写真提供=アパグループ 2020年4月7日に日本国内で初めての緊急事態宣言が出てから間もなく丸2年。現在は第6波が猛威を…

写真提供=アパグループ
2020年4月7日に日本国内で初めての緊急事態宣言が出てから間もなく丸2年。現在は第6波が猛威を振るい、病床使用率もひっ迫を続けている。医療崩壊を防ぐために、コロナ陽性者で無症状や軽症者を対象とした宿泊療養施設が運用され、2022年2月1日までに、東京都では8万人以上の人が宿泊療養施設を利用してきた。
2年前、世の中が未曾有の感染症を前にして社会が停止する中、いち早く感染者の宿泊療養受け入れに名乗りをあげたのが、日本最大級のホテルチェーン「アパグループ」だ。2020年4月2日に、受け入れ表明の第一報が出ると、現在までに全国累計67棟のホテルを宿泊療養施設として提供してきた。
ホテル業界のリーディングカンパニーとして、また新型コロナウイルス感染症療養の第一線から見た実態、本当の想いをアパグループ専務の元谷拓さんに聞いた。
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ーーいち早くコロナ陽性者の受け入れを始めたのがアパホテルでした
元谷:2年前、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化して、医療崩壊が危惧されていた時でした。無症状者および軽症者の受け入れについて、日本政府の方から当社に相談をいただきました。弊社の代表である元谷外志雄が、「国家危機、医療崩壊を防ぐために必要だということであれば全面的に協力します」と、即断即決で日本政府からの要請に従って協力を表明しました。まだ世の中がこの未知のウイルスのことをよくわからず怯えていた時でしたが、ホテル業界のリーディングカンパニーとして、国難ともいえる大変な状況に際し、医療崩壊を防ぐために側面から貢献したいという思いから、受け入れをいち早く表明し、実施しました。
ーー感染症陽性者の宿泊療養施設にするというのは初めての試みだと思いますが、どのように対応してきたのでしょうか?
元谷:ありがたいことに当社は一般のお客様からも予約をいただいておりましたので、すでに頂いていた何万件という予約を調整しないといけませんでした。また、当時はまだ新型コロナウイルスがどのようなものなのかハッキリと分からない状況でしたので、一般利用のお客様が不安を招かないために、一棟貸し方式としての受け入れをすることにしました。現在では61棟、累計では67棟を新型コロナウィルス無症状者、軽症者の陽性者の宿泊療養施設、ならびに厚生労働省の要請により海外からの入国者・帰国者の方が一時的に待機・滞在する施設として、一棟貸しを行っております。今なお感染が拡大している中で、追加の借り上げを検討している自治体もありますので、今後も要請があれば最大限に協力したいと考えています。
――コロナ陽性者を受け入れると決め、従業員の方の反応はどうでしたか?
元谷:このウイルスにどのような感染力があるのかなども明確に分かっていない時でしたが、ありがたいことにたくさんの社員が手をあげてくれました。この状況に際し、「自分も何か力になれることがあるならやりたい」と志願してくれた従業員たちですので、各現場で入所者の方から心温まる感謝の言葉をたくさん頂いていると聞いています。このような現場なので緊張感走る時もありますし、なかなか気が休まるところがない中で24時間運営してくれている医療従事者の方、行政の職員の方には感謝しかありません。

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――アパホテルとしてこういった従事者の方々へのフォローは何かされていますか?
元谷:関係各位と協力しながら、それぞれできることを全力でやってきています。ホテル内は専門家の指導の下ゾーニングを徹底し、当社のスタッフは建物の管理などの業務が主で、レッドゾーンに関しては防護服を着た専門の方や医療従事者の方が対応する事になっています。そうとはいえ、当社のスタッフもお弁当の受け渡しなどでレッドゾーンのギリギリのところで作業することもあります。
医療従事者の方、行政職員の方、スタッフにはこのように毎日緊張感のある中で働いて頂いているので、少しでも疲れを取って欲しいという思いで、取引先や当社からの支援物資の差し入れを行っています。焼きたての食パンとかは喜ばれていましたね。他にも、無症状者、軽症者の宿泊療養施設として、多くの企業様や個人様が支援物資のご提供などで応援、ご協力くださいました。
また、アパグループではかねてより献血活動やチャリティーオークション、アパ社長カレーの売上収益金の一部寄付などを行ってきました。また、東日本大震災の際には被災者の受け入れや支援物資の提供などを行ってきたこともあり、社員の中にこういった精神が根付いているのだと思います。

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――コロナ陽性者を受け入れるにあたり、苦労した点を教えて下さい
元谷:一棟貸しとして受け入れるにあたり、既にご予約を頂いていた一般のお客様の予約を調整しないといけませんでしたので、お客様にはご不便をおかけしました。また、受け入れを表明した当時は世間的に新型コロナウイルスに対する正しい知識が浸透していなかったため、「アパホテルに行くと新型コロナウイルスに感染する」などの風評被害等もあって、そういった理由によって予約がキャンセルされることもありました。一棟貸ししているホテルだけじゃなく、一般向けに開放しているホテルも含めて、「アパホテルに行くと感染するんじゃないか」という風に言われていた時はつらかったですね…。
当初はお客様や近隣住民の方から正しい理解を得られない状況でしたが、当社の中でも感染症対策本部を作り、医療従事者の方や厚生労働省や自治体の方とコミュニケーションをとりながら、協力できる最大限をやってきました。できうる範囲内を超えてしまった際にご不便をおかけする事もあったかと思いますが、最終的には住民の方や入所者の方からたくさんのエールをいただき、少しずつ風向きが変わっていったのかなと思います。住民の方から、患者さんが早く回復して元気になるようにと千羽鶴を頂いたり、励ましのお手紙を頂いたりもしました。本当に励みになりました。ありがとうございます。いまだにご理解を頂けない方もいらっしゃるかと思いますが、当社としては今後も身を投げ打って協力していくつもりです。
――受け入れにより学んだ点を教えて下さい
元谷:従事するスタッフに感染リスクがないように、専門家立ち合いのもと、ゾーンニングや正しい感染症対策を指導いただきました。また、使用後の客室の消毒作業も徹底的に行って頂きました。この経験がその後のホテル全体の感染症対策に生かされています。
コロナ禍によりお客様がホテルに求める衛生基準が高まってきているので、安心して宿泊を楽しんで頂けるようなサービスを提供できるように、衛生対策の徹底とIT投資による非接触型チェックインなどに取り組んできました。特にアパホテルは最先端のIT開発に力を入れていまして、業界に先駆けた全予約経路対応の自動チェックイン機の導入を2016年から積極的に展開してきておりました。コロナ禍では更なる非接触型チェックインに対応するために、1秒チェックイン機を2020年の6月から導入しまして、現在では国内の全アパホテルで導入を完了しています。1秒チェックインは、お客様の時間を大切にするという意味でアパホテルが掲げているコンセプト「Time is Life 時は命なり」に基づき、待たない・並ばないチェックインを実現するため、大手システム会社と共同開発しました。こういったシステムへの投資には多大な予算がかかりますが、2016年くらいから積極的に展開してきたおかげで、時代背景に合ってきたと感じております。

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――他にコロナ禍で工夫している点はありますか?
元谷:弊社が昨年で創業50周年ということもあり、様々な50周年キャンペーンを打ち出してきました。昨年の5~6月に行った「新型コロナウイルスに負けるなキャンペーン」は、テレワークでの利用や長時間通勤による感染リスク軽減のため、アパホテル公式サイトから予約すると、1泊1室2500円(税サ込)~の特別料金でご宿泊いただけるプランです。一度アパホテルをご利用いただきたいという思いで、採算度外視で積極的に値段を変動させて、リーズナブルな値段でご利用いただきました。世の中の皆さんがコロナ禍で疲弊している中で、コロナに負けずに応援していますという姿勢を貫いていけたと思っております。
50周年とコロナ禍が重なった1年でしたので、キャンペーン第1弾、第2弾とやっていたら、50周年キャンペーンが第8弾くらいまでいきました。こういうご時世ではありますが、お客様に喜んでもらえるために、毎月のように様々なアイデアを出してきました。必要とされるホテルになっていくために、できるトライをやりながらここまでやって来たのかなと思っています。
――前向きに突き進んでいくターニングポイントとなったのはどこだと思っていますか?
元谷:逃げずに、全面的に協力を表明したことですね。2年前は何が何だかわからず日々不安が募る状況の中で、誰もがどう対応していいのかわからなく、立ち止まるか逃げるしかできない状況でした。その中で、当社が日本政府から要請を受け、「この国の国家危機ならば全面的に協力するのが使命だ」と協力を表明したところ、当社以外のホテルチェーンも協力がしやすくなった、風向きが変わったのかなと思います。あの時、当社の利益だけを考えていたらこういう決断はできなかったと思いますし、瞬時に決断していなかったらもっと状況は悪化していたのかなとも思います。
――2年前にコロナ禍がスタートした時から今までを振り返って改めてどうですか?
元谷:世界中が打撃を受けて混乱下の中にあり、当初の思惑通り行かなかったところばかりだと思います。当社に限ったことではありませんが、当社としてもコロナ前に比べると業績的には大打撃を受けました。一棟丸ごと貸し出すと、直営レストランも運営できず、テナントさんも営業できなくなるので、その分の休業補償は当社がしないといけないなど、多くの問題もありました。先行きの見えないことばかりではありますが、日本経済を止めないためにもアイデアを出し、できる対応を全力でやって、お客様に満足いただける営業を続けていきます。また、感染者の受け入れ以外にも、ビジネスで使用される方などもいらっしゃいますので、ホテルの使命を全うしていきたいと考えています。こういう厳しい時代だからこそ差が出ると思うので、逃げずに前を向いて運営していく事で、少しずつ落ち着いた際にはお客様が戻ってきてくれる事を祈って、従業員一同、全力で前進していきます。
――世界中の誰もが正解が分からないコロナ禍、今後をどう見据えますか?
医療従事者の方や行政職員の方、ホテルスタッフ含めてみんなで協力し合ってやってきました。ひっ迫している時はそれぞれ大変ではありましたが、助け合いながらやってきました。その中で、お客様や地域住民の方からたくさんの感謝の言葉、勇気付けられるお手紙やメールを頂いて大変嬉しく思っております。エールを送って頂き、その言葉が励みになってきました。国から必要とされて、少しでもこの国と感染者の方のお役に立てたなら良かったと思っておりながらも、まだまだ第6波がおさまっておりませんので、責任を全うしてしっかり対応していきたいと考えおります。
改めて、当社の代表の決断に際し、ご尽力いただいた関係者の方、お取引先企業にお礼申し上げます。そして誇りを持って運営してくれた弊社社員、ご理解いただいたお客様や地域住民の方には大変感謝しております。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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