チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦が始まった。その第1戦、スポルティング対マンチェスター・シティが、開…

 チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦が始まった。その第1戦、スポルティング対マンチェスター・シティが、開始早々からマンチェスター・シティの一方的な展開(結果は0-5)になったのに対し、パリ・サンジェルマン(PSG)対レアル・マドリードは、後半のアディショナルタイムにスコアが動く接戦になった。

 PSG対レアル・マドリード。59%対41%という前半のボール支配率が示すとおり、試合は立ち上がりからPSGのペースで進んだ。レアル・マドリードは防戦一方に追いやられた。
 
 失点を許すのは時間の問題かと思われたが、時間が経過するに従いレアル・マドリードが逃げ切れるかも、というムードに変わっていった。CLを13度制している欧州一の名門が、変に色気を出さず、プライドを捨て、弱者に徹し、後方を固めたことで、PSGが遅攻を余儀なくされたことが、その大きな原因だ。

 PSGはボール支配率の高いサッカーを得意としないチームだ。組織的に攻めるというより、前線に並ぶスーパースターの個人技に委ねるスタイルを取る。バルセロナのようにボールの支配率を高めながら、無遠慮に攻めてくる相手をめっぽう得意にする。

 GKティボー・クルトワの存在も見逃せない。後半5分、右サイドバック(SB)アクラフ・ハキミのパスを受けたキリアン・エムバペの右足シュートを防いだシーンはもちろん、後半16分には、リオネル・メッシの左足PKを鮮やかに止めている。レアル・マドリードが、初戦のアウェー戦を0-0のスコアで乗りきる可能性がグッと膨らんだ瞬間だった。



レアル・マドリード戦で貴重な決勝点を決めたキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)

 PKを外したメッシは、それ以外のプレーも低調だった。並の選手ではないので、評価はおのずと厳しめになるが、CLの決勝トーナメントでスーパープレーを連発したかつてのような圧倒的なパフォーマンスは、もはや望めそうもない、老け込んだ印象を受けた。エムバペと比較すると一目瞭然。今が旬の選手との差が鮮明になるのだった。
 
 4-3-3の左ウイングで構えたエムバペに対し、メッシはその0トップとして、真ん中のやや低い位置に構えた。

【ネイマールも動きは重い】

 ウイングと真ん中、ドリブルしやすいのは相手のプレッシャーを片側からしか浴びないウイングだ。メッシのほうがエムバペに比べ、自慢のドリブルを発揮しにくい環境に置かれていたことは確かである。しかし、つい1年程前までは、そうしたなかに置かれても、再三再四、敢然と相手に脅威を与えるドリブルを仕掛けていったものだ。

 その回数がグッと減った。その結果、推進力が鈍化した。レアル・マドリードを楽にした大きな原因だった。

 レアル・マドリードは時間の経過とともにアグレッシブになっていった。前半41%対59%だったボール支配率の関係は、フルタイムでは43%対57%まで改善された。後半に限れば45%対55%ぐらいだったと思われる。アウェー戦であることを踏まえれば、まずまずの数字まで回復したことになる。

 だが、やはり欧州一の名門という看板を持ち出せば、物足りない数字に映る。当代一の金満クラブとはいえ、CLをまだ一度も制していないPSGに対して、支配率で簡単に屈する姿は哀れだ。

 トニ・クロース、ルカ・モドリッチ、カゼミーロ、カリム・ベンゼマと、主要ポジションには、何年も前から同じ名前が並ぶ。集団としての経験値は高いが、勢いに欠ける。スペインリーグを制すことはできてもCLは難しい。もしPSGに競り勝つことはできても、決勝戦までは難しいと言わざるを得ない。

 決勝ゴールが生まれたのは、後半のアディショナルタイム。48分台の出来事だった。左サイドからエムバペが定石通り、DFとDFの間を割って入ると、GKクルトワとの1対1の局面が待ち受けていた。メッシのPKを止めたクルトワが、その余勢を駆ってエムバペのシュートをも止めるのかと半分期待した瞬間、ボールはその開いた股の間を通過していった。

 メッシとエムバペ。両者の明暗はクルトワによって分かれた格好だ。お互いはチームメイトではあるが、どちらが驚異的なアタッカーか、比較される間柄でもある。エムバペが光れば光るほど、メッシは霞んで見えた。衰えが炙り出されることになった。

 後半27分には、右ウイングで出場したアンヘル・ディ・マリアと交代でネイマールが登場した。昨年11月28日のサンテチエンヌ戦以来となる出場を果たしたが、動きは軽やかさに欠けた。これもエムバペが際立って見えた理由だ。

 メッシの衰えが明るみに出ても、ネイマールが病み上がりで重たそうにプレーしても、PSGはエムバペの一撃で勝利した。スコアは1-0ながら、サンティアゴ・ベルナベウで行なわれる第2戦で、PSGがレアル・マドリードに逆転を許す可能性はせいぜい2、3割と見る。

 準々決勝進出に向けて視界良好と言えるが、その先はどうだろうか。マンチェスター・シティ、バイエルン、リバプールなど、英国ブックメーカー各社の予想でPSGの上を行く本命候補たちに優位な戦いを挑めそうかと言えば、難しいと言いたくなる。

 メッシの状態がいまと変わらぬままならば。フランスリーグでは目立たないかもしれないが、CLのベスト8以降の戦いではそうはいかない。お荷物になる恐れがある。PSGはメッシ次第。それぞれの前途に目を凝らしたい。