1年半に及んだデビューシーズン(2020-2021)では50試合に出場し、トップ10入りは21回、さらに2位になったのは実に7回もある。そして、賞金ランキングは4位――。2001年生まれで2019年の高校3年生の時にプロテストに合格し、順…

 1年半に及んだデビューシーズン(2020-2021)では50試合に出場し、トップ10入りは21回、さらに2位になったのは実に7回もある。そして、賞金ランキングは4位――。2001年生まれで2019年の高校3年生の時にプロテストに合格し、順調に輝かしいキャリアを積んできた20歳の西郷真央にとって、ただひとつ足りないものがあるとすれば、"優勝"だった。

 その待望のツアー初優勝がデビュー2年目の2022シーズン開幕戦、ダイキンオーキッドレディス(沖縄・琉球GC)でいきなり実現する。優勝を争うたびに悔し涙を飲んできた西郷は、優勝が決まっても涙腺が崩壊することなく、グッと喜びを噛みしめていた。「喜びの涙を流すのはちょっと早い」という言葉が、これまでの苦心を物語っていた。

「いろいろな人から『あともう少しだね』と言われて、先輩方もたくさん励ましの声をかけてくださった。特に藤田さいきプロからは(再び2位に終わった)日本女子プロ選手権の時とか、何回も2位に終わっている私に対して、クラブハウスで『もう少しだから。絶対大丈夫!』と言っていただいた。

 大先輩からそう言ってもらえるのなら、本当に大丈夫だろうと思えた。その言葉を信じて、自分の練習を信じて、それをやり続けて優勝をつむことができました」



悲願のツアー初優勝を遂げた西郷真央

 最終日はトップの渡邉彩香と黄アルムを5打差で追う8位タイからのスタートだった。

「優勝を意識していたわけじゃなかった。前半に3つ伸ばすことができて、(一方で)トップがあまり伸びていない状態だったので、後半とりこぼしがないように(スコアを)伸ばしていければいいな、と」

 16番で8m、17番で7mのバーディーパットが決まり、単独トップに立った。しかし、18番パー5では2オンを狙ったセカンドがバンカーに飛び込み、ピンとは反対方向となるドロップゾーンに出すことしかできなかった。

 トップに立った瞬間、ピンチを迎えることになったが、4打目を30cmに寄せてパーセーブに成功。西郷はトップをキープしたまま先にホールアウトし、グラブハウスリーダーとして後続を待つことになった。

「昨日までの3日間はずっとパットが入らず、スコアを伸ばせていなかった。(今日は)変に考えたりせずに打って、昨日入らなかった分が今日に回ってきてくれたのかな」

 1年前の2021年の開幕戦でも、西郷は首位で最終日を迎えて優勝を争った。だが、後半に崩れて4位タイに終わるという苦渋を味わった。

「あまり去年と比較しないようにとは思っていたんですけど、17番のセカンドに立った時には、『去年はグリーン奥にこぼしちゃった』ってことがフラッシュバックして......。結果的にカラーではあったんですけど、自分に打ち勝って(去年と)同じミスを繰り返さなかった。

 一年前にもし勝てていたら、調子に乗っていたかもしれない(笑)。この一年、たくさん悔しい思いを経験してきました。結果として、それがこれからにも生かされると思います」

 この日、会場となる琉球GCには大勢のギャラリーが入場していた。ホールアウト後、西郷は母親が握ってくれたというおにぎりを食べながら、後続の2組がホールアウトするのを待っていた。吉報は、ギャラリーからの声で西郷のもとに届いた。

「まさか優勝できるとは、スタートの時には思っていなかった。驚いたのがまず第一。次に、優勝できた安心感がありました。これまで自分が優勝することがあるとするならば、最終組で(ライバルと)競って、競って、競り勝てた展開かなと思っていた。ちょっと違う形ではあったんですけど、逆転で優勝できてよかったと思います」

 西郷は原英莉花や笹生優花らとともに、ジャンボ尾崎に師事する。その教えとは――。

「『しっかりやり続ければ、結果はついてくるぞ』という言葉を信じてずっと練習してきました。プレー中、心がけているのは、ミスに対して怒りがこみ上げてしまうのは仕方ないとしても、次の一打に入る前には気持ちをリセットすること。気持ちの面でも強くなれたと思います」

 師匠は、なんとも"らしい"言葉で愛弟子の優勝を祝福した。

「西郷どん優勝おめでとう。何といってもゴルフに対する考え方や取り組み方が優等生で、プロの中でもそのゴルフ頭脳はトップではないかと思う時がある。今回の優勝では、2位にはない副賞がたくさんもえる喜びを知っただろう。早めの2勝目を期待する」

 開幕戦で勝利を飾り、昨シーズンのように安定して上位で優勝争いができるようなら、すぐにも2勝目、3勝目を期待してしまう。西郷は言った。

「2勝、3勝と優勝を重ねられるような強いゴルファーになって、うれし涙を流せるぐらい、いい一年にしたい」