「修斗」、「DREAM」、「ONE」など数々のタイトルを手にしながら、過激な言動で格闘技界をざわつかせる男、青木真也。38歳の現在も、アジア最大級の格闘技団体「ONE Championship」で戦いながら、「RIZIN」の榊…

 「修斗」、「DREAM」、「ONE」など数々のタイトルを手にしながら、過激な言動で格闘技界をざわつかせる男、青木真也。38歳の現在も、アジア最大級の格闘技団体「ONE Championship」で戦いながら、「RIZIN」の榊原信行CEOなど格闘技界はもちろん、ももいろクローバーZや出版・エンタメ界からもラブコールを送られる、孤高の異端児である。

そんな青木選手に話を聞くのは、以前から親交のある元総合格闘家の大山峻護さん。柔道選手から総合格闘家に転身し、ヴァンダレイ・シウバやミルコ・クロコップ、ピーター・アーツなどと拳を交えてきた魂の格闘家だ。

そんな2人が感じる、現在の格闘技界や愛してやまないプロレスの世界、パフォーマンス論や肉体の衰えまで、溢れるアツい思いを語った。

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青木真也を突き動かす原動力「悪あがきしながらでも勝ちたい、生き延びていたい」、青木真也×大山峻護スペシャル対談2 https://cocokara-next.com/athlete_celeb/shungooyama-shinyaaoki-02/

叩かれることは怖くない。誤解曲解が生まれない方が怖い


青木:石井慧と大山さんの対談記事、読みました。おもしろかったです。

大山:石井選手は、世間では吉田(秀彦)先輩との試合で負けた印象が残っていて、そこで彼のイメージが止まっている気がして。でも本当は、総合格闘技でも世界で活躍している選手なので、それをもっと知って欲しかったんですよね。

青木:石井慧はオリンピック金メダリストっていう既得権を全部捨てて、自分の好きなように生きる道を選んだ人。オリンピックの金メダルを取ったすぐ後に格闘技界に来て、こんな既得権の捨て方があるんだって、ドキドキしましたね。安泰の人生を選ぶ人が多い中で、こっち側に行ったっていうのが、かっこいいなって。自分のルールがある、魅力のあるヤツだと思っています。

大山:本当にかっこいいと思います。石井選手は青木選手と同じで、自分を貫いているから一切ブレないですよね。僕は怖がりだから、批判が怖くて過激な発言もできなかったけれど、青木選手は矢面に立つじゃないですか。

青木:叩かれることが怖いと思ったことは一回もないですね。だって、叩かれて実際に何かされたことってあります?ほとんどないと思いますよ。だから怖いと思ったことないですね。

大山:そこがリスペクトするところですよ。でも、自分の発言が違う意味で捉われたりする怖さはないですか?

青木:むしろ、誤解曲解は生まれない方が怖いですね。大きく伝わっていかないってことなので。最近の風潮でもあるけど、余白を楽しむことがなくなっていると思うんですよ。自分たちが何に憧れていたかっていうと、余白のあるものなんですよ。プロレスなんてまさにそう。要は、どれだけ文脈のあるものを読解できるか、こっちが問われている気がして。僕はそれがやりたかったんですよ。

大山:前に青木選手がインタビューで、「闘魂は連鎖する」っていう言葉を引用してアントニオ猪木さんのことを語っていたのがすごく印象に残っています。

青木:あれは猪木さんの引退の時に、実況の古舘伊知郎さんが言ったフレーズですけど、すごくいい言葉だと思っていて。猪木さんの遺伝子、跡を継ぐものはプロレス業界だけではなく、この世の中に宿ってくるみたいなことを言っているんですよ。僕も、僕みたいなことを格闘技界でやっていますけど、これって下の世代に受け継がれていないといけないことだよなって思っていたんですよ。でも案外、格闘技界に受け継がれていかなくてもいいかなって思えてきて。格闘技に限らず、他のジャンルで受け継がれていけばいいって、気が楽になりましたね。

大山:青木選手は本当にいろいろなことを考えて生きていますよね。青木選手の言葉って、格闘技ファンだけでなく、ビジネスマンにも響いていますからね。

青木:格闘技だけにしか通じない言葉って、あんまり意味をなさないと思っていて。勝ちますとか、頑張りますとか、そんな言葉ばっかり。それって見ている人にはどうでもよくないですか。何か自分の役に立つとか、力をもらえるとか、そういう気持ちを観客と握り合いたいんですよ。それができていないとダメだなって思っています。

嫌いな奴は嫌いだし、好きな奴は好き。拳を交えて仲良くなるなんてない


大山:そういう意味で印象的だったのは、青木選手と北岡悟選手との一戦。練習相手で盟友でもある北岡選手と戦う前の対談で、「俺たちがいつか戦う時は、誰もできないような切ない戦いをしたい」ってどっちかが言っていたんですよ。その言葉が切なくて。実際、2011年の大晦日に実現した試合はそういう試合になって。盟友同士が戦う状況になって、こんなに切なくなるんだって、僕は見ていて感じましたね。

青木:どうしても競技性が傷つけ合うものなので、仲のいい人間とは戦わないって人が多いんですけど、僕はそれをいまいち理解できなくて。だって仕事じゃないですか。だから別に好きでも嫌いでもなければやるっていうのが僕のスタンスなので、正直何とも思わなかったですね。大山さんは試合が終わった後に相手選手と仲良くなったりしますか?

大山:僕は外国人選手との対戦が多かったから、そういうシチュエーションはあまりなかったかな。

青木:試合する前から嫌いな奴は嫌いだし、好きな奴は好きじゃないですか。それが試合をしたから変わるって、僕はないです。拳を交えて仲良くなるなんて、僕はないと思っています。

大山:僕は北岡戦を見て、青木選手は感情を押し殺しながらやっているんじゃないかって、すごく切ない感情が湧いてきました。青木選手は何とも思わなかったかもしれないですが、本人が思っていないような感情がファンに生まれてくるっていうこともあると思います。それにしても本当に、青木選手はドラマを作って盛り上げてくれるけど、選手としてはすごく難しいことをしていますよね。格闘技の選手でそこまで試合を作っていこうって選手はいなかったですから。

青木:でもその頃は完成度低いですよ。2015年に桜庭和志さんとやった試合とかは、ようやく自分の作ってきた感じを出せたかなって思いますね。試合前のプロモーションと、試合が終わった後の着地と含めて、ようやく自分でちゃんと作れるんだなと自信がついたのがその辺りからですね。デビューしてから10年ちょっとかかりましたね。

大山:試合を作品と捉えられるって、本当にすごいと思う。僕はどうやったら勝てるかってことで精一杯でしたから(苦笑)。

青木:大山さんの場合はまじめすぎたんだと思います。どうやったら勝ちやすい競技かっていう視点でやっていれば、あの当時の身体的、相対的な能力を含めて、もっと上で活躍して間違いない選手でしたよ。

往生際悪く、朽ち果てて生き恥をさらすまでやり続ける

青木:大山さんが格闘技界に来た時とか、トップアスリートのフィジカルを持っている人いなかったですから、色々とやりようがあったと思いますよ。だからこそ、もったいなかったですね。柔道の学生チャンピオンでしたよね?

大山:学生時代は2位ですね。講道学舎の同期で、シドニーオリンピック金メダリストの瀧本(誠)が1位でした。社会人時代に優勝したことはあります。

青木:大山さんは柔道選手として実績あるのに、格闘技に来てからはちゃんと体重があった試合ってキャリア終盤くらいでしかしていないですよね?

大山:そうなんですよ。サム・グレコ選手とか、ミルコ・クロコップ選手とか、自分より大きい選手とずっとやってきたから、最後は体がボロボロでしたね。今の青木選手の年齢の時はすでにボロボロだったから、青木選手が今38歳で総合格闘技4連勝中っていう記録はすごいなって本当に思います。しかも、まだ伸びていますよね?

青木:いや、体力とか技術はあんまり伸びてないです。むしろ、ここ4・5年は全然伸びてないんじゃないかなと思います。

大山:見ている側からすると、熟成された感じに見えますけどね。

青木:全然ですよ。練習していてもどんどん落ちていっていますから。一番練習をしていた頃、20代中盤とかの1/3くらいになっていますから。ガクンと落ちていますね。ただ、格闘技がおもしろいのは、相手は一人、対面してやるので、技術の組み合わせで何とかなる。この食材と食材を合わせてこういう味にする、そこに塩を足す、砂糖を足すとかで調整して作っている感じですね。だからこそ、能力が伸びなくなってからが、すごくおもしろいです。若いころのおもしろさと全然違って、そこが醍醐味でもある気がしますね。大山さんはまじめだから、数字が伸びないとか技術的な成長がない時に絶望したと思うんですよ。でも、実はそこからがおもしろい。体力とか制限がある中で、相手を何とか誤魔化して勝つわけでしょ。それをどう考えるか、創意工夫するのがおもしろくて。武藤敬司さんは両膝を手術してからムーンサルトプレスを封印していたけど、「ムーンサルトプレスが飛べなくなってからがプロレスはおもしろい」って言ってましたから。

大山:その境地は本当にすごいですよ。僕の場合は我武者羅に、真っ向勝負で勝つことしか考えてなかったから。

青木:選手みんな、「年とってからもまだまだトレーニングの数字が伸びている」とかいうじゃないですか。でもそれって、今までやっていなかったトレーニングを取り入れて、伸びているように見せかけているだけ。そりゃ、やっていないことやったら伸びますよ。でもそれって、本当に把握しないといけない数値、例えば反応時間が遅れているとか、そういった大切なことから目を背けているじゃないですか。ちゃんと今の自分の能力を把握して、これだけしかできないなら、じゃあどうしようって考えた方が先に進めると思うんですよね。僕は若い頃から頭を使ってどうやって勝つかってことを考えてきたので、そこらへんの訓練はできているんですよね。

大山:すごく客観的に自分を見ていられるのがすごいです。普通は目を背けたくなるもの。青木選手は現在38歳だけど、これからの競技人生をどう考えていますか?

青木:大きな怪我がなければ、これくらいのパフォーマンスを維持できるのはあと3・4年くらいかなと思います。でもスポーツのおもしろいところは、ある程度高いところを掴んだ人が、技術体力が落ちていくことを認められれば、永遠にできるんですよ。パフォーマンスが落ちていくのに比例してファイトマネーも減っていくけれど、ファイトマネーをあてにしなければやりたいことをやり続けられる訳ですよ。単純にその競技が好きで、おもしろくてやっているので、探求とか研究っていう域ですね。今の僕自身、もうそうなっているのかもしれないです。だから、引き際かっこよくなんて考えていないし、往生際悪く、朽ち果てて生き恥をさらすくらいまでやりたいなと思っています。

 対談後半は、注目される青木vs秋山成勲戦やマッチメイク秘話、今の格闘技界に思うことなど、ディープな話題を語る!

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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青木真也を突き動かす原動力「悪あがきしながらでも勝ちたい、生き延びていたい」、青木真也×大山峻護スペシャル対談2 https://cocokara-next.com/athlete_celeb/shungooyama-shinyaaoki-02/

大山峻護(おおやま・しゅんご)

5歳で柔道を始め、全日本学生体重別選手権準優勝、世界学生選手権出場、全日本実業団個人選手権優勝という実績を持つ。2001年、プロの総合格闘家としてデビュー。同年、PRIDEに、2004年にはK-1・HERO‘Sにも参戦。2012年ロードFC初代ミドル級王座獲得。現在は、企業や学校を訪問し、トレーニング指導や講演活動を行なっている。著書に「科学的に証明された心が強くなる ストレッチ」(アスコム)。ビジネスマンのメンタルタフネスを高めていくための本「ビジネスエリートがやっているファイトネス~体と心を一気に整える方法~」(あさ出版)を出版。