2022シーズンのスーパーGT開幕に向けて、GT500クラスに参戦するホンダ、トヨタ、日産の3メーカーは精力的にテストを重ね、着々と準備を進めている。4月16日・17日に開催される第1戦・岡山まで、残り約3週間----。今シーズンはどのメ…

 2022シーズンのスーパーGT開幕に向けて、GT500クラスに参戦するホンダ、トヨタ、日産の3メーカーは精力的にテストを重ね、着々と準備を進めている。4月16日・17日に開催される第1戦・岡山まで、残り約3週間----。今シーズンはどのメーカーがスタートダッシュを決めるのか。

 昨シーズンはホンダ勢が8戦中4勝をマークしたものの、チャンピオンの座は最終戦でトヨタ勢の手に渡った。主導権争いを演じる両メーカーに対して、日産勢は2015年以来、タイトルから遠ざかっている。しかし今年、その日産勢がひときわ注目を集めているのだ。



今季からベース車両をGT-RからフェアレディZに変更した日産

 日産と言えば、これまで14年間にわたってR35型のGT-Rをベース車両にして戦い、導入初年度の2008年をはじめ5度の年間王座に輝いてきた。日産のスーパーGT参戦活動において、まさに「GT-R」はトレードマーク的存在だった。

 だが、昨シーズンをもってGT-RはGT500クラスでの活動を終了。最終戦・富士ではリアウイング翼端板に『ありがとうGT-R』とのメッセージを刻んでラストランをファンの目に焼きつけた。

 そのGT-Rに代わって今季デビューするのが「Nissan Z GT500」だ。市販車として発売される新型フェアレディZ(Z34のビッグマイナーチェンジモデル)のグローバル展開に合わせ、スーパーGTの参戦車両も変更されることになった。

 それまでのGT-Rとは打って変わり、フロント部分は市販車を彷彿とさせる大きく丸みを帯びたヘッドライトが装着。リアのブレーキランプも市販車のデザインを踏襲し、ボディ形状もコンパクトに引き締められた印象を受ける。

「見た目は、最近にない『シブくてカッコいいクルマ』という感じですね。今はどちらかというと、エアロなどいろんなものをつけて魅せるクルマが多いですけど、(新型Zは)シンプルで、リアの形状を含めてボディワークがすごくカッコいいなと思いました。『Zらしさ』が出ているなと思いました」

 そう語るのは、MOTUL AUTECH Z(ナンバー23)をドライブする松田次生だ。2014年と2015年には相方のロニー・クインタレッリとともに年間王者にも輝いている。

GT-Rと新型Zの違いは?

 松田は「日産のエース」としてGT-Rを駆る印象が強い。しかし実は、日産陣営に加入したのは2006年で、当時参戦した車両ベースはフェアレディZの「Z33」。初勝利を飾ったのも、このクルマだった。

「こうして、十数年ぶりにZでレースができるということで、原点回帰ではないですけど、うれしいですし、楽しみです。チャンピオンも獲れる体制だと思うので、いい形なのかなと思います」

 久しぶりのスーパーGT復帰に加え、日産の新型Zが注目を集める理由がもうひとつある。それは、シーズンオフからレース関係者の間で駆け巡った『新型Zが速そうだ』という噂だ。

 ライバルメーカーの警戒する声は、3月12日・13日に行なわれた岡山国際サーキットでの公式テストでも聞こえてきた。

 特に話題に上がっていたのは、新型Zの「直線スピード」だ。ホンダのSTANLEY NSX-GT(ナンバー100)を駆る牧野任祐は「ロングラン(決勝レースを想定した連続周回)のテスト中に何度か日産Zにコース上で遭遇しましたが、ストレートスピードがかなり速いなという印象でした」と語っている。

 日産のエース・松田に質問をぶつけてみた。「GT-RとZの違い」について尋ねると、こう答えた。

「GT-Rはダウンフォースを出してコーナリング重視のクルマでしたが、(Zは)バランスを取ったオールマイティなクルマになっていると思います。なので、どのサーキットに行っても安定して戦えるクルマなのかなと。(Zのストレートが速いとライバルが言っているのは)空力バランスを見直している部分があるので、そこが大きいと思います」

 公式テスト2日目には、23号車が0.130秒差で総合2番手タイムを記録。1日目のセッションでもトップ集団と遜色ないタイムを叩き出していた。それでも、ライバルからは「日産はまだ手の内を隠しているのではないか?」という声も挙がっていた。

ようやく同じ土俵に立てた

 ライバルたちの探りに対して、松田は警戒する一方、手応えも掴んでいる様子だった。

「僕たちからすれば、『みんな本気出していないでしょ?』という感じで見えちゃうので......。毎年そうですが、そこは探り合い。僕たちが速いのかどうかもわからないですし、相手がどれだけ余力があるのかもわからないです。

 でも、昨年のテストを考えたら、『同じ土俵に立てたのかな』というところまで来ていると思います。それをもっとよくしていきたいです」

 いずれにしても、テストの段階で各陣営の真の実力を測るのは難しい。しかし松田は今シーズン、かなりの接戦になるだろうと予想している。

「非常に拮抗していますね。0.1秒遅かったら順位が下がっていくほどレベルが高いので、タフな戦いになるのかなと思います。Zでチャンピオンを獲りたい、という想いはもちろんあります。GT-Rでたくさん勝利数を重ねてきましたが、Zになってからも勝利数をもっと伸ばしていけるようにしたいです」

 第1戦が行なわれる岡山国際サーキットでの公式テストでトップタイムを記録していたトヨタ勢、低速コーナーを得意とするホンダ勢は、開幕戦で優位に立つかもしれない。しかし、日産Zのストレートスピードが改善されていれば、第2戦や第4戦の富士スピードウェイで立場は逆転するかもしれない。

 スーパーGTは2年続けて、シーズン最終戦で劇的な大逆転の末に年間チャンピオンが決まった。新型Zの登場により、2022年はよりシビアなバトルが展開されていくことだろう。完全復活を期す日産に注目したい。