世界スーパーフライ級王座統一戦の"夢"は儚く――。 現地時間2月26日、米ネバダ州ラスベガスのコスモポリタン・ホテルで行なわれたIBF世界スーパーフライ級タイトル戦で、王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)が同級11位のフェルナンド・…

 世界スーパーフライ級王座統一戦の"夢"は儚く――。

 現地時間2月26日、米ネバダ州ラスベガスのコスモポリタン・ホテルで行なわれたIBF世界スーパーフライ級タイトル戦で、王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)が同級11位のフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)に0-3の判定負け。アンカハスは10度目の防衛に失敗し、2016年9月から長きにわたって保持してきたタイトルを失った。これによって、WBO王者・井岡一翔(志成ジム)との統一戦計画は頓挫を余儀なくされた。



IBF王者だったアンカハスが敗れ、統一戦計画が頓挫した井岡

「減量の段階でミスを犯し、試合開始の時点で力が出せない状態だった」

 試合後、アンカハスが所属するMP(マニー・パッキャオ)プロモーションズのショーン・ギボンズはそう述べた。2010年からスーパーフライ級で戦い続けてきた王者も30歳。体重調整が難しくなっていたのは事実だろう。もちろんそれが主要因だと決めつけるべきではないが、マルティネス戦でのアンカハスの動きにはキレが感じられなかった。

 中盤、身長差とリーチを武器に一度はペースを掴みかけたようにも見えたが、相手が得意とする接近戦での打ち合いにずるずると巻き込まれてジリ貧に。それでも最後まで打ち合って王者の意地を見せ、年間最高試合の候補になりそうな大激闘となったものの、後半はマルティネスに絶えず回転負けしており、アンカハスの完敗は誰の目にも明らかだった。

「日本での井岡との統一戦を本当に楽しみにしていたので、延期になった時はとても悲しかったです。ただ、代わりにマルティネスとの試合が決まってハッピー。井岡との統一戦という目標は依然として私のモチベーションになっています。そのためにもこの試合に勝たなければいけません」

 マルティネス戦の前日、計量をクリアしたアンカハスは目を輝かせてそう述べていた。実際に、昨年末に一度は正式発表された井岡との統一戦が流れた後も、再セットが基本線だった。ギボンズは「マルティネス戦の3日前にも井岡陣営と連絡を取り合った」と明かしており、あとはアンカハスが10度目の防衛戦を果たしていれば、すんなり進んでいた可能性は高かっただろう。

アンカハスには「3つのオプションがある」

 ところが――。アンカハスは井岡戦に真っ直ぐに進む選択肢もあったのだろうが、ここでオプショナルの防衛戦を挟む決断を下した背景には、統一戦を実現させるだけではなく、そこで勝つために最善の準備がしたいという陣営の思いがあったに違いない。昨年4月以降、リングから遠ざかったまま統一戦に臨むのではなく、錆びつきを落としてから大一番へ。

 その考えは適切なものだし、ファンにとっても歓迎すべき方向性に思えた。ただ、結果は裏目に出てしまう。大事な前哨戦にベストコンディションで臨めなかったこと、より危険の少ないもうひとりの対戦相手候補だったペドロ・ゲバラ(メキシコ)を選ばなかったことなど、今頃、陣営の心にはさまざまな悔恨の思いが去来しているかもしれない。

 ともあれ、この結果によって、井岡側の今後が難しくなったのは間違いない。ほとんど手中にあったビッグファイトが霧散。統一戦を目指すにしても、また新しい方向性を模索しなければならなくなった。

「統一戦がしたいし、最高の相手と戦いたい。今夜の私はウォリアーと戦い、不可能と思われたことを可能にしたんです」

 新王者マルティネスは試合後のリング上でそう述べており、ベルトの持ち主が変わっても、井岡がWBO王者との統一戦に邁進できる線が消えたわけではない。ただ、リング上で「11歳からの夢が叶った」と感涙していた新チャンピオンは、戴冠後の最初の試合で、日本での挙行が条件となるだろうリスキーな統一戦をいきなり望むかどうか。

 また、前王者アンカハスはマルティネスとの再戦条項を保持しており、これがどうなるかも現時点では読みづらい。キーマンのひとりであるギボンズは、「アンカハスには3つのオプションがある」と述べている。そのうちの最初の2つは"再戦条項行使"と"バンタム級への昇級"。筆者にも明かされなかった3つめの選択肢は、おそらく"スーパーフライ級の他の強豪との対戦"だろう。

 3月1日、アンカハスとトレーナーがバンタム級への昇級を希望しているという報道が流れたが、それも本決まりではないとのこと。アンカハスは4日にフレズノ、5日にサンディエゴで行なわれる2つのカリフォルニア興行に足を運び、じっくりと今後について模索するつもりだという。

新ライバル誕生の可能性は?

 契約上で保証されたリマッチは魅力的であり、最終的にそちらに傾く可能性も十分にありそう。マルティネスとアンカハスの再戦が施行された場合、何らかの特例でダイレクトリマッチが認められるにせよ、マルティネスが1戦を挟むにせよ、井岡の統一戦は遠のく。そうなった場合、井岡陣営はマッチメイクにはさらに頭を悩ませることになりそうだ。

 現在のスーパーフライ級は群雄割拠。WBAスーパー王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、元WBC王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳ジム)といった名実を兼ね備えた重鎮たちが名を連ねているが、エストラーダとゴンサレスは3度目の対戦をすでに視界に捉えている。

 2月5日には、帝拳ジムの契約選手でもあるジェシー・"バム"・ロドリゲス(アメリカ)がWBC王座を獲得したばかり。ただ、素質を高く評価されるロドリゲスは、もともとライトフライ級で戦っていた選手であり、スーパーフライ級に残るかどうかは定かではない。

 このように、井岡にとって統一戦の"ダンスパートナー探し"は簡単ではない。ただ、3月5日にサンディエゴで行なわれるWBC世界フライ級王者フリオ・セサール・マルチネス(メキシコ)対ゴンサレスで、ゴンサレスが番狂わせで敗れた場合はどうだろうか?

 あくまで筆者の想像だが、WBAから対戦指令が出ているWBA正規王者ジョシュア・フランコ(アメリカ)との指名戦をクリアしたあと、いや、その前でも、エストラーダとプロモーターの「マッチルーム・スポーツ」が井岡に興味を持つことがあるのかもしれない。だとすれば、もともと激戦が期待されたマルチネス対ゴンサレス戦はさらに注目の一戦になるが......。

 ボクシングにおけるビッグファイトは、本当にわずかなボタンのかけ違いで危うくなるもの。その理由は金銭、病気やケガ、あるいは主役のボクサーの心変わりなどさまざまだが、今回は"王者の敗戦"というシンプルな要素で多くの人たちが楽しみにしていた統一戦がなくなった。

 このもどかしさもボクシングの特徴のひとつではあるが、最後はやはりハッピーエンドを迎えたい。今後、名選手ぞろいのスーパーフライ級の中で、いずれかのタイトルホルダーが井岡の新ライバルとして浮上する流れを期待したいところだ。