冬の高気圧で空が晴れわたり、寒気の中にも春の予感が漂う2月28日、D.LEAGUE(Dリーグ)のラウンド8が開催された。今回も前回のラウンド7に続き、無事、コロナの影響を受けずに全11チームの参加が叶っての戦いである。セカンドシーズンもとうとう第3コーナー突入となり、昨年の開幕から数えると記念すべき20戦目。すなわち、ファーストシーズンからの参加チームはDリーグ開幕からこの僅か1年余りの間に、20もの新しいナンバーを創り上げ、踊ってきたことになる。

これはもう、ギネスブックに申請してしまいたいと思う程の快挙に思えるが、ラウンド8も、各チームひとつとして同じもののない、これまでのナンバーとは趣向も衣装もテーマも違えた新しい演技で、さらにヒートアップした戦いが繰り広げられた。

◆【実際の映像】Dリーグ史上の最高得点を獲得したKADOKAWA DREAMSと、シンクロ率の高さで2連覇したSEGA SAMMY LUXのダンス

■競技として得点をつけるダンスの難しさ

今ラウンドも、上位に食い込む指標であるジャッジポイント70点以上を獲得したチームが4つ以上となる、レベルの高い戦いが展開された。その中での優勝はラウンド7に続いての2連覇となり、首位争いの常連となった感のあるSEGA SAMMY LUXがさらった。毎回、大人の色気が香り立つナンバーで楽しませてくれるLUXの今ラウンドのテーマは「GAP」。前ラウンドで演じられた、新メンバー且つ紅一点のRAARAを中心としたグラマラスなナンバーから一転、今回はRAARA不在で男性メンバーのみが舞台に放たれ、男の色気をきっぱりと前面に押し出した艶やかなダンスが披露された。

世界初のプロダンスリーグであるDリーグは、当然といえば当然だが、全員がプロフェッショナルダンサーとして、凌ぎを削りながら彼らの最上のダンスを届けてくれているため、どのチームのどんなジャンルでも、それぞれきっちりとプロの域ならではのクオリティがある。だが特に、今シーズンに入り、SEGA SAMMY LUXにはトップチームとしての自信と風格が漂い、ダンスの上手さで魅せるだけでない、安定感とも言えるような頼もしささえ備わってきている。

そんなLUXの姿から、エンターテイナーであるダンサーが正しく自信を持つことの大切さと必要性を強く感じ、このDリーグの大舞台が、着実にDリーガー達を“より一層磨き上げる”という使命を果たしてくれていることに、得も言われぬ喜びを感じることが出来た。しかしまた一方で、上手さや努力という点で、けっして劣っているわけではないのにもかかわらず、なかなか結果に結びついてゆかないチームがあるという現実も存在する。この厳しく長い戦いの中で、彼らはいったいどうやって自尊心やモチベーションを保ち続けるのか、ということにまで思いを馳せると、スポーツのように明らかなルールによる得点で勝敗が決まるわけではない、ダンスを競技とすることの難しさを思わずにはいられない。

■圧巻の演技でリーグ史上最高得点

KADOKAWA DREAMS(C)D.LEAGUE 21-22

そういう意味でも、今回ジャッジポイントではDリーグ史上最高得点の75.5点を叩き出して1位に躍り出たにもかかわらず、オーディエンスポイントの加算により惜しくも2位となったKADOKAWA DREAMSの圧巻の演技に触れておきたい。

今回のDREAMSのテーマは「母国日本」。銀色の被り笠と、薄衣の旅装束に身を包んだ、日本文化をしっかりと消化したうえでヒップホップと掛け合わせた彼らのナンバーは、演技の冒頭、銀色に光る笠が連なる一直線の揺らめきから、一気に観る者の心をとらえ、不思議な時空の旅へと誘った。

静と動のメリハリが効いた、幽玄の世界を垣間見ているような振り付けは、まさに日本特有の“間”を伴って表現され、江戸のカラクリ人形のような動きから忍者のごとく鮮やかな切れ味のステップに転じ、効果的に繰り出した艶めかしい3人の“女忍者”の妖艶な舞いまで、2分15秒が数倍の長さに感じられる奥行きある作品に仕上がっていた。

このナンバーは、日本国内だけなく、海外に持っていったら大変な人気になるに違いない。毎回、DREAMSの作品の錬られ具合は突出していると感じるが、この作品でぜひ優勝させてあげたかったと感じたのは私だけではないだろう。

他にも、ディレクター不在の中、「ラプチャーズの冒険」をテーマに新しい旅立ちを表現したSEPTENI RAPTURESのナンバーはやはりラプチャーズらしくダンサブルで愉しくて踊りたい気持ちにさせるという意味で筆頭チームであるし、西部劇の「ヤングガン」をテーマにしたFULLCAST RAISERZはウェスタン調の衣装に身を包み、熱量たっぷりの迫力あるクランプダンスで彼らの格好良さを存分に発揮していた。上記が、ラウンド8でジャッジポイント70点以上を獲得した4チームである。

■勝ち進むごとに上がっていく集中力

SEGA SAMMY LUX(C)D.LEAGUE 21-22

ラウンド8の順位決定後、レギュラージャッジのテリー伊藤氏は今ラウンドの総括として「SEGA SAMMY LUX全メンバーの集中力が特に良かった」とコメントし、競技後の勝者インタビューの場でもLUXのリーダー・CanDooは、「集中し、ひとつになれた。シンクロ率の高さが勝因かな」と語っていた。

確かに彼らが同時にステップを踏みステージの前へと進むだけで、そこに空気の壁が出来たような独特の風圧が生まれる。観る者はそのバイブスを全身で気持ちよく受け止め、その快感が高得点へと繋がっていったともいえるだろう。

ダンススキルと自信と集中力。Dリーグを勝ち進むには様々な力が必要となるようだ。今後のラウンドへ向けて、まったく違った作品を仕込んでいるというSEGA SAMMY LUXの集中力は、この2連覇を経てさらに上がってゆくに違いない。

セカンドシーズンは残すところ4ラウンド。最終コーナーに向かうが、チャンピオンシップ出場の6枠をいったいどのチームが獲得することになるのか。まだまだ予断を許さない、白熱した戦いが続いてゆく。

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◆沸騰するラウンド7の覇者は観客を魅了する術を心得たSEGA SAMMY LUX

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著者プロフィール

Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター

『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で、松竹で歌舞伎プロデューサーをしていた亡父の導きのもと尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー。