4月に開幕した東京六大学野球の春季リーグ戦は、早くも佳境に差し掛かろうとしている。昨年は柳裕也投手(現中日)、星知弥投手(現ヤクルト)らの活躍で春秋リーグ戦連覇、明治神宮大会優勝に輝いた明大の3季連続優勝に注目が集まる。今年から主将を務める…

4月に開幕した東京六大学野球の春季リーグ戦は、早くも佳境に差し掛かろうとしている。昨年は柳裕也投手(現中日)、星知弥投手(現ヤクルト)らの活躍で春秋リーグ戦連覇、明治神宮大会優勝に輝いた明大の3季連続優勝に注目が集まる。今年から主将を務める中野速人内野手は、昨年秋にリーグ戦初出場。「実力的には下の下」と自己分析する新主将は、試行錯誤を繰り返しながら名門チームを率いている。

■リーグ戦初出場は昨年秋、人間性を買われた中野速人主将

 4月に開幕した東京六大学野球の春季リーグ戦は、早くも佳境に差し掛かろうとしている。昨年は柳裕也投手(現中日)、星知弥投手(現ヤクルト)らの活躍で春秋リーグ戦連覇、明治神宮大会優勝に輝いた明大の3季連続優勝に注目が集まる。その明大では、チームの主将として2015年は坂本誠志郎捕手(現阪神)、2016年の柳と、プロ入りを果たした主力が名を連ねてきた。しかし、今年から主将を務める中野速人内野手は、昨年秋にリーグ戦初出場。「実力的には下の下」と自己分析する新主将は、試行錯誤を繰り返しながら名門チームを率いている。

 昨年は3年ぶりとなる春秋リーグ連覇、5年ぶりの明治神宮大会優勝とその強さを見せつけた明大。柳、星のほか、佐野恵太内野手(現DeNA)、中道勝士捕手(現オリックス)の4人がプロ入りした。主力が次のステージへ旅立ったため、今季は大幅な戦力ダウンが懸念されるが「みんなの力で優勝を目指す」と、中野は意気込む。

「プロ入りした先輩たちが抜け、戦力は落ちると思います。昨年は個々の力が強かったですが、自分たちはつなぎの野球をして、チーム全体の力で勝ちに行きたいです」

 そう話す新主将に、善波達也監督は「人間性が素晴らしく、社会に出たら必ず役に立つ人材になる」と信頼を置く。その人格と、高校時代に神奈川県の名門、桐光学園で副主将を務めていたリーダーシップを買われ、主将に任命された。

 桐光学園では、2年夏に松井裕樹(現楽天)らとともに夏の甲子園に出場。しかし、全国から実力者が集まる六大学の名門、明大では出場機会に恵まれず、リーグ戦初出場を果たしたのは昨年の秋だった。主将を拝命した後、下級生の時から活躍してプロ入りした歴代主将たちと比較されることも多いという。

「六大学のポスターにも主将として出させてもらっているので、学校の授業でも友達に『プロに行くの?』と聞かれます。(比較されても)自分の実力は分かっているので、特に気にはしていません」

■「自分にとって大きすぎる存在」柳から掛けられた言葉

 リーダーシップとメンタルの強さが自分の強みだと自覚し、1年の時から気持ちを前面に出してプレーしてきたと振り返る。自分の長所を生かしながらチームに貢献することを意識しての行動だったが、思うように結果が伴わずに心無い言葉をかけられたこともあるという。そんな時、支えになったのは、昨年主将を務めていた柳の言葉だ。

「『お前は自分の持ち味があって、いいものがあるからここにいるんだ。深く考えずに、思い切ってやればいい』。そう言ってくれました。自分を認めてくれている人がいる。持ち味をわかってくれている人がいる。本当に嬉しかったです。柳さんはいろいろな人に声をかけているので覚えていないと思いますけど、僕にとってはとても大きな言葉でした」

 それ以来、周りの言葉に惑わされることなく、誰よりも声を出し、チームのために動いた。その姿が認められ「自分にとって大きすぎる存在」と尊敬する柳から、主将を引き継いだ。実力や結果を伴ってチームをまとめてきたこれまでの主将と立場が異なるため、練習には人一倍強い気持ちで取り組んでいるという。

「長打力もない。足が速いわけでもない。守備が上手いわけでもない。実力で引っ張ることができない分、1つ1つのプレーを丁寧に確実にこなさなければ、チームメートからの信頼も薄れるし、キャプテンとしての威厳もなくなります。常に不安はありますね」

■ドラフト候補ら3人を副主将に任命し「継なぐ」野球を体現

 昨年の主将、柳はリーグ戦で通算23勝、奪った三振は歴代8位の338個。チームのエースとして活躍しただけでなく、2年連続で大学日本代表にも選ばれた。4年時には代表チームでも主将を務め、日米大学野球選手権優勝にも導いた。チーム内では、仲がいい選手にも悪いところがあれば厳しく叱咤。その言葉は相手にも受け入れられ、関係性が崩れることはなかったという。エースとしても、主将としても、圧倒的な存在感を見せていた。

「柳さんのような主将にはなれないことは分かっています。自分では完全に力不足です」

 それを理解している中野は、チームメートの力を借りることに決めた。今まであまり注目されていなかった副主将のポジションに、今秋のドラフト候補右腕、水野匡貴投手ら3人を指名した。

「実力もあり、誰に対しても正しいことを言える水野のほか、1年から結果を残してきたチームの中心、竹村春樹内野手、コミュニケーション能力に長けている生山太一内野手の3人を副主将に選びました。彼らに力を貸してもらって、自分の足りないところを補っていきたいと思います」

 今年のチームスローガンは「継なぐ」。個々の力は昨年に比べて劣っても、それぞれの力を合わせ「つなぐ野球で勝ちにいこう」という思いが込められている。主将の力も、プロ入りを果たした先輩たちには及ばないかもしれない。しかし、中野には頼もしい副主将がいる。名門野球部を率いる新主将は、チームメートのサポートを得て3季連続の優勝を目指す。

篠崎有理枝●文 text by Yurie Shinozaki