北京五輪、フリー演技に臨む羽生結弦【 「僕なりの4回転半はできた」】 2月10日、北京五輪フィギュアスケート男子フリー。羽生結弦が冒頭に跳んだ4回転アクセルは、これまで見ていたものより回転は鋭く気合いも入ったジャンプだった。2分の…


北京五輪、フリー演技に臨む羽生結弦

 

「僕なりの4回転半はできた」】

 2月10日、北京五輪フィギュアスケート男子フリー。羽生結弦が冒頭に跳んだ4回転アクセルは、これまで見ていたものより回転は鋭く気合いも入ったジャンプだった。2分の1から4分の1までの回転不足のアンダーローテーションと判定されたが、片足で着氷してあとほんのちょっとで回転不足4分の1以内の「q」マークのジャンプになるところだった。

 2月8日のショートプログラム(SP)では、最初の4回転サルコウで他の選手がつけた穴にハマって1回転になってしまって8位発進。4回転サルコウは、練習でも余裕をもって完璧に跳んでいて、羽生自身も「フォームもタイミングも完璧だった」と言う。

 それでもSP後、体力は十分に残っていて、コンディションもしっかり整えた状態で次に臨めると、フリーへ向けて自信を持っていた。

 だが、2月9日の公式練習の曲かけで4回転アクセルを両足着氷したあと、氷上で何度か回転を確かめてからしっかり軸を作って臨んだ4回転アクセル。3回パンクしたあとの1本は、それまで以上によく回りながら両足で着氷した。だが、そのあとに右足首を気にする素振りを見せていた。

 そして、フリー当日の早朝の公式練習でも痛みがある様子が見えた。自分の曲かけ練習の順番を待たず、20分弱でリンクをあとにしていたのだ。フリー後に右足首の状態を質問されると、羽生はこう答えた。

「正直、詳しく話すかどうかはすごく悩んでいます。勝ったなら言ってもいいかなと思っていたけど......。どう言ったらいいのかわからないですけど、かなりいろいろ手を加えていただきました。だからこそ、何とか氷の上に立てたという感じです」



4回転アクセルでは転倒したものの鋭い回転を見せた

 そんな状況で臨んだフリーは、精神的にも肉体的にも追い込まれている状況だった。羽生は気持ちをこう明かした。

「『絶対に(4回転)アクセルを降りる!』と思っていました。絶対に回りきるんだ、と。それを跳ぶために北京五輪に来たから、自分のスケートを絶対に出しきると......」

 その思いが、回転速度の速い、キレ味のある4回転アクセルにつながった。

「手応えはよかったですよ、すごく。『あっ、これが4回転半の回転速度なんだ』って感じました。そこからランディング(着氷姿勢)をつくるのはちょっと危険すぎるかもしれないけど、人間にはできないことかもしれないけど。でも、僕なりの4回転半はできたのかなと思いました」

 これまでなかなか見られなかった世界を、やっとのぞいた瞬間だった。

【ミスのなかでも見せた「らしさ」】

 だが、着氷した右足首へのダメージは大きかったのだろう。次の4回転サルコウはこれまで長く付き合い、羽生の体の一部になったとも言えるジャンプ。踏み切りに狂いはなかったが、着氷では足を踏ん張れずに崩れるように転倒してしまった。SPを終えた時点で3位の宇野昌磨とは10.75点差。このふたつの転倒でメダル争いに食い込む確率は極めて低くなった。

 しかし、そこからは羽生結弦らしさを見せた。当初予定していた五輪へ向けての大技のひとつ、トリプルアクセル+3回転ループは足首の故障があったために封印し、昨年12月の全日本と同じトリプルアクセル+2回転トーループにしたが、その流れで跳ぶ次のジャンプは、全日本で跳んでいた3回転ループから基礎点が0.40点高い3回転フリップにしてきれいに決めた。

 そして、ステップシークエンスもレベル4でジャッジのGOE(出来ばえ点)加点は4〜5点のみが並ぶ完成された滑り。そのあとの4回転トーループ+3回転トーループと、4回転トーループ+1オイラー+3回転サルコウ、トリプルアクセルはそれぞれ2.44点と3.12点、3.20点の加点をもらうジャンプにした。

 ミスがあったことで演技構成点は「パフォーマンス」と「音楽の解釈」が8点台と伸びず、他の3項目も9点台前半に抑えられて90.44点と伸びなかったが、フリーの得点はネイサン・チェン(アメリカ)と鍵山優真に次ぐ3位の188.06点。SPとの合計は283.21点で、4位だった。

 演技終了後に羽生は約6秒間、そのまま天に向かって差し上げた両手を止め、そして右手で刀を腰に収めるような動作をした。羽生は「自分の魂を天に送るようなイメージが僕のなかにあるんです」と説明する。そして「最後に刀をしまうまでが、自分のプログラムのストーリーだったかなと思っていました」と。

 3度目の五輪を、「今回は挑戦しきった、自分のプライドを詰め込んだ五輪です」と言った羽生。挑み続けることに生きようとする強い意志を、存分に見せてくれる4位だった。