Dリーグのレギュラージャッジを務めるテリー伊藤テリー伊藤 インタビュー前編 日本発のプロダンスリーグ「Dリーグ」。2021年1月に開幕したDリーグは現在、セカンドシーズンに突入し、レギュラーシーズンの12ラウンドのうち、半分の6ラウンドが終…



Dリーグのレギュラージャッジを務めるテリー伊藤

テリー伊藤 インタビュー前編

 日本発のプロダンスリーグ「Dリーグ」。2021年1月に開幕したDリーグは現在、セカンドシーズンに突入し、レギュラーシーズンの12ラウンドのうち、半分の6ラウンドが終了した。出場11チームが約2週間に1回、オリジナルダンスを披露し、ラウンドごとに順位を決定していくDリーグで、ジャッジを務めているのが、テリー伊藤だ。

 ジャッジはダンサージャッジが4人、エンターテイナージャッジが4人の計8人。テリー伊藤はエンターテイナージャッジ枠で、そのなかでも唯一レギュラージャッジとして、全ラウンドを見る立場だ。

 80~90年代を代表するテレビ番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の企画・総合演出を手掛け、のちに社会的なブームとなった『ダンス甲子園』の生みの親であるテリー伊藤が、再びダンスに関わったのは、どんなきっかけだったのだろうか。

「リーグの方が声をかけてくれたんです。ダンスの細かいところは、ダンサージャッジの方が評価していくので、僕はどちらかというと、このチームの子たちは、将来性があるなとか、人気が出そうだなとか、そんな魅力を発見しようかなと思っていて、そのニュートラルな視点のジャッジができるということで、僕を選んでくれたんじゃないかな」

 先の『元気が出るテレビ!!』の他に、『ねるとん紅鯨団』『浅草橋ヤング洋品店』など数々の番組で一流タレント・芸人を見続けてきたテリー伊藤。光る逸材を見つける、その慧眼は比類なきものだ。独自の視点を持つ彼がダンスをジャッジする基準は、厳しくもとてもストレートだ。

「ワクワクするとか、かっこいいとか、面白いとか、新鮮とか、見たことないとか、それが基準ですね。Dリーグは優勝賞金が3,000万円ですから、アマチュアではなくプロ。だから頑張るだけじゃダメで、お客さんを楽しませなくてはいけない。僕はプロフェッショナルな人やチームが好きなんですよ」

 エンターテイナージャッジの審査項目は、エナジー、クリエイション、表現力、スタイル、完成度の5項目で、それを各2点で採点し、合計すると10点満点となる。

 テリー伊藤がセカンドシーズンのラウンド6までで10点満点をつけたのは、全部で5回。そのなかで、とくにテリー伊藤の心に残っているのが、ラウンド2のSEGA SAMMY LUX(セガサミー ルクス)だ。日本屈指のHIP HOPダンサーCanDoo(キャンドゥ)率いるこのダンスチームは、奇抜なファッションとバラエティに富んだ世界観を表現する実力派集団。このパフォーマンスは、セカンドシーズン最大となる2位に6.5ポイント差をつけて圧勝したショーケースだった。

「僕はあの時に、『これはオリンピックにも出られる』とコメントしたんですよ。それぐらい際立っていましたね。あのツンツンの衣装もすごかったし、SPダンサーとして登場したRAARA(ラアラ)もよかった。あれが今シーズンのここまでで一番かっこいいと思ったよ」

ラウンド2で圧勝したSEGA SAMMY LUXのパフォーマンス

 ©D.LEAGUE 21-22

 そして、10点満点をつけたパフォーマンスのなかで、ラウンド5のLIFULL ART-RHYTHM(ライフル アルトリズム)も強烈な印象として残っているという。独特の世界観を作り上げる新規参入チームで、現状ではなかなか上位に食い込めないが、テリー伊藤はダンスのクオリティー以上に、全体の構成力に最大級の賛辞を贈った。

「あれは僕だけ点数がいいんですよ。最初に(チーム紹介の)VTRが流れますけど、これまで、『前回は悔しかったです』とか、『今回は頑張ります』とか、意気込みを語ることが多かったんです。でもLIFULL ART-RHYTHMはVTRの1秒目から、エンターテイメントをやっていたんですよ。ちゃんとVTRの使い方をわかっているなと思いました。この演出は初めて見たので、かっこいいなと思ったし、もちろん踊りもかっこよかった」

テリー伊藤が絶賛したラウンド5のLIFULL ART-RHYTHMの演出

 ©D.LEAGUE21-22

 LIFULL ART-RHYTHMは、入場直前の紹介VTRで、ダンサーの$(ドル)が物語の序章を話し始めた。期待感が膨らむなかでスタートしたパフォーマンスでは、その先のストーリーが個性的なダンスで展開され、最後は誰もが納得できる結末を迎えた。

 長年演出家として活動してきたテリー伊藤は、「このVTRの作り方を見て、ほかのチームが今後、VTRからパフォーマンスが始まっているという意識を持っていくんじゃないかと思うので、すごく楽しみにしている」と、ひとつの分岐点となるパフォーマンスだったと感じている。

 そして現在、総合1位に立つのは、LA発のクランプをダイナミックに魅せるFULLCAST RAISERZ(フルキャスト レイザーズ)。2位がSEGA SAMMY LUX。そして3位がDリーグ唯一のブレイクダンスチームKOSÉ 8ROCKS(コーセーエイトロックス)だ。

 これらのチームが上位にいる理由を、テリー伊藤は「自分たちのよさをわかっているから」と言う。たとえば、FULLCAST RAISERZは、鍛え上げられた肉体が武器。そのたくましい筋肉を見せつつダンスを踊ることで、パワフルさ、荒々しさを表現している。

Dリーグセカンドシーズン前半戦を終え首位に立つFULLCAST RAISERZ

 ©D.LEAGUE21-22

 ただテリー伊藤は、まだ満足はしていない。エンターテイメントをとことん追求してきた自身の経験から、「彼らにはまだ迷いがある。たとえはちょっと古いけど、遠山の金さんが、最後に桜吹雪の入れ墨を見せていたように、毎回必ず最後に脱いだほうが面白い」と笑う。

 セカンドシーズンも折り返しを迎え、2月13日(日)から残りの6ラウンドがスタートする。テリー伊藤は現在下位にいるチームにも十分に上位進出の可能性があると感じている。

「どのチームも実力があるんだから、伸び悩んでいるというより、迷っているんだな。Dリーグはお笑いの舞台と結構近くて、新ネタを考えてお客さんの前でやってみたけど、『しまった。ウケなかった』という感じだと思う。

 ひとつの打開策は、SPダンサーだね。FULLCAST RAISERZも、SEGA SAMMY LUXもSPダンサーを入れて優勝したよね。SPダンサーを入れると化学反応が起こるから、入れたほうがいい。結果はまだわからないよね」

 SPダンサーは期間限定で出演するダンサーで、起用することで作品の幅を広げる効果がある。実際に過去何チームも順位を上げることができている。

 後半戦が始まろうとしている今、テリー伊藤は約2週間に1回、会場に足を運び、ジャッジという形で若者たちと関われることに喜びを感じている。そして彼らの顔を見るうちに少しずつ、気持ちが変化してきた。

「僕はつい最近まで、2週間に1回、新しい音楽とダンス、それから衣装も作るって大変だなと思っていたんですけど、でも最近は考え方が変わって、こんな幸せな人生はないなと思ったんですよ。こんなにやりがいのあることってないですよね。お正月よりも、クリスマスよりも楽しいじゃないですか。

 だって、2週間後の大会に向けて、みんなで集まって、何やろうかって相談しながら、心をひとつにして、ぶつかっていくんですよ。うらやましいですよね。彼らは今、人生で一番すごい瞬間を生きているんだなと思うよ。

 彼らが10年後、20年後、今日の日を振り返った時、なんて素敵な日々だったんだろうと思うはずだし、今が一番青春の輝いている時だから、悔いなくやってほしいなと思いますね」

 テリー伊藤の言葉から、必死に生きる若者たちを心の底から応援したいと願う気持ちが伝わってきた。その表情は優しかった。

【Profile】
テリー伊藤
1949年生まれ、東京都出身。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!」『ねるとん紅鯨団」『浅草橋ヤング洋品店」など数々のテレビ番組の企画・総合演出を手掛け、『ダンス甲子園』の生みの親でもある。現在は演出業のほか、プロデューサー、タレント、コメンテーターとしてマルチに活躍する。