むさしの村ローンテニスクラブを練習拠点とする男子プロ4選手にインタビュー先の全豪オープンで3回戦進出を果たしたダニエル太郎(エイブル/世界ランキング110位)もかつて練習していた埼玉・むさしの村ロー…

むさしの村ローンテニスクラブを練習拠点とする
男子プロ4選手にインタビュー

先の全豪オープンで3回戦進出を果たしたダニエル太郎(エイブル/世界ランキング110位)もかつて練習していた埼玉・むさしの村ローンテニスクラブ(以下MLTC)。ここを練習拠点としているのが、山﨑純平(日清紡ホールディングス)、住澤大輔(橋本総業ホールディングス)、齋藤惠佑(富士住建)、正林知大(Team REC)の4選手である。2年ほど前から一緒に練習し、切磋琢磨している4選手に迫った。

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そもそもどうしてプロが4人も集まったのか。まずは4選手のコーチを務める武正真一氏(MLTCチーフコーチ)に話を聞いた。武正コーチは大学まで体育会でプレーし、大学卒業後、3年ほど神奈川・荏原SSCでコーチを務め、実家であるMLTCのコーチに就任。山﨑を小学生の頃から指導し続けており、山﨑と武正コーチのテニスに向き合う姿勢などに共感した若いプロたちが同じ方向性でやりたいと、約2年前から齋藤、住澤、正林と集まってきた。



4選手に対して武正コーチは、テニスのアドバイスを含め、どの大会に参加するのかツアー計画も一緒に相談して決めているという。ツアー計画に関しては選手のランキングによっても変わってくるが、「移動や練習、会場でのトレーニングなど、一人だと難しいこともプロが4人いれば協力できることも多くなります。今のところ参加できる大会はできるだけ“チーム”で行きたいと考えています」とプロが複数名いるメリットを生かして活動していくという。

コーチングについて特に意識しているのは、一人ひとりの考え方をよく聞く、ということ。「これまで育ってきた環境がそれぞれの選手で違うので、各選手がどのように考えているのか話をよく聞くようにしています。テニスに関して大切にしているのは、アドバイスするよりも、『今はこうだったよ』といったフィードバックです。もちろんアドバイスもしますが、その場合は選手の考えを尊重して伝えるようにしていて、選手に選択肢は与えるけれど、その選択は選手ができるように、というコーチングを心がけています」と選手自身で判断して取り組めるようなやり方をとっている。



MLTCでの練習については、午前2時間(10:00〜12:00)、午後2〜3時間(14:00〜16:00/17:00)行い、トレーニングを2時間(16:00/17:00〜18:00/19:00)行うのが基本のスケジュール。午前10時から打ち始められるように、その前に1時間程度ウォーミングアップを行う。内容については、午前は球出しやラリーなどの基本練習を、午後はポイント形式のゲームなど実戦練習を実施。ゲーム形式については「プレーの幅が広がる」ということから、シングルスだけでなくダブルスも行っている。トレーニングについては、各自のトレーナーと情報を共有し、相談しながら取り組んでいるという。

そんな武正コーチが練習の終わりに選手たちによく話すというのが、「今のすべてを出し切る」ということ。「それぞれの選手に違った課題が必ずあるので、そうした現状を把握してもらい、『これまでと違うテニスも必要だよ』と本人たちに考えさせることが大事だと思っています」と語る。最後に、4選手に対して「まずは身近にいる応援してくれる人に対して喜んでもらえるような、応援してもらえるようなプレーヤーになってほしい。そして、ここMLTCで頑張っているジュニアの憧れとなって、国内外で広く応援してもらえるような、テニス界を盛り上げていく存在になってもらいたいです」と期待を寄せていた。

〈武正コーチから見た山﨑純平〉
純平はテニスに対して真面目に取り組んでいて、時間を惜しまずテニスに努力することができる選手。誰が相手でも100%の集中力でプレーできます。プレースタイルにも表れていると思いますが、本当に真面目なんです(笑) ただ、そのあたりをもう少し変わっていけるといいかな、と。高さを生かしたサーブが持ち味ですが、高いボールに対して自分から攻撃できるように今、取り組んでいます。これからは試合の中で、相手とのさまざまな駆け引きが楽しめるような選手になってもらいたい。もっとゲーム性を高めればよりよくなると思っています。



山﨑純平プロにインタビュー
「来年の全豪の予選に出場できるように
ランキングを上げたい」

2019年には世界ランキングキャリアハイの446位(2019年9月30日付)をマークし好調だった山﨑純平。ジュニアの頃からずっと同じ、MLTCを練習拠点にしている山﨑のインタビューをお届け!



――ジュニア時代からプロ転向後も変わらずMLTCで練習している山﨑選手。ジュニアの頃からずっと同じ場所で、同じ武正コーチに見てもらっているのは、安心感がありますか?
はい。プロ転向後、最初のほうはボブ(・ブレッド)さんに見てもらって遠征もたまに一緒に行ったり、イタリアのアカデミーに練習に行って、そこから試合に出場したりしたこともありましたが、今は基本的にMLTCを拠点にやっています。以前、他のコーチに見てもらう機会も何度かありましたが、やっぱり小さい頃からずっと見てもらっている武正コーチは自分の癖なども全部わかってくれているので、そういう面でいいなと思います。ずっと同じ拠点で、同じコーチとやっている選手はあまりいないような気がしますが、(僕は)長くやっていますね。新型コロナウイルスが流行して感じたのは、他の選手は日本に帰ってきてもやりたいだけ練習ができなかったり、思うように練習ができないなど練習が制限されることもあったみたいですが、MLTCではそういうことは少ないので、練習環境という意味でもよかったかなと思います。

――MLTCを拠点とするプロが増えましたが、プロがたくさんいる環境はどのように感じていますか?
練習する相手がいるのはいいことかなと思いますね。特にコロナ禍で試合に行けなかった時に、プロの選手たちと練習できたのはよかったです。

――今はどのようなところを重点的に練習していますか?
ライジングで早いタイミングで打つことを意識しています。試合では基本的にポジションを後ろにとっていますが、そこを前でもプレーして、相手にプレッシャーをかけられるようなプレーができるようにするためです。(MLTCで練習している)コートのサーフェスはクレーですが、ライジングのタイミングを標準(普通)にするぐらいのつもりで取り組んでいます。もちろんパワーショットも必要だと思いますが、攻めようと思って前に入るとミスが多くなるので、今はどちらかというと、早いタイミングを普通にできるようにする、ということを意識しています。それができれば、意識的に少し遅くしたり、という組み合わせもできるようになって、今のテニスがよりよくなるかなと思っています。

――テニスではどんな展開が理想ですか?
できるだけ最後は前に出て、ネットプレーで決められればと思います。ストロークでエースをとっていくスタイルはちょっと現実的ではないので、ネットプレーにつながるような展開が理想ですね。早いタイミングで打てれば、ネットプレーにもつなげられると思うので、試合でそういうことをやろうと思ったらできるように練習で取り組んでいます。

――ライジングで打つにはどんなところを意識していますか?
一歩目の足の入りをいちばん意識しています。やっぱり一歩目が遅れると前でインパクトできないので。手を気にするとあまりいいショットにはなりません。足の動き、特に一歩目を意識するようになってからは、うまく打てるなという実感はあります。

――山崎選手は高さのあるサーブやネットプレーが魅力ですが、ご自身ではどんなプレーに自信がありますか?
そうですね、基本はサーブとフォアハンドです。コロナ禍では特にフォアをトレーニングなどで強化してきて、だいぶよくなってきました。以前はバックハンドのほうが安定しているかなという感じがありましたが、今はどちらかというと、フォアでも前に入っていけるようになってきているかな、と。サーブは自分の中では得意なほうだと思います。ただ、これまではサーブで崩しても、次の3球目を攻めることが少なかった。サーブを打った後に返ってきた甘いボールを前に入ってしっかり打ち込み、ネットに詰める。それを今いちばんやりたくて、相手からのストロークを前で取るライジングに取り組んでいます。サーブには自信があるので、リターンの次のボールをどれだけ追い込めるか。相手の時間を奪えるような展開を狙っていきたいです。



――17歳でプロ転向して7年が過ぎようとしていますが、プロ生活の中で印象に残っていることは何ですか?
コロナが流行する前の年の2019年に、一気に世界ランキングが上がった(キャリアハイ446位/2019年9月30日付)ことですね。やっていることはそれまでとあまり変わらないような気がしましたが、その時はサーブが好調で、大事な場面はサーブで切り抜けられる、というような感じがありました。結果を残せている時は、やはりサーブがしっかり入っている時。サーブが崩れると、全体的に崩れてしまうケースはありますね。

――いいサーブを打つ時には、どういうところを意識していますか?
特に力が入ってくると、テイクバックのテンポ(ジャンプするまでの時間)が早くなってくるんですけど、気をつけていてもタイミングがズレてしまうことがあるので、そこをどれだけ冷静にできるか。サーブのテンポが早くならないように気をつけています。いつもと同じようなタイミングでやる、というのが大事だと思います。

――2021年を振り返って、どんな年でしたか?
正直に言うと、今まででいちばん勝っていないんですよ。もちろん大会の出場数は少ないですが、それでも出場はしたので勝率がよくなかった。左手首のケガなどもあり、プレーもあまりよくなかったんです。最近になってやっとよくなってきたかなという感じです。これまではずっとアジア圏の大会にばかり出場していたのですが、コロナになってアジアの大会がほとんどなくなってしまいました。そこで昨年はアメリカやヨーロッパに行ったのですが、欧米でなかなか勝てなくて。何が必要かなと考えた時に、もう少し他のプレーヤーと違うことが必要だと思いました。そこで今、取り組んでいる“早いタイミングのショット”に行き着きました。外国人のように後ろに下がって思い切りパワーで押していくのではなく、早いタイミングでネットをとる、ということがもっと必要だ、と。やはり昨年はなかなかうまくいかなかったことが多かったですね。耐える一年だったかなと思います。



――2022年はどのように活動する予定ですか?
2〜3ヶ月ぐらいの短い期間で海外のクラブなどを拠点にやってみたいと思っています。例えば、アメリカやヨーロッパのキャンプなどを拠点に練習をしながら、そこから試合に出るという形を予定しています。そうしたキャンプなどには世界のトップ100〜300ぐらいの選手が練習に来ていて、一緒に練習できることもあるので、日本にはあまり帰らずにツアーを回ってみよう、と。そういうことを取り入れながら2022年はやっていく予定です。

――2022年の具体的な目標を教えてください。
次(2023年)の全豪オープンの予選出場に引っかかるぐらいまでランキングを上げることです。ここは最低レベルかなと思っているので、今年の前半でどれだけ結果を残せるか。今の調子でしっかり戦えれば、勝ってランキングも上げることができると思っています。どれだけケガなくコンスタントに結果を出せるか、というところが大事だと考えています。

――将来の夢を教えてください。
どの選手もそうだと思いますが、グランドスラムで優勝するのがいちばんの目標だと思っています。そのために、何をするかを考えると、そこで戦えるようなフィジカルをつくることが必要なので、今はトレーニングで体を大きくできるようにしています。



――成果は出てきていますか?
昨年の全日本選手権が終わったあたりから、体重が3kgぐらい増えました。今年は、3月ぐらいまでは試合があってもウエイトトレーニングをメインにやっていこうと思っていて、試合の中でもトレーニングで追い込みながらやっていこうと考えています。

――それでは体を大きくするために食事にも気をつかっていますか?
はい。体重を増やすためにとにかく食べています(笑) でもなかなか増えづらくて…。僕は脂肪も少ないので、脂なども気にせず食べるようにしていて、朝・昼と食べて、練習中もゼリーを飲んだり、練習が終わってトレーニングが始まる前にもう一回食べて、その後に晩ご飯を食べたりしています。また、プロテインを1日3回ぐらい飲んで、それでやっとちょっとずつ増えています。グランドスラムで戦えるような体づくりも頑張っていきます。


体づくりも重視して取り組んでいるという山﨑。さっそくその成果が表れているようで、1月31日〜2月6日に行われたITF(国際テニス連盟)の男子ツアー下部大会M15モナスティル大会(チュニジア・モナスティル/ハードコート/賞金総額1万5千ドル)では、上杉海斗(江崎グリコ)とペアを組んで出場したダブルスで見事優勝を果たした。幸先のいいスタートを切った山﨑の今年の活躍に注目だ。


ラケットのフレーム部分に鉛を張って重さを330gほどにしているという山﨑。「振れるギリギリまで重くしたほうが質の高いボールが飛んでいきますね」

【プロフィール】Jumpei Yamasaki(やまさき・じゅんぺい) ■プロテニスプレーヤー ■所属:日清紡ホールディングス ■1997年7月2日生まれ(24歳)、埼玉県加須市出身 ■身長180cm、体重75kg ■右利き(両手打ちバックハンド) ■プロ転向:2015年4月 ■ATP世界ランキング774位(2022年2月14日付)、JTAランキング26位(2022年2月15日付)