「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」2日目 テーマは「女性アスリートと出産」後編「THE ANSWER」は3月8…
「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」2日目 テーマは「女性アスリートと出産」後編
「THE ANSWER」は3月8日の「国際女性デー」に合わせ、女性アスリートの今とこれからを考える「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」を今年も展開。「女性アスリートが自分らしく輝ける世界」をテーマに1日から8日までの1週間、8人のアスリートが登場し、8つの視点でスポーツ界の課題を掘り下げる。2日目は「女性アスリートと出産」。女子サッカーの元なでしこジャパン・岩清水梓(日テレ・東京ヴェルティベレーザ)が登場する。
10代のアンダー世代から日本代表で活躍し、2011年女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会で優勝するなど、女子サッカー界を牽引してきた名ディフェンダーは、32歳で一般男性と結婚。現役選手のまま、33歳で長男を出産した。後編では、陣痛から約32時間かかった難産で復帰計画に狂いが生じた実体験を明かし、アメリカ代表などの実例から、日本の女子サッカー界の未来に向けた提言をした。(取材・文=THE ANSWER編集部・出口 夏奈子)
◇ ◇ ◇
日本のサッカー界において、現役を続けながら妊娠・出産を経験するケースは珍しい。特に岩清水梓のように代表経験がある現役選手では、現在なでしこジャパンのコーチを務める宮本ともみ氏以来である。
女子サッカー界では、結婚・出産は現役を退いてから、というのが暗黙の了解だった。岩清水自身も、32歳の妊娠を機に引退が頭をよぎった。しかし、現役のまま出産することを決めた。それは、世界を相手に戦ってきた代表時代の経験に起因する。
「アメリカ代表の選手たちは普通に出産し、代表復帰していて、当たり前のようにグラウンドに子どもたちがいるのを見てきました。あれを全く見たことがなかったら、自分自身も現役で出産することをイメージできなかったかもしれません。世界にはそういう代表チームがあることを目にしていたので、現役選手の妊娠・出産については賛否両論あるだろうけど、別に悪いことではないんじゃないかと感じていました」
ほぼ前例がないなかでの妊娠と出産。それを実際に経験したことで、出産後すぐに代表レベルに戻す海外の選手たちがどれだけすごいかを実感した。岩清水の場合は陣痛から出産まで約32時間かかった、いわゆる難産であり、その影響で恥骨を負傷。痛みが激しく、起き上がることも困難だった。
出産したのは2020年3月。その時点で復帰までの計画は狂ってしまった。
「出産半年後の9月のリーグ後半戦からは試合に絡みたいという願望を持っていました。しかし、実際には恥骨の痛みで出遅れ、5月のゴールデンウィーク頃からようやく動き始めたくらい。ただコロナ禍になり、試合も中止。クラブハウスに通えなくなってしまった。JISS(国立科学スポーツセンター)の産後期のサポートプログラムをトレーナーにかみ砕いてもらい、自宅で行っていたのですが、人に見てもらわないとなかなか進まなくて。結局、クラブハウスに行けるようになったのは出産から3か月以上経った6月後半。そこから機能改善のための回復プログラムのトレーニングを始めました」
チームの全体練習に合流できたのは11月。さらに不運も重なった。従来は3月に新シーズンがスタートしていたが、ちょうど女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が誕生するタイミング。開幕が9月にズレ込み、リーグ戦復帰はさらに半年遠のいた。
さまざまな要因があったとはいえ、出遅れた理由について「出産前にチームから離れるのが少し早かった」ことを挙げる。情報がないため、胎児への影響の不安を解消できず、早めにチームを離れた。その結果、出産後に「体力を戻すことがすごく大変になった」と明かす。
「そういう面ではアメリカ代表の選手は、妊娠中でも当たり前のようにサッカーをやるのがスタンダードになっているのだと思います。お腹が大きくても普通にボールを蹴る。その絵は自分にはなかったので、妊娠中には分からなかった」
今、女子サッカー界に必要なものは「情報と環境面の整備」
今、岩清水が女子サッカー界に必要と感じているのは、圧倒的に不足する情報と環境面の整備だ。
経験者が少ないことで、得られるデータも限られる。妊娠・出産は個人差が大きいため、すべての人にそのデータが当てはまるわけでもない。そして、情報量の少なさは、そのまま選手の不安につながる。
「例えば、膝のケガだったら復帰までは長くても1年くらい。そのプログラムも既にあるので、ケガをした時点で復帰までの過程を逆算して考えることができる。だけど、妊娠・出産は個人差が大きい。出産までトレーニングできる人とできない人がいるし、出産後もすぐにトレーニングを始められる人もいれば、私のように何か月かかっても始められない人もいる。復帰のメドが立ちにくく、逆算ができないことが難しいのかなと思います」
環境面の整備については、妊娠・出産後も安心してサッカーに集中できることが重要と考える。岩清水の場合、所属チームのメインユニフォームパートナーの協力は大きかった。
日テレ・東京ヴェルディベレーザを10年以上サポートする株式会社タスク・フォースは、都市型保育園「ポポラー」やイベント会場で託児所を運営する会社だ。岩清水も妊娠が分かるとすぐに相談した。
「自分の場合は出産前から『選手として復帰したいので、子どもを預かってほしい』とお願いしました。パートナーとして長年協力していただいている会社ですが、まさか選手の子どもを預かることができるとは思っていなかったみたいで、すごく喜んでくれて。『いつでも練習復帰して預けてくださいね』とすんなり受け入れてもらえました。試合時についても相談したら、音楽のライブ会場やイベント会場でも託児所を運営しているので、場所さえ用意してくれたら対応できる、という話になったんです。本当にありがたかったです」
岩清水がベンチ入りすると、ホームスタジアムの一角に選手専用の託児所が設置される。現在の利用者は岩清水だけだが、近い将来、選手の子どもたちがここでお母さんの試合を見て、帰りを待つ“日常”がやってくるかもしれない。
女子サッカーの強豪国、アメリカでは現役代表選手が妊娠・出産するケースは日本より多い。しかし、妊娠時、出産後の回復プログラムの資料は作られていないという。もし資料が存在すれば、肉体面だけでなく精神面でのサポートが可能になり、不安の軽減にもつながるのではないだろうか。
840日ぶりの公式戦ピッチ、夢は「長男と一緒に入場したい」
女性である以上、妊娠・出産は避けては通れないライフプランの一つである。それは女性アスリートにとっても同じだ。妊娠・出産をするかどうかも、そのタイミングも人それぞれ。しかし、選択肢はたくさんあったほうがいい。決めるのは、自分自身だ。
2021年11月20日、岩清水は840日ぶりに公式戦のピッチに戻ってきた。
「長男と一緒に入場したい」
母になってからの夢はまだ道半ばだが、「まずはスタメンにならないといけない。自分の頑張り次第なので、戦い中です。そのために頑張りたい」と笑顔を見せる。プロサッカー選手として燃え尽きるまで、母としての夢を叶えるまで、岩清水梓はサッカーボールを追い続ける。
その姿が後輩たちに新たな道を作り、経験を伝えていくことが自分の使命だと信じて。
【女性アスリートが自分らしく、ありのままでいるために、必要なこととは?】
「自分がママになってもサッカーを続けたいと思ったように、私はこうやって、こうなりたいと思った人が、それをみんなから応援される世の中になったらいいなと思っています。また、これからは女性アスリートも我慢することなく、やりたいと思ったことをやりたいと思っときに実現できる世の中になっていくといいなと思います」(女子サッカー選手 日テレ・東京ヴェルティベレーザ 岩清水 梓)
※「THE ANSWER」では今回の企画を協力いただいた皆さんに「女性アスリートが自分らしく、ありのままでいるために、必要なこととは?」と聞き、発信しています。
(「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」3日目は「女性アスリートとジェンダー」、車いすラグビー・倉橋香衣が登場)
■岩清水 梓 / Azusa Iwashimizu
1986年10月14日生まれ、岩手県出身。小学1年からサッカーを始め、中学1年にNTVベレーザ(現日テレ・東京ヴェルディベレーザ)のアカデミー組織・NTVメニーナのセレクションに合格。高校生になるとトップチームのベレーザに昇格。以来、ベレーザ一筋の生え抜き。日本代表でもアンダー世代で活躍し、2006年にA代表デビュー。2011年のドイツW杯では世界一に輝き、男女通じて日本サッカー界初となる快挙を成し遂げた。所属チームではなでしこリーグを12度制覇。代表では北京とロンドン(銀メダル)と五輪に2度出場、W杯には3度出場(優勝、準優勝各1度)。日本の女子サッカー界を代表するDF。
<3月6日に「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント開催>
女子選手のコンディショニングを考える「女性アスリートのカラダの学校」を6日に開催。第1部は「月経とコンディショニング」をテーマに元陸上日本代表・福士加代子さんをゲストに迎え、月経周期を考慮したコンディショニングを研究する日体大・須永美歌子教授が講師を担当。第2部は「食事と健康管理」をテーマにボクシング東京五輪女子フェザー級金メダリスト・入江聖奈をゲストに迎え、公認スポーツ栄養士の橋本玲子氏が講師を担当。1、2部ともにアスリートの月経問題などについて発信している元競泳日本代表・伊藤華英さんがMCを務める。参加無料。(THE ANSWER編集部・出口 夏奈子)