「正直言って、まだプロをあきらめていません。目指せるなら目指したいんです」 船迫大雅(ふなばさま・ひろまさ/25歳)の語気が強くなった。東日本国際大から西濃運輸に入社して4年目のサイドスロー右腕。10月には26歳になるが、いまだにプロ入りへ…

「正直言って、まだプロをあきらめていません。目指せるなら目指したいんです」

 船迫大雅(ふなばさま・ひろまさ/25歳)の語気が強くなった。東日本国際大から西濃運輸に入社して4年目のサイドスロー右腕。10月には26歳になるが、いまだにプロ入りへの意欲は衰えていない。

 社会人チームからプロ入りする場合、年齢はひとつの分水嶺になる。大卒の選手ならドラフト指名が解禁になる2年目、24歳が大きな区切りになる。プロ志望だった選手でも、その多くは「都市対抗で優勝したい」「1年でも長く現役生活を送りたい」と気持ちを切り替えていく。

 だが、プロ入りへの「適齢期」を過ぎてもなお、進化し続ける選手もいる。なかには「この選手がなぜアマチュアなのか?」と思わせるような、ハイレベルなパフォーマンスを見せる選手もいるのだ。

沢村賞右腕は26歳でプロ入り

 26歳でドラフト指名を受け、プロで沢村賞を受賞した攝津正(元ソフトバンク)は、こんなことを語っていた。

「社会人野球のトップレベルのピッチャーには、プロで十分通用する実力があると思います」

 船迫はまさに「プロの世界で通用するのでは?」と思わせる能力の持ち主だ。昨年11月の都市対抗での投球は圧巻だった。最速150キロをマークするなど、常時140キロ台後半の快速球で押しに押した。コーナーに集める制球力やスライダーの精度も高い。174センチ74キロと体格的に恵まれてはいないものの、船迫ほどのボールを投げるサイドハンドはプロの世界でも少ないだろう。

 今季から西濃運輸の監督に就任した佐伯尚治監督も「スカウトの方も見ているでしょうし、チャンスがあれば目指してもらいたい」と船迫の背中を押す。佐伯監督は選手時代、2014年に都市対抗優勝に導き、橋戸賞(最優秀選手賞)を獲得したレジェンドだ。速球派の船迫とはタイプは異なるものの、自身も現役時代はサイドハンドだったこともあり、注文は自然と高度になる。



昨年のドラフトで指名漏れを経験した東芝・吉村貢司郎

「船迫はすごいボールを投げますし、三振だってイニング数と同じかそれ以上に取ります。でも、社会人の主戦としては『すごいボール』より『チームを勝ちに導けるピッチング』が求められます。船迫には大事な試合で長いイニングを投げて、誰もが認めるエースになってもらいたい。投げるボールは言うことなしですから」

 快投を見せた都市対抗にしても、右足ふくらはぎがつるアクシデントのため5回でマウンドを降りている。船迫も当然、佐伯監督の思いを受け取っている。

「常に全力で投げてしまっていたので、要所以外は8〜9割の力でキレのある球を意識しています。これからもっとチームを勝たせられるピッチャーになりたいです」

昨秋ドラフトでよもやの指名漏れ

 昨年のドラフト会議で指名漏れだった社会人選手のなかで、もっとも今年のドラフト指名が有力視されるのは吉村貢司郎(東芝/24歳)である。國學院大出身で入社3年目を迎える本格派右腕だ。

 最速153キロの快速球に、三振を奪えるフォーク、速球の軌道から小さく曲がるカットボールを武器にする。昨年9月の都市対抗西関東予選では宿敵・ENEOS戦で10三振を奪い、1対0の完封勝利を飾り話題になった。

 当然、昨年もドラフト候補に挙がっていたが、よもやの指名漏れ。だが、吉村はその結果を「自分が選ぶ立場ではないので」と割り切っていた。

「去年は調子の波があったので、『なんで指名がなかったのか?』とは思いませんでした。まだまだ成長できる部分はあるなと」

 3月6日から開催された今季最初の公式戦となる東京スポニチ大会では、3試合に登板して17イニングを投げ優勝に貢献。JR九州との決勝戦では完封勝利を挙げてMVPに輝いた。だが、吉村は優勝直後とは思えないほど平静なテンションで会見場に現れた。

「うれしい気持ちはあるんですけど、ここからまたスタートなので」

 東芝の平馬淳監督は「去年の秋から継続していいので、今年こそエースとして活躍してもらいたい」と吉村への期待を語った。年間通して東芝のエースとして投げ抜いたその先に、新たな扉が開くはずだ。

 鷺宮製作所の小孫竜二(24歳)も大卒3年目ながら、スポニチ大会で輝いたひとりだった。

 予選リーグ2試合に先発し、11イニングを投げ1失点。奪った三振数は15と、春先とは思えない仕上がりを見せた。

 制球力が課題だったが、昨年の都市対抗でNTT東日本に補強されたことがひとつのきっかけになった。飯塚智広監督(当時)や安田武一コーチからアドバイスを受け、自信を持ってマウンドに上がれるようになった。最速155キロをマークする剛速球に加え、変化球の制球力も格段に向上している。

 鷺宮製作所の岡崎淳二監督は「今年はドラフト上位で指名される選手になろう」と小孫に発破をかけている。また、岡崎監督は「同期生がプロに行って、悔しい思いがあると思う」とも推測する。遊学館高で同期だった石森大誠(中日)、創価大で同期だった杉山晃基(ヤクルト)、望月大希(日本ハム)と身近なライバルが次々にプロへと進んでいるのだ。

 小孫本人は「3人は3人、自分は自分なので関係ないです」と語るが、プロ入りについては「あきらめていません」とキッパリ断言した。

「まずは自分のチームで都市対抗に出て、鷺宮製作所の名前を広めたい。社員あっての社会人野球なので、社員を勇気づけるピッチングをしたいですね」



今年3月のスポニチ大会で3試合3本塁打と爆発した日本新薬の福永裕基

スポニチ大会で3本塁打

 野手でも春先から猛アピールした選手がいる。スポニチ大会の三菱自動車倉敷オーシャンズ戦から翌日のENEOS戦にかけて、3打数連続本塁打を放った福永裕基(日本新薬/25歳)である。スポニチ大会3試合で打率.583、3本塁打6打点3盗塁と圧巻の数字を残した。

 専修大から入社して4年目。もはや社会人を代表する右打者になったが、昨年のドラフトではプロ球団から調査書が届くことなく指名漏れに終わっている。

 たが、日本新薬の松村聡監督は年々研ぎ澄まされる福永の打撃技術と貪欲さを高く評価する。

「プロに行きたい気持ちをまだまだ持ち続けているのが、彼のいいところです」

 宮本慎也臨時コーチ(元ヤクルト)の指導を受け、バットを振り続けるなかで福永は自身の打撃に手応えを深めている。

「去年くらいからあまりフルスイングせず、打席のなかでトスバッティングするつもりでバットを出せるようになってから状態がよくなってきました。実際には勝手に力が入るので、自分はトスバッティングくらいの感覚でちょうどよくなるんです」

 スポニチ大会で守ったサードだけでなく、セカンドの練習も継続している。右の内野手はプロでも需要が高いだけに、即戦力を求めるチームへのアピールに余念がない。

「圧倒的な成績を残したいです。それで(ドラフト指名が)どうなるかはわからないんですけど」

 今から5年前。24歳にしてドラフト指名漏れを経験しながら翌年もレベルアップし続け、都市対抗でチームを優勝に導いた好打者がいた。プロへの道が閉ざされかけた時、自分を衝き動かすものは何だったのか。そう聞くと、好打者はこう答えた。

「うまくなりたい。やっぱりそこに尽きると思います。野球がうまくなるために、日々練習しています。それは『プロになるため』じゃない。バッティングも守備も、まだまだ技術は向上できると思っていますし、もっといろんなプレーができるようになりたいんです」

 その選手、福田周平は同年オリックスからドラフト3位指名を受けてプロ入りし、2021年はリードオフマンとしてリーグ優勝に大きく貢献した。

 プロ野球に進むことがすべてではない。それでも、「少しでもうまくなりたい」と願うのはアスリートの本能である。プロ入りへの適齢期を過ぎてもなお、旬の輝きを放つ男たちが社会人のステージにはたくさんいる。