現地時間2月26日(日本時間で同日の深夜から27日未明にかけて)、サウジアラビアの首都リヤド郊外にあるキングアブドゥラ…
現地時間2月26日(日本時間で同日の深夜から27日未明にかけて)、サウジアラビアの首都リヤド郊外にあるキングアブドゥラジズ競馬場でサウジカップ開催が行なわれる。
このサウジカップ開催では、賞金総額2000万USドル(約21億円。以下、ドルはすべてUSドル)の国際GⅠサウジカップ(4歳以上、ダート1800m)を筆頭に、GⅢのネオムターフカップ(4歳以上、芝2100m)、1351ターフスプリント(4歳以上、芝1351m)、レッドシーターフハンデキャップ(4歳以上、芝3000m)、サウジダービー(3歳、ダート1600m)、リヤドダートスプリント(3歳以上、ダート1200m)の国際招待競走が行なわれ、2020年に創設されてから今年で3回目となる。
GⅠサウジCは、出走する14頭のうち11頭がGⅠ馬という豪華メンバー。海外の主要ブックメーカーで1番人気に推されるのは、昨年の同レース覇者で、GⅠのドバイシーマクラシックや英インターナショナルSを勝利したイギリスのミシュリフ。日本からはテーオーケインズ(GⅠチャンピオンズC)とマルシュロレーヌ(米GⅠBCディスタフ)が出走予定で、テーオーケインズが2番人気グループとなっている。

メインのGⅠサウジCで人気を集めている日本馬テーオーケインズ
その2頭を含め、今年は日本から過去最多の12頭が参戦。この頭数は、3月に控えたアラブ首長国連邦でのドバイワールドカップ開催、12月の香港国際競走に匹敵する頭数だ。アンダーカード(前座レース)も含めると、なんと世界から1447頭もの初回登録馬を集めた。ひとレースあたりで約160頭、もっとも多かったサウジダービーは339頭もの登録があった。これは前述のドバイワールドC開催や香港をはるかに上回る。
わずか3年目にして、これだけの登録馬を集めたのは驚き以外の何物でもない。サウジCは、昨年10月にIFHA(国際競馬統括機関連盟)の承認を受けてG1に昇格したが、そのほかのサラブレッドのレースはいずれもGⅢという格付けだ。にも関わらず、これだけの関心を得ている要因を探ると、サウジアラビア競馬が目指すところが見えてくる。
高額賞金と破格の待遇
ひとつは、なんといっても賞金の高さだろう。前述したメインのサウジCは1着賞金だけで1000万ドルで、日本円にすると10億円を軽く超える。同じ中東域の高額賞金レースの代名詞でもあるGⅠドバイワールドC(メイダン競馬場/ダート・2000m)が賞金総額で1200万ドル(約13億8000万円)、1着賞金が696万ドル(約8億円)とこちらも破格であるが、それすらも霞んで見えるほどのインパクトだ。
ほかのGⅢ5レースも、レッドシーターフHが賞金総額250万ドル(1着150万ドル/約1億7000万円)、そのほかのレースが150万ドル(1着90万ドル/約1億円)。世界屈指の賞金水準であるJRAのGII毎日王冠(東京・芝1800m)が1着賞金6700万円で、昨年ディープボンドが勝利した仏GⅡフォワ賞(パリロンシャン・芝2400m)の1着賞金74100ユーロ(約950万円)と比較すると、とりわけGⅡ、GⅢレベルの馬にとっては夢のような条件だ。
さらに、これらのレースは登録料・出走料がともに無料。オーナーや厩舎関係者の渡航・滞在費、馬の輸送費なども主催者負担の完全招待で、金銭的にノーリスクで出走できることも大きい。日本では、レース出走に必要な出馬登録料は3歳クラシックで総額40万円、そのほかの3歳以上のGIで30万円、GIIや2歳GIで10万円と他国と比較して極めて少額であるが、そのほかの国はより多くの登録料が発生することが通例となっている。
たとえば同じ招待競走で、総賞金3000万香港ドル(約4憶2000万円)のGI香港カップ(沙田・芝2000m)は総賞金の1%の30万香港ドル(約420万円)、ドバイワールドCに至っては、12万6000ドル(約1450万円)を必要とする。
こうした賞金やホスピタリティは、一線級ではなく、いわば「1.5線級」の馬にとって恩恵が大きい。一線級の馬であれば、当然これまでに獲得した賞金で高額登録料を賄うことができるが、特に欧州はまだシーズンオフで、一線級の馬は臨戦態勢にない。となると、この時期に稼働していて、シーズンインしてから上を目指したい馬にとっては、格好の力試しの場になる。仮に勝利できず2着以下でも、欧州で勝つのと同等、あるいはそれ以上の賞金を獲得できるチャンスがあるのは魅力だ。
世界の"競馬の勢力図"が変わる?
さらに、サウジアラビア競馬が、自国のみならず中東域の競馬のプレゼンスを高めることに積極的であることも理由のひとつだ。
ドバイワールドCに対するサウジC、GⅠドバイターフ(メイダン・芝1800m)やGⅠドバイシーマクラシック(メイダン・芝2410m)に対するネオムターフCのように、1カ月後に控えたドバイワールドC開催の各競走と条件的にリンクしやすい競走を設け、「ドバイへのハブ」として機能させることを通例化することに成功しつつある。実際にサウジC開催→ドバイワールドC開催と転戦する馬は、日本馬を含めて増え始めている。

コース内の様子
さらにサウジアラビアは、ドバイやアブダビを含むUAE、同じように国際招待競走を3年前からスタートさせたバーレーンと3カ国連携で、双方の輸送、出走枠の確保といった緩和や融通を推進している。これはトップホースを集めることに注力するのではなく、この地域全体の競馬レベルの底上げを狙ったもの。実際に今回のサウジC開催では、パート2以下のカテゴリに属する国(日本やアメリカ、イギリス、フランスなどはパート1)の調教馬を対象にした招待競走も組んでいる。
UAEはパート1だが、サウジアラビアを筆頭にカタール、バーレーン、オマーンといった周辺諸国はいずれもパート2ないし3だ。この恩恵は、スペイン、イタリア、チェコ、ノルウェー、スウェーデンといった国の馬も受けることができ、それらの国のトップホースの目標レースにもなりやすい。
ドバイの競馬はコロナ禍の影響を大きく受け、賞金や各種経費のカットなど財政面にも及んでいる。こうした状況はサウジアラビア競馬の望んだものではなかったものの、同国の王族が積極的に世界各地で競走馬を所有する動きは活発で、ドバイとは対照的に競馬の活性化につながっている。
サウジC開催を巡っては、これまでも常に直前までバタバタ劇があったり、オーガナイザーとしては未成熟な部分はある。しかし、これらの課題が払拭される頃には、中東だけでなく、世界全体の"競馬の勢力図"も変わっている可能性が高い。それこそがサウジアラビア競馬の狙いなのかもしれない。