W杯カタール大会アジア最終予選・豪州戦目前インタビュー 今年11月に迫るサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会出場…
W杯カタール大会アジア最終予選・豪州戦目前インタビュー
今年11月に迫るサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会出場権を懸けた日本代表の戦いが24日、ついに最終局面を迎える。日本代表が所属するグループBは勝ち点19でサウジアラビアが首位に立ち、1差で追う形で日本が2位、4差でオーストラリアが3位につける三つ巴に。自動的にW杯出場権を獲得する上位2か国に入るべく、日本代表は24日にオーストラリアとアウェイでの直接対決を迎える。勝てばW杯出場が決まるが、アジアの戦いはそう簡単ではない。かつて激戦を戦ってきた元日本代表GK川口能活氏が当時を振り返る。(取材・文=藤井 雅彦)
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当時、22歳だった川口能活が初めて経験するW杯アジア予選は、とにかく過酷な戦いとして脳内にインプットされている。
「僕にとってW杯予選で真っ先に思い浮かぶのは1998年フランス大会のアジア最終予選です。この予選から方式が変更され、ホーム&アウェイ方式が採用されました。現在はFIFAが定める国際Aマッチデーに実施されていますが、当時は9月から11月までの約3か月に全日程を消化するというハードスケジュールでした」
結果として日本は9月に3試合、10月にも3試合、そして11月にアジア地区プレーオフ(第3代表決定戦)のイラン戦を含めた3試合を戦った。勝利の余韻に浸る暇もなければ、敗北に肩を落としている場合でもない。迫り来る試合を戦うことに精いっぱいで、肉体と精神の両方に大きな負担が掛かった。
今もなお、語り継がれているエピソードが数多くある戦いの中でも、監督交代は最もショッキングな出来事だろう。
第3戦の韓国戦(ホーム)で逆転負けを喫した。第4戦のカザフスタン戦(アウェイ)も勝ち切れずに引き分けで終わると、日本サッカー協会は加茂周監督の更迭を発表した。
川口にとっては自身をA代表デビューさせてくれた恩師だ。大きなショックを受けた苦い記憶をこう明かす。
「自分を代表デビューさせてくれて、その後も積極的に起用してくれた加茂さんが更迭されてしまって不甲斐なかったですし、責任を感じました。でも落ち込んでいる時間はない。日本が勝利するためのプレーと結果を求めなければいけない状況でした。当時の自分は年齢的に若いグループのひとりでしたが、チームはW杯出場という目標を見失っていませんでした」
コーチを務めていた岡田武史が監督に昇格してからも平坦な道のりではなかったが、第7戦ではアウェイの韓国戦で大きな勝利を手にする。第8戦のカズフスタン戦(ホーム)も途中招集された中山雅史のゴールなどで5-1と大勝し、イランとのアジア地区プレーオフへ。
熱狂の始まりとなった“ジョホールバルの歓喜”とは何だったのか
そして物語はジョホールバルの歓喜へとつながる。
先制点を奪ったものの、逆転を許してしまう。それでも途中出場の城彰二が放ったヘディングシュートが値千金の同点弾となり、ゴールデンゴール方式の延長戦へ。すると岡野雅行のシュートがゴールネットを揺らし、歓喜の輪が生まれる。
イランの猛攻を2失点に抑えた川口は、最終予選全試合でゴールマウスを守り抜いた。
「試合を終えてバスに乗ってホテルに帰ったあとは、喜びよりも安堵の気持ちが勝っていました。この試合に敗れたイランは1週間後の大陸間プレーオフに回ってオーストラリアと対戦して勝利したわけですが、とてもタフだなと感心しました。もしイランに負けていたら、はたして日本に余力が残っていたかどうか……」
約3か月に及ぶ壮絶な戦いがようやく幕を閉じた。Jリーグ開幕から間もなく、サッカー人気は右肩上がりの時代だ。それだけに期待値が高く、比例するようにプレッシャーも大きくなっていった。
あれからもうすぐ25年の年月が過ぎようとしている。
「当時は若さがあったおかげで過酷な戦いを乗り切ることができました。選手にとって経験はとても重要な要素ですが、経験を積むことにはメリットとデメリットの両方があるのかもしれません。アトランタ五輪やその予選を戦った自信も大きかったですし、当時の自分は怖いもの知らずでした」
それから8年後のドイツW杯アジア最終予選では、日本の立ち位置が大きく変わっていた。初出場のフランス大会こそ3戦全敗に終わったが、2002年日韓W杯で決勝トーナメント進出。自国開催の後押しを受け、サッカー文化が日本に大きく広まる要因に。
川口自身も30歳になる年で、欧州でのプレー経験を経てプレーヤーとして完成度を高めていた時期だ。
「2002年W杯の結果やアジア杯連覇を経て、その後の親善試合でも強豪国と良いゲームをできていたので、周囲の期待値が高かったことを覚えています。でもW杯予選と親善試合ではモチベーションが違いますし、どの国も簡単には勝たせてくれません。実際に最終予選6試合はすべて僅差のゲームでした」
「W杯予選に簡単な試合はない」 昔も今もその事実に変わりはない
日本は5勝1敗で本大会出場を決めたアジア最終予選だが、特に苦戦が印象に残っているのは初戦の北朝鮮戦だ。
開始早々に小笠原満男の直接FKで先制に成功するも、追加点をなかなか奪えない。こうして手をこまねいていると、後半に左サイドの角度のない位置からシュートを決められて1-1に。
「対戦相手の北朝鮮は確かな情報がほとんどありませんでした。実際に対戦してみると、カウンター主体でとても洗練されていて、連動性もありました。チームとして完成されていてとても手強かった。苦しい試合でした」
後半アディショナルタイムに大黒将志が決勝ゴールを決めると、満員の埼玉スタジアムが狂喜乱舞した。以降、日本がW杯予選で使用する埼玉スタジアムが『聖地』として勝たれるようになったきっかけの試合である。
数々の修羅場をくぐり抜けてきた川口は神妙な面持ちで話す。
「W杯予選に簡単な試合はありません。どの国も本大会出場を目指して必死です。結果がすべての予選ですが、選手としてはもちろん内容も求めています。ただ、どこかで舵を切るという判断が必要な場面もあります。僕自身、日本代表の一員として戦っていた時は、結果を最優先してセーフティーにプレーするという選択もありました。でも究極的には結果と内容の両方を追い求めるのが代表選手の使命です」
どの時代もW杯予選は難しい。カタールW杯出場を目指している現在も例に漏れず、最終予選の序盤3試合を終えて1勝2敗と苦しいスタートに。ファンやサポーター、あるいはメディアから厳しい意見が投げかけられる場面も見られた。
しかし、森保一監督率いるチームは地力と底力を発揮。以降、5連勝でW杯出場に王手をかけた。紆余曲折を経ての歩みは過去の日本にも重なるものがある。
「ファン心理としては日本サッカーを応援し、愛しているからこその意見のはず。選手をはじめとするチーム関係者は誰ひとりとして現状に満足していないでしょうし、僕自身が現役の時も同じでした。もっと良いプレーをしてやる、見せてやるという強い気持ちで最後まで戦い抜くしかありません」
運命のオーストラリア戦が目の前に迫っている。
日本代表はいま再び、真の強さを問われている。
■放送予定
【AFC アジア予選 -Road to Qatar- 第9戦】
3月24日(木)オーストラリア vs 日本/日本時間18:10キックオフ(DAZN)
【AFC アジア予選 -Road to Qatar- 第10戦】
3月29日(火)日本 vs ベトナム/日本時間19:35キックオフ(テレビ朝日系列、DAZN)(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)