロー外野手。通算本塁打数は115本ながら、打撃練習で柵越えをいとも簡単に連発することから、オールスターのホームラン競争に出れば優勝候補の本命と地元メディアで報じられることもある。マーリンズ移籍後、古巣マリナーズの本拠地セーフコ・フィールドに初めて凱旋した今季は、3連戦最終戦の4月19日に最終打席で本塁打を放つなど、節目での一発も多い。
アメリカの野球解析メディア「ファングラフス」では、このほど「イチローがパワーヒッターになることはできたのか?」とのタイトルで記事を掲載。イチロー自身が2007年に米メディアに対して「もしも、打率.220でよければ、40本打てるかもしれません。でも、誰もそれを望んではいない」と話していたいことを紹介した上で、安打製造機に対する「IF」を特集している。
今回の特集で抽出されたのは、ホームランに重要な要素となるインパクト直後の打球のスピードと打球の発射角度。42歳でシーズンインした2016年のデータから分析している。
まず、イチローの打席では、打球の発射角度では0~10度が最も多かったという。ゴロとフライの打球の割合は2対1。スピードを生かしたグラウンドボールヒッターのイチローだけに、メジャーの打者で28位の数値だったというデータが出ている。
比較対象となったのは「野球史上でも極端なフライボールヒッター」とされているパドレスのライアン・シンフ内野手。昨季メジャーデビューしたシンフは89試合で20本塁打を記録し、今季ここまで28試合で7本塁打をマーク。シンフが最高の打球の速度を記録した打撃では、発射角は30度に集中しているという。
■好打者ボットは「いろいろな事を試すことで時間を浪費している選手もいる」と証言
記事では「これはシンフが高い発射角度で最高のコンタクトを生み出すことができるスイングを形成しているという事実を反映している」と分析。そして「彼はパワーヒッターでホームランを狙うタイプ。ホームランを生み出す最高の角度は20度から30度だ。彼のアプローチは、彼が求める結果、そして彼独自のピークの角度と合致している」と結論づけている。
その一方で、42歳のイチローと29歳のシンフを単純比較する無意味さも理解しており、若き日のイチローが105マイル(約169キロ)の打球を常時放ち、フライを打つ回数を増やせば、ホームランの数はそれだけ増えていたという仮説も紹介。ただ、グランドボールヒッターのイチローがフライボールを量産するためには、当然、スイングを大幅に修正する必要が出てくるだろう。そこで、レッズの好打者ジョーイ・ボット内野手の言葉を紹介している。
「常に新しい打撃のスタイルに挑戦しているために、自分の時間をいたずらに費やし、最高の自分を表現するチャンスを逃してメジャーで成功できず、最高のプレーを見せることができない選手たちを見ると、心配になるんだ。そんなことをしている選手をたくさん見てきた。誰もが美談は話題にするけれど、いろいろな事を試すことで時間を浪費している選手のしょうもない話もたくさんあるんだよ」
このように、ボットは打撃スタイルのモデルチェンジを頻繁に繰り返すリスクについて、否定的なコメントを残している。そして、特集ではグラウンドボールヒッターからフライボールヒッターへの転身を試みているアスレチックスのヨンデル・アロンソ内野手のデータを提示。アロンソは、2016年の打撃で一番多い打球の発射角は0度近辺で、発射角と初速のチャートは「イチローに似ている」というが、フライとゴロの割合は1対1.3だったという。
■「イチローはフライを打とうという試みをしなかったことが正しい」
ただ、今季はまだ93打席とサンプルは乏しいものの、アロンソは射角30度の打球が増えているというのだ。記事では、「アロンソの打球分布が変化したことは明確だが、彼が最高速度を生み出す射角については多くのことはわからない」と指摘。射角30度の打球ながら、打球のスピードは100マイル(約161キロ)を超えるものから、60マイル(約97キロ)以下のものまで幅広いというデータも出ている。
さらに、レンジャースのエルビス・アンドラス内野手もフライボールヒッターへのモデルチェンジを進めている一例として特集に登場。右打ちのアンドラスは2015年に打撃フォームを改造したという。スイングの前にそれまで上げることの少なかった左足を上げ、パワーを生み出すことを狙ったが、打球のスピードが最も速い打球の射角は0度から5度が大半だったというデータを紹介。つまり、打球スピードと射角が噛み合ってなかったということになる。それが、2016年には変化が見て取れ、0度から5度の射角が依然として最高速度ながら、打球分布の変化に伴って、グランドボールの打ち損じが減ったと分析している。平均の発射角は8.1度から8.6度に変化しているそうだ。
これらのサンプルを紹介した上で、記事は最後に「ライナーとホームランを生み出す理想的な角度には、その選手の体格、体重、スピードが関連してくる。その選手の打球の初速のピークに基づいて理想的な射角というものが存在する事を示唆している。イチローはフライを打とうという試みをしなかったことが正しいかもしれない」と結論づけている。
バッティングを崩してまで一発を狙うスタイルにシフトせず、自分の打撃をメジャーで貫いて、メジャーだけでも通算3036安打を記録してきたイチローの流儀を“正解”と分析した形だ。唯一無二の個性で、球史に名を刻んできた背番号51。その“旅”はまだまだ終わりそうにない。