【短期連載】なぜ日本のFA制度は活用されないのか第5回「ソフトバンク三笠GMが語るFAと育成のバランス」@後編「又吉克樹…
【短期連載】なぜ日本のFA制度は活用されないのか
第5回「ソフトバンク三笠GMが語るFAと育成のバランス」@後編
「又吉克樹の獲得について聞いた」
コロナ禍で日本では外国人の入国制限が敷かれ、プロ野球でも新たに契約した選手が来日できないなど、多大な影響が表れている。"助っ人"とも言われる彼らは優勝争いを大きく左右する存在で、各球団がどんな戦略を持って獲得するかは運営方針が色濃く表れる部分だ。
NPB随一の選手層を誇るソフトバンクでは、キューバ勢が長らく主力を担ってきた。2021年シーズンオフには右打者のアルフレド・デスパイネ、ジュリスベル・グラシアル、"最強左腕"リバン・モイネロと契約延長を果たしている。さらに育成枠では、ドミニカ共和国とメキシコから10代の3選手、21歳の投手を獲得した。
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リバン・モイネロもキューバで見つけた逸材だ
カリブ海諸国で開拓を進める理由について、ソフトバンク三笠杉彦GMはこう説明する。
「なぜスカウトを中南米に置いているかと言うと、ラグビーでいうニュージーランドと同じで人材の宝庫だからです。組織におけるダイバーシティを考えた時、まずアプローチするのは中南米だろうと思っています」
ソフトバンクは今後も才能豊かなラティーノを発掘する方針で、その任務を前線で担うのが萩原健太スカウトだ。もともと日本ハムで英語の通訳をしており、のちにスペイン語を習得してソフトバンクで中南米を担当するに至った。
昨年には現役東大野球部員の齋藤周(あまね)氏とGM付データ分析担当として契約して話題になったが、ホークスは選手以外でも各分野でスペシャリストを揃えている。
【女性スタッフも積極的に採用】
前述した萩原スカウトやGM補佐兼データ分析担当ディレクターの関本塁氏は、業界で特に知られる存在だ。29歳の牧田恭平氏はアメリカの大学球界でプレー経験があり、今年2月にスカウティングコーディネーターとして入団した。
次々とグラウンド外でも優秀な人材を見つけ出し、適材適所に配置していることも常勝軍団づくりの礎(いしずえ)にある。
「三軍制など組織を拡大するにあたり、選手だけでなくフロントオフィスやスタッフのダイバーシティも留意しています。今までプロ野球のなかでフロントマンとして頑張ってきた人も含め、新しいものをつくっていくような組織が一番強い。今年は女性スタッフも積極的に採用したいと考えています。こうした組織づくりは、メジャーリーグの球団はみんなやっていることです」
そう語る三笠GM自身、球界では異色のアイデンティティを持っている。NPB球団では元選手がGMを務めるケースが多いが、三笠GMはラグビー出身だ。
新日鉄釜石ラグビー部が1978年から7連覇時の部長を父親に持ち、自身は東京大学ラグビー部でプレー、監督を2年間務めた。卒業後は日本テレコムに就職し、買収されたソフトバンクに転籍する。2008年から球団業務に携わり、2019年GMに抜擢された。
「ラグビーで日本一にずっとなっているチームの雰囲気を幼い頃に肌で感じてきたことは、自分のなかでとても大きいです。ソフトバンクではビジネスパーソンとしてオーナーの孫正義、社長の後藤芳光、先代社長の笠井和彦さんなどに教えていただき、すごく身になっています。大きく言うと、そのふたつを組み合わせて今の自分がいます」
ソフトバンクが買収した2004年から、ホークスは「めざせ世界一」を球団スローガンに掲げてきた。2011年に始めた三軍制はそこを見据えた取り組みのひとつで、確かな成果が出た今、先を見据えて動き始めている。昨年12月、スポーツ振興部野球振興課を野球振興部に昇格させたのは、その一環だ。
【SDGsが求められる時代】
「ホークスのベースボールオペレーションのなかで、ジュニア世代の育成にどういうチャレンジができるか。言ってみれば、三軍の拡大です。18歳から上のプロ組織の拡大とともに、サッカーやほかのスポーツが取り組んでいるユース世代の拡大にどんなアプローチができるかを、今後のテーマとしています」
NPB球団がJリーグクラブのように下部組織を持つという発想は長らく語られてきたが、具体化には至っていない。球界には「プロアマの壁」がそびえ、「学生野球とハレーションが起きかねない」と二の足が踏まれるからだ。
一方、野球界はそのあり方を根底から揺らがせる問題に直面している。10年ほど前から急激に進む、野球競技人口減少だ。小中学生の野球人口は、この10年で3分の2以下に減少した。
このまま野球をする子が減り続ければ、プロ野球の人気も落ちていき、ひいてはNPBのレベルが下がり、そこを目指す子どもが少なくなっていく。恐ろしい負のサイクルが想定されるなか、プロもアマも有効な対策を打てていないのが実情だ。
暗い未来を防ぐべく、もっとプロ野球としてできるアプローチがあるのではないか。三笠GMはそう考えている。
「野球人口を拡大するために、ある程度の事業規模を持っているプロ野球が打って出ることは必要だと思っています。お金ばかり使う慈善事業のような形ではなく、中長期の事業計画に対してやったほうがいい。
今の時代はSDGsが求められ、企業のブランド価値や株価にも影響してきます。企業の営利やトップチームの勝利を求めればいい、という考え方は時代遅れで、社会と我々の超長期的な成長にも役立つシナリオをしっかり考えて取り組むことがとても大事です」
そうした意味では昨年、熊本と大分の2球団で発足したヤマエ久野九州アジアリーグは球界に新たな可能性を感じさせられるものだった。事前にソフトバンクとの交流戦など協力を得られたことが、リーグ誕生への後押しになったと田中敏弘代表理事は明かしている。今季は北九州を加えて3球団に拡大される一方、ソフトバンクには三軍の試合機会創出というメリットがある。
【世界一を目指すからこそ...】
「単に両手を挙げて『協力する』と伝えたのではなく、『僕らの強化に役立たないくらいのレベルであれば、試合はしない』とも言いました」
三笠GMがそう伝えたのは、片方に負担がかかる"慈善事業"的なあり方でなく、"win-win"を創出していくことが"サスティナブル"につながるからだ。
日本で2005年にスタートした独立リーグは、約30球団まで膨れ上がった反面、ほとんどが経営的に芳しくない。一方、社会人野球で企業チームが減るなか、独立リーグが受け皿になっているという意義はある。
独立リーグが存続できる背景には、巨人やロッテなどとの交流戦が収益源になっていることもある。現状、NPBの二軍は"コストセンター"だが、独立リーグも加え、MLBのマイナーリーグのように独立採算制を模索する道はないだろうか。
以上のような話が、すでにNPBのオーナー会議で議題に挙がっているという情報もある。
「そういう話もやっていきたいと思っていますが、まずはコロナから明けてホークス自体が事業を正常に展開できることが第一優先だと思っています。共倒れしても仕方ないですから」
三笠GMはそう話すと、大所高所な視点から続けた。
「プロ野球、独立リーグ、アマチュアについて、再構成を考えること自体は常にやるべきだと思っています。それにはふたつの意味があり、ひとつはプロ野球というトップレベルに行く選手を輩出する母体として、今の高校、大学、社会人、独立リーグ、プロ野球のファームという分け方が本当に適切なのか。その検証はするべきだということです」
もうひとつの意味は、野球選手のキャリアという観点だ。
「プロ野球は"芸人養成機関"のようなもので、成功するのはひと握り。そういう人がメジャーリーグなどトップレベルで戦っていくという世界です。幾多の競争主義のなかでやっていく選手の生活を担保しながら、その競争から下りる人のセカンドキャリアも担保しないといけない。
そういう意味でアマチュアとプロ野球のファームを合わせて、どういう形が適正か。"プロアマの壁"なんてものは関係なく考えるべきではと思っています」
ソフトバンクには"世界一"という目指す先があるから、編成面のトップに立つ三笠GMは以上のような思考になるのだろう。
本連載ではNPBでほとんど活用されないFA制度をさまざまな観点から見てきたが、今、日本球界が岐路に立っているのは間違いない。どうすれば、もっと魅力的なプロ野球として発展していけるのか。
そうした文脈においても、世界一を目指すソフトバンクの発想は球界の未来に一石を投じているように感じる。
(おわり)