伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために vol.1 オリンピックへ2大会連続出場するなど、世界的なスイマーとして活躍してきた、伊藤華英さん。2012年の引退後は、東京オリパラ組織委員会の職員や全日本柔道連…


伊藤華英の For Your Smile ~ 女性アスリートの未来のために

 vol.1

 オリンピックへ2大会連続出場するなど、世界的なスイマーとして活躍してきた、伊藤華英さん。2012年の引退後は、東京オリパラ組織委員会の職員や全日本柔道連盟ブランディング戦略推進特別委員会副委員長など、いくつかの組織でスポーツ振興に寄与してきた。同時に、女性の体の問題をテーマにさまざまなメディアで発信し、最近では一般社団法人スポーツを止めるなの「1252プロジェクト」リーダーとして、女性学生アスリートを支援する活動を行なっている。

 自身も妊娠・出産を経験し、子育てに奮闘中という彼女に、女性アスリートの未来のために、現状を変えるアイデアや知っておくべき知識、そして女性アスリートの奮闘の様子などを連載していく。



出場年齢を17歳に引き上げることが検討されているフィギュアスケート

 北京五輪では日本としてすばらしい結果を残し、歴史に刻まれる大会となりましたが、スキージャンプのウエア規定違反、不可解なジャッジ、人種差別問題、カミラ・ワリエワ選手(ROC:ロシアオリンピック委員会)のドーピング問題など、本当に多くの問題が表面化しました。そのなかで、今回はワリエワ選手の件を、女性アスリートの若年齢化という観点で考えてみたいと思います。

 北京五輪で話題になったワリエワ選手は15歳。平昌五輪のフィギュアスケートで優勝したザギトワ選手(OAR:ロシアからのオリンピック選手団)も当時15歳でした。ロシアの女子選手は3大会連続出場したイリーナ・スルツカヤ選手を最後に、2010年バンクーバー大会以降、シングルで五輪に連続出場した選手がいないという事実もあります。

 専門家によると、女性の若いスケーターは腰と肩の幅が細いために空中で速く回転でき、高難度のジャンプを難なくこなせるという利点があるといいます。このような点もあり、国際スケート連盟(ISU)がフィギュアスケートで五輪や世界選手権などに参加できる年齢を、17歳に引き上げる案を6月の総会にはかる方向で調整しています。

 私はこの点についてはポジティブに捉えています。聞いた話ですが、「細い選手がきれい」や「細い選手のほうがジャンプを飛べる」という風潮がフィギュアスケート界にあって、それによって月経の問題が引き起こされているということでした。

 体の線が細くてもちゃんと月経がきていて、内臓もちゃんと機能していれば問題ないと思います。ただ細い体型を維持するために体に負荷を掛けたり、100g単位の体重制限をしなくてはいけない場合は、指導者がしっかりとした知識を持つことが必要です。たとえ指導者自身が同じ競技出身者だからといって、過去の自身の経験だけに頼って月経に関しても指導していてはいけません。ちゃんと女性のコンディション作りの専門的な尺度を持つことも大事なことだと考えています。



女性学生アスリートを支援する活動を行なう伊藤華英さん

 女性は初経年齢平均が12歳です。15歳は思春期という段階に入ってきて、体に変化が出てきますが、スポーツ界ではこれまでその点について、それほどフィーチャーされてきませんでした。競技現場であるように、月経がこないなどは、不調の合図なわけです。月経がくることで、体が循環して、女性の機能が発達していく。それが女性の健康ということなので、たとえば「無月経で楽だね」という会話がなされているのであれば、それは大きな問題です。

 15歳を過ぎたあたりから、競技者として一番輝く時期に入ってきます。とくに10代後半から20代にかけて乗りに乗ってくる時期ですので、それまでの月経の不調などで、何かを患って引退してほしくないですよね。若いアスリートたちが体の不調にしても、メンタルの不調にしても、競技をやったことで、その後の人生に影響してしまうようなことは、なくさないといけません。健康な状態で競技生活の終わりを迎え、「この競技をやっててよかったな」と思って引退してほしいし、自分の意志で体調管理ができるといいなと思いますね。

 ただフィギュアスケートの年齢制限のようなことを、すべての競技に当てはまるべきだとは思っていません。それを考えるうえで大事なのは、各競技を統括する団体が、どんな目的をもって競技力を図るのか、そして個人の競技人生をどう作っていこうと考えているのかだと思っています。

 たとえば野球界では、小学生年代から球数制限を設けています。これは故障をなくし、長期にわたる競技人生を送るためにはとても大切な取り組みです。

 日本では若い世代から少し頑張りすぎているなというのが私の印象です。10代後半、大学生になるくらいから、自分の競技を選択して、一生懸命にスポーツに取り組み、人生をかけて頑張っていってもいいと思っています。

【Profile】
伊藤華英(いとう・はなえ)
1985年1月18日生まれ、埼玉県出身。元競泳選手。2000年、15歳で日本選手権に出場。2006年に200m背泳ぎで日本新、2008年に100m背泳ぎでも日本新を樹立した。同年の北京五輪に出場し、100m背泳ぎで8位入賞。続くロンドン五輪では自由形の選手として出場し、400mと800mのリレーでともに入賞した。2012年10月に現役を引退。その後、早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学研究科に通い、順天堂大学大学院スポーツ健康科学部 博士号を取得した。