SPでは冒頭のミスがあり8位だった羽生結弦【意外すぎるほど意外なミス】 2月8日、北京五輪フィギュアスケート男子シングルのショートプログラム(SP)。五輪3連覇を期待されていた羽生結弦の演技は、ハプニングとも呼べるミスから始まった。 直前の…



SPでは冒頭のミスがあり8位だった羽生結弦

【意外すぎるほど意外なミス】

 2月8日、北京五輪フィギュアスケート男子シングルのショートプログラム(SP)。五輪3連覇を期待されていた羽生結弦の演技は、ハプニングとも呼べるミスから始まった。

 直前の6分間練習では、力みのない回転できれいに2本決め、最後はジャンプに入っていくコースの確認もしていた冒頭の4回転サルコウ。静かに滑り出しつなぎのステップからイーグルを入れるいつもの滑りだったが、踏みきる瞬間に氷をとらえられず1回転にとどまってしまった。

「2019年の世界選手権のショートで氷の穴にハマってミスをした時は、6分間練習の時からあまりにも、それこそミリ単位でコントロールできすぎていたので、本番でもその時(練習時)に跳んだ自分のトレースにハマってしまったんです。今回はその経験もあったので、6分間練習ではコースを少しずらして跳んでいました。それで本番は、完璧なフォームで、完璧なタイミングでいったら、何か跳んだ瞬間に穴に入っていて。誰かのトーを突いた時の穴だったんです。だからもうしょうがないですね」

 前日午後には、サブリンクで初練習をした羽生だが、SP本番のこの日は早朝7時50分からのメインリンクで練習。その練習でも6分間練習でも、「淡々と」という言葉が似合う落ち着いた様子だった。

 朝は3回転ループと3回転フリップで体を慣らすと、前日の練習でも取り組んだ、ジャンプの入りから氷上でクルクルと回って回転の軸を確かめるような動作をした。そして、トリプルアクセルを跳んだあと、短い助走からの4回転アクセルにもチャレンジ。そのあと、曲かけの4回転サルコウは、まるで3回転を跳んだかのように力みもなく楽々と跳ぶジャンプだった。4回転トーループ+3回転トーループも、最後のトリプルアクセルもまったく不安のない出来だった。

 そんな練習姿を見ていたからこそ、最初のミスは意外すぎるほど意外だった。羽生は「自分の感覚のなかでミスではないので、『何かあったな』という感覚だった」と話し、そのあとの演技ではミスを引きずることはなかった。

【フリーで意地の逆襲なるか】

 次の4回転トーループ+3回転トーループは練習どおりの細い軸のジャンプで、ジャッジがGOE(出来ばえ点)で4〜5点を並べる4.07点の高い加点。演技後半のトリプルアクセルも2.63点の加点で、スピンとステップはすべてレベル4。特に終盤のステップとコンビネーションスピンは、全ジャッジが4〜5点を並べるほど高い評価だった。

 ただ、冒頭のジャンプは、1回転サルコウになって0点。それが響いて95.15点の8位発進という結果になった。それでも、羽生は「95点を出してくれたのはすごくありがたいと思います。それだけ他の要素のクオリティを高くできたのは自分をほめてあげたい。でも、正直に言って、何か僕が悪いことをしたからこうなってしまったのかなという感じで。そういうことしか考えられませんね」と苦笑する。



4回転サルコウのハプニング以外は完璧に演じた羽生

 昨年12月の全日本選手権で111.31点を出した時の4回転サルコウは、GOE加点を加えて14.27点だった。その分を単純に加算すれば109.42点になり、少し抑えられた演技構成点が全日本と同じだったら、合計は111.37点になる計算。不可抗力と言えるミスはあったものの、羽生は自分の力を存分に発揮する演技はしていたのだ。

 そんな羽生に対して、ネイサン・チェン(アメリカ)は、冒頭の4回転フリップは4.40点の加点で、後半の4回転ルッツ+3回転トーループは3.94点の加算とミスのない滑りをし、羽生が2020年四大陸選手権で出した世界最高得点を2.15点更新する113.97点を叩き出してトップに立った。

 さらに2位には自己最高108.12点の演技をした鍵山優真が入った。鍵山は「団体戦のフリーの高得点が自信になったというより、いい演技、いいジャンプを跳べたことで、五輪で自分もできるんだぞという自信になり、今日まで維持できた」と語る。そして、3位は宇野昌磨。4回転トーループ+3回転トーループで手をつくミスをしながらも、団体戦での自己最高得点を上回る105.90点。宇野は「4回転フリップとトリプルアクセルが団体戦よりもすごくいいジャンプだったのでGOE加点もつき、それがミスを補ってくれたと思う」と話していた。

 チェンの好調さを見れば、優勝は極めて難しい結果になった羽生だが、フリーへ向けてはこう話す。

「今日の6分間練習もすごくよかったし、体力もすごくいい感覚で残っているし、フリーへ向けてもコンディションはまだしっかりと整った状態でいられている。今日のミスは自分ではどうしようのないものだったから、次は氷に嫌われて引っかからないように......。それくらい練習としてはしっかり積めているし、演技に関しても自信があるので、あとは神のみぞ知るという感じですね」

 チェンだけではなく、鍵山も宇野もしっかり300点台に乗せてきそうなハイレベルなメダル争いになってきたなか、4回転アクセルに挑戦する羽生の意地の逆襲がどこまで届くか、見守りたい。