春の訪れは突然だった。3月10日(現地時間:以下同)、昨年末からメジャーリーグ機構と選手会間で行なわれていた新労使協定…

 春の訪れは突然だった。3月10日(現地時間:以下同)、昨年末からメジャーリーグ機構と選手会間で行なわれていた新労使協定が「暫定合意に至った」と発表された。3カ月以上に渡り続いた交渉は、ようやく両者ともに納得ができる内容にまとまったようだ。

 一時は、シーズンの開幕が大幅に遅れ、試合数も削減されるとも噂されていたが、その心配もなくなった。今季の開幕戦は当初から約1週間遅れの4月7日に決まり、それまでにキャンセルされた最初の2カードもすでに振替られ、予定どおり全162試合で実施されることが決まっている。



ブルージェイズ入りした菊池(左)とカブス入りした鈴木

 新労使協定合意後は、ことがあっという間に進んだ。3月13日には春季キャンプが始まり、17日にはオープン戦がスタート。中断されていたFAやトレードといった交渉も数日で続々と決まっている。大型のFA選手の動きも同様だ。例えば、ブレーブスからFAとなっていたフレディー・フリーマン一塁手は、ドジャースと6年1億6200万ドル(約192億円)の契約を結び、クリス・ブライアント外野手(元ジャイアンツ)は7年1億8200万ドル(約210億円)でロッキーズと契約合意したことが、どちらも16日に発表されている。

 次の所属先が決まらないまま長い冬を越した彼らにとって、3月10日以降の一週間はまさに激動だったが、日本人選手たちもこの流れに乗った。昨オフにマリナーズを退団してFAとなっていた菊池雄星と、ポスティング制度でメジャー移籍を表明した鈴木誠也も所属先を決めている。

 菊池雄星は、3月14日にブルージェイズと3年総額3600万ドル(約42億円)で契約を結び、背番号は日本時代と同じ「16」をつけることが発表された。翌15日の入団会見で菊池は、「世界一を目指している、すばらしい球団だという印象がある」と語り、交渉でチームから送られた約8分のビデオメッセージ(チームや本拠地トロントの街を紹介する内容)は、「自分の中ですごく大きなものでした」とも述べ、これらがブルージェイズへ入団を決断する決め手になったと明かしている。

 菊池のブルージェイズ入団は電撃的だった。菊池は国内メディアから、入団を決めるまでどれだけ時間を要したかを問われると、「決断するのに時間はかからなかった。一日くらいで決めたと思う」と話している。ブルージェイズ側も、菊池の変化球(カットボール)と速球、そして耐久性(1年間ローテーションを守れること)に魅力を感じていたという。これは同球団のロス・アトキンスGMが記者会見で話していたことだ。菊池のブルージェイズ入りは両者の相思相愛によって実現したと言えるだろう。

現地メディアの評価は二分

 菊池のブルージェイズ入団を、現地メディアはどのように見ているか。反応を見ていくと、期待と不安が半々のようだ。地元紙『トロント・スター』は、菊池の総額年俸を「過払いになるだろう」とし、今季成功すればいいが、そうでない場合は「リスクが高く、報酬の高いギャンブルで、ローテーションの軸にならなければ意味はない」と厳しい意見を述べている。

 一方、専門メディア『ブルージェイズ・ネイション』は、「正しくアジャストできれば、菊池はブルージェイズに多くのメリットをもたらすことができる」と述べている。また、「菊池のブルージェイズでの1年目がなんらかの理由でうまくいかなかったとしても、支払う額は(契約が終わる)24年まで毎年1000万ドル(約12億円)のみのため、その後の2年間は在籍したとしてもそれほど高価ではない」とも書いている。菊池の年俸が妥当かどうかは意見が分かれているようだ。

 ただ、いずれのメディアもピート・ウォーカー投手コーチの存在が成功の"カギ"になると述べている。『ブルージェイズ・ネイション』では、前出の文のあとに「ウォーカー(投手コーチ)の指導の下で成長するのであれば、大きな掘り出し物になる可能性はある」と述べている。また、米スポーツメディア『ジ・アスレチック』は、「なぜブルージェイズは菊池に『明るい未来』があると感じたのか」というコラムで、ウォーカー投手コーチの話を次のように紹介している。

「彼はオールスターであり、いくつかの素晴らしい活躍を見せた」

 同記事は、ウォーカー投手コーチ自身が菊池を高く買っていることを明かすとともに、キャンプ中にいくつか細かい修正を行なっていくとも書かれていた。開幕後に菊池が現地メディアの評価を変えられるかは、ウォーカー投手コーチの指導次第となりそうだ。

 一方、鈴木誠也の移籍先も意外だった。昨年11月22日にメジャーへのポスティングが公示されてから、一時中断を挟み、約4カ月で出した答えはカブスへの入団だった。3月18日、鈴木のカブス入りが正式に発表され、同球団がキャンプを行なうアリゾナ州メサで入団会見が開かれた。現地の複数のメディアによれば、その総額は5年8500万ドル(約101億2000万円)の大型契約で、日本人野手の契約としても史上最高額となった。

鈴木のカブス入団までの混乱

 さらにカブスでの背番号は「27」となったが、その理由について問われると鈴木は、「(エンゼルスの主力)マイク・トラウト。アイ・ラブ・ユー」と答え、現地に集まったメディア関係者を大いに笑わせた。この発言は、『CBSスポーツ』や『NBCスポーツ』、『MLB.com』といった大手メディアが報じ、カブスのツイッターに掲載された鈴木の発言(動画)には、トラウトが所属するエンゼルスが「同じく(好きだよ)」と反応するほど話題となった。

 鈴木のカブス入団は、現地では衝撃的な出来事と受け取られている。ロックアウトが明けた直後、鈴木はダルビッシュ有が所属するパドレスと接触したことがアメリカで報じられた。一部の日本メディアはこの情報を受け、パドレスが決定的であると報道するも、鈴木が自身のツイッターで否定したことによって、移籍先の予想は振り出しに戻った。

 その後、3月14日に鈴木がカブスと交渉を行なったという情報が出回ると、今度は現地メディアも反応を示した。『MLBネットワーク』のジョン・ヘイマン記者のツイッターでの発言によれば、その時点ではカブス以外に、最有力候補だったレッドソックスをはじめ、パドレス、ドジャース、ジャイアンツ、マリナーズにも可能性があるとされた。また、翌15日には、米移籍情報メディア『トレード・ルーマーズ』が「レイズが獲得を狙っている」と報じている。このように、鈴木の移籍先は現地でも誰もわからない状態だった。

 ところが、15日以降に「カブスへの入団がほぼ確実」と報じられると、現地メディアは一斉に記事を掲載した。特にカブスの専門メディアは大きく反応。『カブス・インサイダー』はこの情報に対し、「週の初めに『パドレスと合意した』という情報を見た人からすると、この話に懐疑的になるかもしれない」としながら、「ローゼンタール記者(最初にカブス入りを報じた現地記者)によれば、鈴木はカブスへの入団を選んだ」と報じている。

 別の専門メディア『カブスHQ』も、同球団入りの報に「鈴木のポテンシャルと(選手としての)彼のピーク時に契約できることは、今後、カブスのファンを興奮させるだろう」と報じ、他にもカブスの地元メディア『スポット・オン・イリノイ』は、「カブスは鈴木誠也と契約を結ぶという大成功を収めた」と報道するなど、地元メディアは大いに盛り上がりを見せた。

1年目の鈴木に求められる成績は?

 一方で、鈴木の争奪戦に敗れたチームのメディアは次のように伝えている。「ジャイアンツが狙っていた鈴木誠也はカブスと契約したようだ」(『NBCスポーツ』)、「イライラしたオフが続く中、パドレスはまたも大物FA獲得に失敗した」(『フライヤーズ・オン・ベース』)。これらの記事には、鈴木の獲得失敗に対して悔しさが滲み出ているものも少なくない。

 特にレッドソックスの地元メディア『NESN』は17日、「鈴木がカブスと契約したあと、レッドソックスが成功を収めるためのオプションは何か」という記事で、「鈴木誠也は外野が埋まっていないチームにぴったりだと考えられていた。鈴木は水曜日にカブスと契約した。レッドソックスがこのオフを成功させるにはどうすればいいのか?」と、今オフの計画が大いに狂ったことを伝えている。

 複数球団による争奪戦の末、カブスへの入団を決めた鈴木だが、メジャーでの評価はこれからとなる。2月15日付の米分析サイト『ファングラフス』の記事によれば、2022年の鈴木のスラッシュライン(打率/出塁率/長打率)は、.287/.351/.480とされ、152安打、23本塁打、85打点を残すと予測されている。

 カブスは、ナ・リーグの中地区に所属し、ほかの地区に比べて投手のスピードが遅いと言われている。昨季前半に打撃不振で苦しんだ筒香嘉智も、カブスと同じ中地区のパイレーツに移籍すると、終盤に8本塁打を放って話題となったのは記憶に新しい。一方、同じ中地区のレッズに所属する秋山翔吾は、メジャーでの2年間は苦しんでいる。現地では、鈴木は彼らと比較されることも多いが、今後どれだけメジャーにアジャストできるかに注目が集まる。

 しかも、新労使協定の影響でキャンプは短縮され、オープン戦もわずか19試合となっているため、鈴木には試練の日々が待っている。もっとも、鈴木はキャンプ合流初日の18日に行なったフリー打撃で、130mを超える特大弾を含む9本(26本中)の柵越えを披露しており、期待度は相変わらず高いままだ。

 再開後のメジャーリーグは、目まぐるしく日々が過ぎている。今年はシーズンに向けた調整を短期間に行なわなければならないのが、これまでとは違うところだ。所属球団が変わった菊池やメジャー1年目の鈴木は、開幕までにどれだけの成果を見せられるのか。開幕戦まで残り1カ月弱、彼らの活躍に期待したい。