元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説~2022年春場所編元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、3月13日から始まった春場所(3月場所)の展望、躍進が期待される力士について語ってもら…

元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説
~2022年春場所編

元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、3月13日から始まった春場所(3月場所)の展望、躍進が期待される力士について語ってもらった――。

 大阪で開催される大相撲春場所が3月13日から始まりました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、2020年は無観客で、昨年も東京・両国国技館で行なわれたため、大阪でお客さまを入れての本場所は3年ぶりとなります。

「浪速に春を告げる」とも言われる春場所。関西のファンの方たちは本場所開催を心待ちにしていただいていたようで、初日からたくさんのお客さまが足を運んでくださり、館内は大いに賑わっています。

 そうしたファンの期待に応えて、力士たちも奮闘。土俵上では連日、熱い戦いが繰り広げられています。

 今場所一番の注目力士は、やはり初場所(1月場所)で3度目の優勝を飾って悲願の大関昇進を果たした御嶽海でしょう。



先場所で3度目の優勝を飾って大関昇進を決めた御嶽海

 御嶽海は東洋大時代、大きなタイトル(全日本学生相撲選手権、全日本相撲選手権)を獲って角界入り。2015年春場所、幕下10枚目格付け出しでデビューしました。

 それからわずか3年後、2018年名古屋場所(7月場所)には関脇で初優勝を飾って、たちまち「次期・大関候補」と呼ばれるようになりました。実際、その翌年の秋場所(9月場所)で2度目の優勝を遂げ、私もこの連載コラムでほぼ毎場所、御嶽海のことは注目力士、優勝候補として名前を挙げてきました。

 ところが、優勝したり、好成績を挙げたりした翌場所には、なぜか星を落としてしまうことが多い御嶽海。前半戦は好調であっても、途中で躓くとそのまま連敗してしまうなど、成績にムラがあって、なかなか安定した結果を残すことができませんでした。おかげで、年下の貴景勝、学生時代のライバル正代らに大関の座を先んじられてしまうことに......。

 もしかしたら、昨年までの御嶽海は「関脇でいられればいいかな」といった、妥協の気持ちがあったのかもしれません。本人は「(昨年12月に29歳になって)29歳のうちに大関に上がろうと決意した」とコメントしていましたが、30歳を目前にしてようやく"欲"が前面に出てきたのでしょう。

 誰もが認めるように、実力は十分。前傾姿勢を保って、すぐに引かない相撲が先場所から続いています。そのため、今場所も初日から4連勝と好調をキープしています。

 大関昇進伝達式では、「大関の地位を汚さぬよう、感謝の気持ちを大切にし、自分の持ち味を生かし、相撲道に邁進してまいります」と口上を述べました。このあとも、御嶽海らしい力強い相撲を期待したいですし、白鵬(のちに横綱=現・間垣親方)以来となる新大関での優勝もあり得るのではないでしょうか。

 新関脇の若隆景も注目したい力士のひとりです。

 彼も御嶽海と同じ東洋大相撲部の出身です。4年生の時に全日本学生相撲選手権で準優勝し、卒業後に荒汐部屋に入門。2017年春場所、三段目100枚目格付け出しで初土俵を踏みました。

 身長181cm、体重130kg。幕内力士のなかでは小兵の部類で、入幕当初は「上位でやっていけるのかな?」と見ていました。しかし、昨年名古屋場所で小結に昇進。同場所では負け越したものの、翌秋場所から9勝、8勝、9勝と勝ち越しを続けて今場所、三役の座に返り咲きました。

 個人的には、下から、下から低く攻めていく相撲に徹している点と、おっつけが強い点がここ数場所での飛躍の要因と見ています。

「オレには、この相撲しかないんだ!」

 この気持ちですよね。自分の相撲を貫く姿勢がいい方向に向いて、今場所も初日から3連勝を飾りました。

 次兄の幕内2場所目の若元春も頑張っています。ぜひ、兄弟で旋風を巻き起こしてほしいと思います。

 十両では19歳の新十両・熱海富士が誕生するなど、若手力士が続々と台頭してきていますが、その十両での戦いを経て、1年ぶりに幕内に戻ってきたのが、22歳の琴勝峰です。

 スピード出世で幕内に駆け上がってきた頃、ここでも「ホープ」として名前を挙げたことがありますが、昨年の春場所で足を負傷して休場。以降、十両に落ちてしばらく低迷していました。しかし、先場所で十両優勝を遂げて、幕内復帰を果たしました。

 身長189cm、体重159kgという恵まれた体の持ち主ですが、ややケガをしやすい体型をしています。それでも、自ら負傷を乗り越えての再入幕。苦労した分、精神面はタフになっていると思います。

 こうした将来上を目指せる逸材たちに対して、私がアドバイスしたいのは、さらに伸びていくためにも先輩力士の相撲のビデオを見て研究してほしい、ということ。自分の体型に似ている、似ていないにかかわらず、いろいろな先輩方の相撲を見るなかで、足や顎の使い方を学んでほしいからです。

 特にケガの恐れがある琴勝峰は、先輩方の相撲を見て、学んで、ケガをしないような対策を十分に練っていくことが、今後出世していくためのポイントになるのではないでしょうか。

 3月に入って、だいぶ暖かくなり、桜の開花宣言も各地で聞かれるようになりました。春場所で頂点に立って、満開の桜に祝福される力士は誰か、注目です。

錣山(しころやま)親方
元関脇・寺尾。1963年2月2日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は得意の突っ張りなどで活躍。相撲界屈指の甘いマスクと引き締まった筋肉質の体つきで、女性ファンからの人気も高かった。2002年9月場所限りで引退。引退後は年寄・錣山を襲名し、井筒部屋の部屋付き親方を経て、2004年1月に錣山部屋を創設した。現在は後進の育成に日々力を注いでいる。