フィギュアスケート女子シングル。念願の五輪の舞台に立った樋口新葉が、じっくりと習得に励んできたトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をショートプログラム(SP)とフリーで計2本成功させ、出来栄え点(GOE)でもプラス評価をもらう完成度を見せ…

 フィギュアスケート女子シングル。念願の五輪の舞台に立った樋口新葉が、じっくりと習得に励んできたトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)をショートプログラム(SP)とフリーで計2本成功させ、出来栄え点(GOE)でもプラス評価をもらう完成度を見せ、総合5位入賞を果たした。五輪でトリプルアクセルを成功させたのは、女子シングル史上5人目(伊藤みどり、浅田真央、長洲未来、カミラ・ワリエワに次ぐ)。女子がトリプルアクセルを跳ぶことの難しさを物語っている。



総合5位となった樋口新葉のフリーの演技

 日本女子のレジェンドでもある五輪メダリストふたりに肩を並べたわけだが、樋口も五輪デビュー戦となった団体戦の女子SPに出場して、『ユア・ソング』でノーミス演技を披露して決勝進出(上位5カ国)に貢献。日本に初めての団体での五輪メダルをもたらす快挙を成し遂げたメンバーの一員となり、幸先のいい初陣となった。

 この勢いを個人戦につなげるには、本番リンクにいかに慣れるか、そして初体験の五輪選手村での生活をどう楽しめるかにかかってくることを、平昌五輪で洗礼を受けた経験を持つ坂本花織からはアドバイスされたはずだ。

「ずっと戦ってきて、一緒にこの期間も過ごしてきて、すごく引っ張ってもらえた存在だったし、団体戦の時も一緒に頑張ってきました」

 坂本という最高の仲間が、五輪という大舞台で戦う樋口と同部屋でそばにいてくれたことは心強かったに違いない。実際、4日に始まった団体戦から17日に終わった個人戦まで、樋口は、公式練習でも試合でも、非常に落ち着いていた。初五輪のひのき舞台に立てる喜びを味わって楽しもうとする様子も見えた。

 個人戦のSPは、トリプルアクセルを軽々ときれいに跳んだものの、連続ジャンプの2つ目のジャンプが回転不足になったり、スピンのひとつがレベル3になったり、3回転フリップにエッジ不明瞭と「q」マークがついたりと、得点をとりこぼす演技内容だった。それでも、73.51点をマークして5位発進となった。

「トリプルアクセルを跳ぶことが目標だったので、挑戦できてよかったなという気持ちでいます。だから、アクセルが決まった時はすごくうれしかったんですけど、点数が下がっちゃった原因がいろいろあったので、すごく悔しいです。団体戦からSPは2回目の本番で、すごく落ち着いて、緊張のなかでも自分らしく滑れたと思うので、すごく楽しかったです」

【「倍返し」を誓った4年間】

 フリーは、思い入れを持って滑り込んできたお気に入りのプログラム曲『ライオンキング』で勝負をした。トリプルアクセルはキレのあるジャンプを跳べたものの、SPと同じように連続ジャンプの2本目で転倒したり、回転不足の「q」マークがついたり、3回転フリップで不正エッジを取られたりと、取りこぼしを重ねてしまい、得点は140.93点にとどまった。それでも合計214.44点は自己ベストだ。

 合格点とまではいかなかったフリーを、樋口は少し複雑な面持ちで振り返った。

「いつも転ばないところで転んじゃったんですけど、それでも最後まで集中をきらさずに、独特な雰囲気を楽しみながら滑れた。最初はすごくふわふわした気持ちだったけど、自分の夢だった舞台でしっかりと初めてSPとフリーでトリプルアクセルを成功させることができ、うれしい気持ちと悔しい気持ちを両方味わえたので、すごくよかったなと思います。

 残り1試合(3月の世界選手権)ありますけど、次の試合では完璧に演技したいし、シーズンベストを更新したい気持ちがあります。今回のことを忘れずに、もっと成長していけたらいいなと思っています」

 4年前の平昌五輪シーズンは、序盤こそ好調だったものの、五輪代表最終選考会の全日本選手権で惜しくも表彰台を逃して、五輪出場は夢に終わった。当時、流行っていたドラマの主人公の決め台詞にならって「倍返し」すると誓った4年間だった。ケガに悩まされたり、成績が低迷したりして気持ちが折れたこともあったが、大技のトリプルアクセル習得を再開させたことでやる気を呼び起こした。

 ここまで決して順風満帆な競技生活ではなかったが、それでも立ち止まることなく、半歩でも前に進む気概でフィギュアスケートに打ち込んできた。そして、ついに掴んだ北京五輪代表の座だった。

 初めての五輪は樋口にとって、楽しさもほろ苦さもあっただろう。この経験は今後の競技生活に必ず生きてくるはずだ。

 同世代のライバルである坂本が、フィギュアスケート日本女子として4人目となる五輪メダリストとなったことを喜ぶ一方で、複雑な気持ちものぞかせていた。

「すごく悔しい気持ちもありますが、(坂本は)いままでで一番いい演技ができていましたし、SPもフリーも自己ベストを出していて、本当に強いなと思いました。自分ももっとできることを増やして、もっと強くなってそれを超えたいと思ったので、また4年後のオリンピックで滑りたいと思いました」

 4年後は坂本と同じく25歳で迎える五輪となる。完成形になってきたトリプルアクセルを磨き上げ、さらに4回転も跳びたい気持ちがあるという。今後のさらなる活躍に期待したいと思わせる樋口の演技と結果だった。