三ヶ島かなインタビュー(前編)2016年にツアー参戦を果たして以降、安定したプレーを披露してシード選手として活躍してきた三ヶ島かな。これまで、なかなか勝利には恵まれなかったが、2020-2021シーズンの最終戦、JLPGAツアーチャンピオン…

三ヶ島かなインタビュー(前編)

2016年にツアー参戦を果たして以降、安定したプレーを披露してシード選手として活躍してきた三ヶ島かな。これまで、なかなか勝利には恵まれなかったが、2020-2021シーズンの最終戦、JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップでついにツアー初優勝を飾った。今回、その奮闘の舞台裏について話を聞いた――。



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――2020-2021シーズンはコロナ禍にあって、ほとんどトーナメントが無観客、あるいは入場制限をしての開催でしたが、いかがでしたか。

「やっぱり、やりづらさはありました。ギャラリーの方々がいないので、練習ラウンドの真剣バージョンといった感じで。私たちプロゴルファーにとって、(ギャラリーの)声援は力になるので、それがいきなりパタッとなくなってしまったのは寂しかったですし、モチベーションが上がりませんでした」

――ご自身のゴルフの調子自体はいかがでしたか。

「(シーズン当初は)『やっていることは間違っていないのに、なんで結果に出てくれないんだろう』という気持ちが強かったです」

――「やっていること」というのは、青木翔コーチと取り組んできたことですか。

「それもそうですし、日々の練習だったり、日常の細々としたことなども気をつけたりしていたんですけど......。ただ"何か"が決定的に足りないというのはわかっていて。じゃあ"何"が足りないのか? それを、ずっと探している毎日でしたね」

――そういった状況にありながら、シーズンの締めくくりとなるJLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ(2021年11月25日~28日/宮崎県)で念願のツアー初優勝を飾りました。大会に入る前の状態はどんな感じでしたか。

「(2021年9月の)日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯あたりから、ずっと成績がよくなくて......。リコーカップの3週間前のTOTO ジャパンクラシックくらいからは、ゴルフが楽しくない時間が長くなって、練習しようにも身が入らない状態にありました。

 でも、地元九州で行なわれるリコーカップには応援に来てくれる人も多いので、『絶対に出場したい』と思っていて。『リコーカップに出られるように頑張ろう』と気持ちを切り替えて、なんとか練習をこなしていた、という感じでした」

――それでも、伊藤園レディスで17位タイ、大王製紙エリエールレディスでは5位と上り調子でリコーカップを迎えました。どういった点に心がけて試合に臨みましたか。

「リコーカップが開催されるコース(宮崎CC)は独特で、プレーにおいてはいろんなことが求められるので、それにどう対応していくか、その準備をしようと思って練習をしていました。そんななか、パッティングはずっと調子がよかったのに『何かが足りない』と感じていて......。

 すると、練習している時に『手元の位置がハンドレート気味になっているけど、それってどうなの?』と、キャディーの佐々木裕史さんから指摘されて。それで、それを修正したら(試合で)ドンピシャにハマッた感じでした(4日間の平均パット数は25.5で1位)」

――そうして、3日目には6つのバーディーを奪ってトップに立ちました。最終日に向かう前夜はどんな心持ちでしたか。いろいろと考えたりしましたか。

「特に、何も(笑)。ふだんどおりでした。宮崎の美味しいご飯を食べて、いつも行っているアイス屋さんでアイスを食べて、『満腹だぁ』って言って、幸せに寝ました(笑)」

――緊張するようなこともなかったですか。

「最終日の朝、練習をしている時に『あっ、ちょっと緊張しているな』って感覚はありました。でも、練習をしている時に気になっていた点を修正できたことで、(緊張しているのも忘れて)普通にスタートすることができました」

――2位と3打差の首位で迎えた15番ホールで、2打目がバンカーのあごに突き刺さるトラブルとなりました。ボールを見た時はどう思われましたか。

「恐ろしかったです(苦笑)。なんで"ここ"って思いました。キャディーの佐々木さんも『あり得ねぇ』って。

 私は口には出さなかったけれど、『あぁ、また負けるのかな』と。球がバンカーに突き刺さっているのを見て、『神様はまた勝たせてくれないのか』って、心底思いました。これまで試練ばかり与えられてきて、ここでもまた試練なのかって......」

――しかし、それほど困難な状況にありながら、ボギーで切り抜けました。

「そうなんです。私もボギー以上を覚悟していましたけど、とりあえず"振った"という感じで打ったら(ボールがバンカーから)出てくれて。結果、ボギーだったので拍手は少なかったんですけど、ギャラリーの方からも『ナイスボギー』と声をかけてもらって、キャディーの佐々木さんとも2人で『ナイスボギーだった』と言い合って、(前向きに)16番ホールへと向かうことができました。

 実は15番のティーグラウンドに行く前、いったん落ちつこうと思って茶店のトイレに行ったんですけど、その時に手が震えていて。そこで、『まだまだやれる!』って気持ちを奮い立たせたんです。だから、15番ではボギーを叩いてしまったけれど、16番のティーグラウンドに向かう時には『やると決めたんだから、自分でやり通せよ!』ってもう一度、自分に喝を入れました。

 それで、16番(パー3)ホールは右にピンがきってあったので、本来であればピンの左に打ちたかったんですけど、『ここは攻めていかないといけない』『逃げちゃダメ』と決意して(ティーショットを)打ちました。でも、グリーン右手前に少し外れてしまって」

――ピンまで12ヤードのアプローチでした。

「日頃からショートゲームには多くの練習時間を費やしてきたので、『いつもやっている距離だな』と。『これは、いつもどおり打てば"入る"』って思っていました。実際、それが入って、それまでずっと悪い流れが続いていたので、やっとその流れから『脱出できた!』と思って、思わずガッツボーズが出ました」

―16番、17番のバーディーは攻めた結果ですね。

「そうです。私の執念(笑)。16番、17番とご褒美がきたので、『頑張ってよかった』って思いました」

――ウイニングパットを打つ時の心境はいかがでしたか。

「3打目のアプローチが寄ったあと、『えっ、これ決めないとダサくない?』っていう気持ちに変わっていて(笑)。絶対に入れなきゃ、と思っていました」

――それをきっちり決めて、優勝を決めた瞬間の気持ちはどうでしたか。

「キャディーの佐々木さんから『おめでとう』って言われたんですけど、まだ(試合が)終わった感じがしなくて。なんでかわからないけれど、自分のなかでは『まだ次のホールがある』『まだ終わっていない』って感覚でした。

 そのあと、(野澤)真央ちゃんと桃ぞう(大里桃子)が駆け寄ってくる姿を見て、『あー、終わったんだ』と気づいて、その時にバァーって一瞬、(感極まるものが)きましたね」

――以前、お父さまにお話をうかがった時、『優勝カップを一緒に掲げられたら、死んでもいい』とおっしゃっていました。

「まだ死なれちゃ困る(笑)。でも、あの強面の父が泣いていましたね」

――先ほど2020-2021シーズンは「"何か"を探し続けてきた」とおっしゃっていましたが、優勝してその"何か"は見つかりましたか。

「はい。でも、詳しくは内緒です(笑)。

 ただ、トーナメント開催中の食事の際に、キャディーの佐々木さんが『過去に自分がバッグを担いだ経験から、優勝争いをしている時にリーダーズボードを見ない選手は絶対に勝てない』『勝つ人は優勝争いの時に、自分と向き合って、自分と勝負するんだ』という話をされていたんですね。

 それで、『今まで勝ち負けを間近で見てきた人の言葉だから間違いない』『私も逃げちゃダメだ』と思って。優勝争いをしていた最終日は、リーダーズボードをずっと見ながらプレーしていました。実際にボードを見ると緊張して、なんてことないバーディーパットとかパーパットを外したりしたんですけど、それでも『絶対に逃げちゃダメ』っていう気持ちでやっていました。

 そうして、15番でボギーを打ったあとも逃げずに、16番では自分に向き合ってティーショットを打てた。それは、今までの私にはなかったことです。自分に向き合うと、自分のことだから嫌なところとかも全部見えるじゃないですか。でも、それに対してちゃんと向き合っていくという、なんか新しいことをしたな、という気がします」

(つづく)後編はこちら>>



三ヶ島かな(みかしま・かな)
1996年7月13日生まれ。福岡県出身。2016年シーズンにTPD単年登録者としてツアーデビュー。2017年シーズンに賞金ランク41位となってシード権を獲得すると、以降はシード常連選手として活躍。2018年にプロテスト合格。2020-2021シーズンのJLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップで悲願のツアー初優勝を飾った。身長164cm。血液型AB。

撮影協力:PALM SPRINGS