矢吹正道VS寺地拳四朗、因縁のダイレクトリマッチ ボクシングのWBC世界ライトフライ級(48.9キロ以下)タイトルマッチ12回戦が19日、京都市体育館で行われ、挑戦者の前王者・寺地拳四朗(BMB)が王者・矢吹正道(緑)に3回1分11秒KO勝…

矢吹正道VS寺地拳四朗、因縁のダイレクトリマッチ

 ボクシングのWBC世界ライトフライ級(48.9キロ以下)タイトルマッチ12回戦が19日、京都市体育館で行われ、挑戦者の前王者・寺地拳四朗(BMB)が王者・矢吹正道(緑)に3回1分11秒KO勝ちした。昨年9月にバッティング騒動が巻き起こり、因縁の再戦で王座奪還。本格的な練習再開からたった2か月で激変した新スタイルでベルトを取り戻した。戦績は30歳の寺地が19勝(11KO)1敗、29歳の矢吹が13勝(12KO)4敗。観衆は3800人。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ニュー・拳四朗だ。重心を落とし、どっしりと体重の乗ったスタイル。「序盤から行く気だった」。ガードを固めて前に出た。矢吹の強打をしっかりブロック。ワンツーを返し、重みのあるパンチで揺さぶった。ジリジリと詰め寄り、王者を終始後退させる展開。相手がわずかに浮いた瞬間を逃さず、右ストレートをぶち込んだ。ワンパンKOだ。

 言葉にならない叫び声を上げ、嬉し涙が溢れ出た。リングインタビューでは、いつものフワフワとした口調で言った。

「はぁ~、良かったなぁ。みんな僕のスタイル、びっくりしたでしょ? あれが新しい作戦です」

 これまでは相手と絶妙な距離を取り、多彩なジャブで揺さぶりながらポイントを稼いだ。前がかりになった相手をカウンターで仕留め、何もさせない。8度の防衛中に何度も見せた「打たせずに打つ」スタイルだ。しかし、前回の矢吹戦はジャッジにジャブのポイントを獲ってもらえず。終盤はKOしなければ勝てない状況に追い込まれ、強引に出たところを返り討ちにされた。

「今回は本当に練習通り。(矢吹は)踏み込んで打ってくるので、なるべく重心が浮かないように気を付けた。あとは軸をぶらさないこと。前回は体が浮いてポイントを獲られた」

 変貌を遂げたスタイル。コンビを組む三迫ジムの加藤健太トレーナーは、寺地が昨秋に再起を決める前から敗戦の映像を見返して研究していた。「なんでああいう採点になったのか。はっきりさせた方がいい」。たどり着いたのは、相手のパンチを「どうもらいに行くか」という形。「いかにもらわないか」を大事にしていた過去とは真逆だ。

「前回みたいに遠い距離から打っても同じ展開になる。採点が割れたり、ジャッジの好みに任せたりするようなボクシングはしたくないので、ああいうスタイルになりました。覚悟を決めて相手を潰した方がいい。

 前回までは後ろ重心。それだとストレートをもらってしまう。左に避けることを徹底させました。左に動いたら、今度はガードが必要。(ガードをすると)前重心になる。今まではもらわないことを徹底していたけど、今回はどうもらうかを口うるさく言ってきました」

試合前は報道陣にも“嘘”をついた「情報戦です」

 つくり上げるのに要した期間は、たった2か月だった。本格的に練習を再開した年明けから着手。だが、最初からハマったわけじゃない。「3か月ブランクがあったので、最初は素人みたいな動きだった」と加藤トレーナー。ガードする癖がなかったため、慣れるのに手こずった。

 父の永(ひさし)会長も「スパーリングを見たらパンチをもらっていて、大丈夫かなと思っていた」と心配になるほど。それでも、「2人が決めたことなので悔いはないだろうなと。強くなるために進化が必要」と任せた。

 寺地自身も少なからず葛藤があった。長年築き上げ、世界で無敵を誇った最強のスタイルだったからだ。「不安はありましたよ。スパーリングで出来ても試合は違うし。でも、後悔しないようにやるだけだった」。挑戦を決意した。少し変えては助言をもらい、微修正する繰り返し。2月中に完成させ、加藤トレーナーは「言ったことを体現できるのはさすが」と労った。

 しかし、試合前は過去のスタイルで行くことを報道陣に宣言。新王者は「あれは心の中で『すみません』と思いながら言ってました(笑)。情報戦です。僕も質問にあまり答えず、『加藤さんに聞いてください』みたいな感じで」と、おどけた。

 178日ぶりのダイレクトリマッチ(直接の再戦)。前回は陣営が矢吹による「故意のバッティング」を主張し、物議を呼んだ。地元・京都で奪い返したWBCのベルト。矢吹と抱擁を交わし、告げた。「強くさせてくれて、ありがとうございました」。リングの上から、矢吹ファンが陣取った客席にも頭を下げた。

「本当に辞めんくてよかったと思うし、加藤さんを信じてスタイルを変えてよかったし、負けても離れずに応援してくれた人に『ありがとうございます』という感じです。やっていてよかった」

 王座を失った期間、仲の良い知人は未だに「チャンピオン」と言ってくれた。でも、その言葉が気になった。「ああ、チャンピオンじゃなくなったんやな」。悔しさが湧いた。だから、再起した。抱きしめたベルトに「おかえり」とポツリ。「これからはチャンピオンって言える」。最強だったスタイルに新たな引き出しが加わった。就いた2度目の王座はもう、簡単に揺らぐことはない。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)