まだ2試合を終えたばかりだが、首位に立つというのは気分が良いものだろう。2連勝の柏レイソルが、久々のトップに立っている…
まだ2試合を終えたばかりだが、首位に立つというのは気分が良いものだろう。2連勝の柏レイソルが、久々のトップに立っている。昨季に続いて今季も苦戦を予想する声が多かったが、鮮やかに意趣返しした格好だ。カップ戦も含めて「今季無敗」を継続する柏の好調の要因を、昨季2位の横浜F・マリノスを撃破した試合を通じて、サッカージャーナリスト・後藤健生が考察する。
■現在Jリーグ最年長の老獪な指揮官
ネルシーニョ……。本名はネルソン・バプティスタ・ジュニオール。1950年7月22日生まれだから、今シーズンの途中で72歳となる。もちろん、現在のJリーグで最年長の監督である(2番目は1957年生まれのミハイロ・ペトロヴィッチ監督=北海道コンサドーレ札幌。日本人監督の最年長は名古屋グランパスの長谷川健太で今年56歳。現在の監督の多くは1970年代生まれだ)。
Jリーグは、1993年に開幕してから今年で30年目のシーズンを迎えることになる。
「30年」というと一世代である。
なにしろ、Jリーグが開幕した1993年には慶応義塾大学ソッカー部の一員として関東大学リーグを戦っていた野々村芳和が、その後、Jリーグでプロ選手として活躍し、引退後にはクラブの社長となり、そしてついにJリーグチェアマンに就任する……。
それが、「30年」という歳月なのである。
現日本代表監督の森保一氏は1993年には25歳でボランチとして戦っていたし、今年「Jリーグ3連覇」を狙う川崎フロンターレを率いる鬼木達監督は1993年は市立船橋高校を卒業して鹿島アントラーズに入団したばかりの新人選手だった。
もちろん、当時から日本のサッカー界を代表するスターでありながら、現在でも現役を続けているという別格の例外、三浦カズが存在するのも事実だが、「30年」というのはそれだけ長い時間なのだ。
■日本代表監督になるはずだった男
ネルシーニョ監督が初めて日本にやって来たのはJリーグ2年目の1994年のことだった。今から28年前のことだった。
サンパウロやサントスなどで主としてサイドバックとして活躍したネルシーニョは現役引退後、名門コリンチャンスやパルメイラスを含む多くのブラジルのクラブで監督を務めた後、1994年に来日してJリーグ随一の人気クラブだったヴェルディ川崎(現、東京ヴェルディ)のコーチに就任した。
初年度からV川崎の監督を務めていたのは松木安太郎だったが、ネルシーニョはコーチとしてこの日本最強クラブで実質的な指揮を執ることになった。そして、1995年と1996年には正式に監督として戦った。
1995年秋には日本サッカー協会の技術委員会が、日本代表監督だった加茂周を交代させることを提言し、ヴェルディ川崎の監督だったネルシーニョが後任監督の候補となり、クラブ側も代表監督就任に同意したため、条件を巡る交渉まで始まっていた。
だが、最終的には加茂監督を支持するグループが巻き返し、結局、当時の日本協会会長だった長沼健が加茂監督を留任させることを決定。その間の数々の行き違いから「はしごを外された」状況に置かれたネルシーニョ監督は協会幹部を「腐ったみかん」という言葉を使って激しく非難するに至った(その会見には、僕も出席していたが、怒りに震えるネルシーニョの表情を鮮明に記憶している)。
その後、ブラジルに帰国したネルシーニョだったが、2003年から2005年にかけて名古屋グランパスの監督を務め、2009年のシーズン途中に柏レイソル監督に就任。J2降格を味わうものの、2010年にはJ2で優勝を遂げてJ1に昇格。翌2011年シーズンには昇格初年度での優勝も成し遂げた。
■監督の「ブーム」の変遷を超えて
Jリーグの初期。日本サッカーの戦術的能力は現在と比べたらはるかに低いレベルにあった。そんなJリーグの初期。ネルシーニョ監督が試合の流れを見て、試合中に指示を送って素早くシステム変更を行って流れを取り戻してチームを勝利に導く姿はとても印象的だった。
そんな時代から、30年近くにわたって今でも現役監督というのだから、ネルシーニョ監督は(カズと同様に)まさにJリーグの歴史を体現するような存在と言っていいだろう。
日本のサッカーも、この30年間に急速に成長を遂げた。今では、試合中のシステム変更など、どのチームでも、どの指導者でも当たり前のように行っている。現在監督を務めている1970年代生まれの日本人監督は、Jリーグでプロ選手として活躍した経験を持っているのである。
そんな新しい世代の若い監督たちとやり合うネルシーニョの姿は“老年の星”とでも言えようか。
また、Jリーグ発足当初は数多くのブラジル人監督が活躍していたが、今ではブラジル人監督はネルシーニョただ1人となっている。その後はイビチャ・オシム監督やペトロヴィッチ監督などの旧ユーゴスラビア系の監督たちが活躍し、最近ではスペイン人監督が脚光を浴びるようになってきた。もちろん、鬼木監督をはじめ、今では日本人監督もこうした外国人指導者とまったく遜色のない活躍を見せている。
僕個人としても、28年前に来日した直後から見知っているネルシーニョ監督。今シーズンは、ぜひ積極的な采配で柏のJ1残留、いや上位進出を成し遂げてほしいものである。