五輪連覇は確実と思われていた、スピードスケート女子チームパシュートが銀メダルだった。すばらしい結果なのは間違いないが、金メダルが見えていただけに悔しい結果となった。スピードスケートは個人競技とはいえ、大きな大会ではチームの流れが大切だとい…

 五輪連覇は確実と思われていた、スピードスケート女子チームパシュートが銀メダルだった。すばらしい結果なのは間違いないが、金メダルが見えていただけに悔しい結果となった。スピードスケートは個人競技とはいえ、大きな大会ではチームの流れが大切だということを実感させられた。



表彰式では笑顔を見せた(左から)佐藤綾乃、高木美帆、高木菜那

 北京五輪のスピードスケートで男子は、500mで森重航(専大)が銅メダルを獲得した一方、エース・新濱立也(高崎健⼤職員)の20位というショックも大きかった。

 女子は、高木美帆(日本体育⼤学職員)が最初の3000mでメダルを逃し、優勝確実と思われていた1500mでまさかの銀メダルだった。それでも専門外の500mで銀メダルを獲得し、流れは変わったかと思われた。しかし、同種目のメダル候補だった小平奈緒(相澤病院)が、まさかの17位。全体的に不調というわけではないが、2018年の平昌五輪とは違う空気がチームには流れているように感じた。

 女子チームパシュートはROCを相手にした準決勝で、日本は序盤から相手を大きくリード。終盤は少し流す感じのゴールで、余裕を持って勝ち上がり、オランダと競り合って勝ち上がったカナダより有利に立っていると思われた。

 だが、その2時間後に行なわれた決勝では、カナダの後半の粘りに追い込まれる結果になった。隊列を組んで滑り、6周で勝負するチームパシュート。序盤は想定どおりにリードをして、1周半通過時点では0秒91差をつけたが、そこからは警戒していたように、徐々に追い込まれていった。

 半分の3周を終えた時点でその差は0秒59。次の周回では先頭に立った高木菜那(日本電産サンキョー)が勢いのある滑りで引っ張って0秒86差に戻して勝利を手繰り寄せたかと思われたが、5周目から美帆が引っ張り出してからは再び詰められた。

 佐藤綾乃(ANA)はその時の気持ちをこう振り返る。

「私は自分のラップタイムを見ることしかできなかったので、相手がどの位置にいて、どのくらいリードしているかわからなかったけど、ふたりのコーチの感じでちょっと焦りというか、相手が近くに来ているんだなというのを少し悟りました」

それでも残り半周で0秒32差があり、なんとか逃げ切れるタイムだったが、ラスト80m過ぎに3番手を滑っていた菜那がバランスを崩して転倒。カナダに敗れる結果になった。ギリギリのところまで攻めた戦いをしたことで、脚が残っていなかった。

 3日前の予選は、2分53秒61の五輪新記録で1位通過をして実力を見せつけた日本だが、決勝の相手はW杯3連勝中のカナダ。侮れない存在であることは間違いなかった。

 菜那も予選後、「1番で通過すると決めていたので、それができたのはよかったですが、ラスト2周はオランダやカナダに比べるとラップタイムが落ちていたので改善点だと思う。前半をもう少し上げていくかなど、考えなければいけない」と警戒していた。

【決めきれなかった戦法】

 決勝のあとで美帆は、こうレースを振り返る。

「最初をもう少しいくべきだったかなというか、カナダに最初のほうで、もう少し差をつけることができていれば結果も違っていたのかなとも思います。結果的にはどうなっていたかわからないことですが、そこは難しく感じているところはあります。最後まで持たせることを意識しすぎて......、決して遅いラップタイムで滑ったというのではなかったけれど、『本当にギリギリまで攻めていたのかな?』とは考えています」

 4年前の平昌五輪は、W杯などで圧倒的な強さを見せつけていたことで自信を持って臨めていた。だが、今回は状況が違った。2シーズン前にはコロナ禍で、日本連盟が国際レースへの派遣を中止したため、世界で実戦の機会を得られなかった。

 そんな状況で、世界のチームパシュートの滑り方も変化し始めていた。男子は先頭交代をせずに3人が接近して滑り、うしろの選手が前の選手をプッシュしてスピードを維持させる手法を取る国も出てきた。日本チームも昨年2月の長野選抜でその方法を試し、男子はうまくいって好タイムを出したが、女子は途中で転倒して結果を出せなかった。

 そのため、作戦決定は今季のW杯に持ち越されたが、開幕戦直前には菜那がPCR検査で陽性が出て欠場となり、第1戦ではカナダに敗れた。そして第2戦のソルトレークシティ大会では先頭交代を1回に減らし、プッシュを重視する作戦で臨み、ラスト1周では同走のカナダに1秒97という大量リードを奪いながらも、その直後に先頭にいた菜那が転倒して結果には繋がらなかった。次のカルガリー大会でも、カナダに敗れて作戦を決定することができず、年が明けてから平昌五輪の時と同じ3回の先頭交代で臨むことを決めていた。

 W杯3連勝で勢いに乗っているカナダに対し、日本は実力的には圧倒的な強さを持ちながらも、W杯で自信を持ちきれなかった。それもあって、平昌五輪の準決勝では佐藤を休ませて菊池彩花を起用したように、決勝へ向けて菜那か佐藤を休ませて力を蓄えさせる作戦を取れなかったのだろう。

 五輪という大きな大会で流れを掴む難しさはもちろん、今シーズンの流れの悪さも、今回の結果につながったと言える。

 北京五輪も後半に差しかかっているが、ひとつでも納得のいく滑りをして、日本チームが笑顔で帰国できることを願うばかりだ。