2月4日に開幕する北京オリンピック。スノーボードクロスは2月9日 女子競技、10日 男子競技、そして12日 新種目 混合団体が行われる。そのスノーボード/スノーボードクロスチームのヘッドコーチ 五十嵐幸太さん。2009年現役引退後コーチに転…

2月4日に開幕する北京オリンピック。スノーボードクロスは2月9日 女子競技、10日 男子競技、そして12日 新種目 混合団体が行われる。そのスノーボード/スノーボードクロスチームのヘッドコーチ 五十嵐幸太さん。2009年現役引退後コーチに転向し後進の育成に力を注ぐ。第3回は北京オリンピックについて。

<第2回はこちら>

――スノーボードクロスの楽しみ方を教えていただけますか?

五十嵐幸太(以下 五十嵐):スノーボードクロスは4名の競技者が同時にスタートして全長約1000mのコースを走り順位を競います。その間にバンク、ウェーブなどの特殊な地形をクリアしていきます。F1レースのように抜いたり抜かれたり、選手同士の接触があったりします。

最初のバンク(ファーストコーナー)に何位に入れるかが勝負を左右するんですよ。このファーストコーナーの順位の奪い合いを見て欲しいですね。

――このファーストコーナーを1位で通過するのと2位で通過するのは全然違いますか?

五十嵐:その後のレース展開をかなり左右しますね。ファーストコーナーの順位によって後半のレースが変わってきます。全選手、同じコースを滑りますが、「どのラインを滑るか」というライン取りがあるんです。

あとはレース中盤、抜きつ抜かれつのポイントがあります。北京のコースは第2バンクから第3バンクの距離が長い。このポジションどり、あとは第5バンクのインの奪い合いが見所ですね。

――スピードを競うだけではなく、同時に他の選手も気にしなければいけない。転倒する危険性もありハラハラドキドキの競技ですね。

五十嵐:ただ怪我人を多く、女子日本代表の中村優花も昨年2月に前十字靭帯を断裂しました。レース会場にドクターヘリが来ることも少なくありません。

――スノーボードは雪上の格闘技ですね。

五十嵐:男子日本代表の高原宜希が、「『雪上の格闘技』じゃなく『雪上のF1』と呼んでくれないかな。格闘技と言われても戦うわけではないし、F1と言われた方がカッコ良くないですか?」とボソッと話していましたね(笑)。

――それは失礼しました(笑)。高原選手、幼い頃は空手をしていたから、なおさら感じるのかもしれませんね。ところでその高原選手と中村選手の調子はいかがでしょうか?

五十嵐:高原に関してはかなり良い状態です。12月にオーストリアとイタリアでW杯が2レース行われました。オーストリア大会で順位は5位でしたが、全体で1位のタイムを出しているんです。続くイタリア大会で上位8位入賞。

――順位が5位なのに全体で1位のタイムというのはどういうことでしょうか?

五十嵐:今、各選手の足にレース後タイムを測れる装置が入れてあります。スノーボードクロスはアルペンスキーのようにコース上、1人の競技者だけではなく複数の競技者が同時に走るので、リアルタイムに各選手のタイムを出すことが難しいんです。そこで各選手の足に小さな装置をつけ、レース後、途中の細かいタイム等が送られてきます。ですから全選手の1回戦、2回戦のタイムが分かる。そのタイムがオーストリア大会で全体の1位でした。ですから表彰台に届く競技力を持って北京に挑めると思っています。

――それは楽しみですね!男子スノーボードクロスは2月10日ですよね。女子の中村選手はいかがでしょう。

五十嵐:中村は去年2月スウェーデンの世界選手権で前十字靭帯断裂して、その後3月に再建手術。順調にリハビリしていました。ただ5月、フィジカルトレーニング中に転倒したんです。それで再断裂の可能性もあるのでトレーニングを一時中断しました。

ただ幸いなことにMRI検査の結果、断裂していないことが判明しましたがリハビリが遅れ、雪上復帰が10月末になりました。そこからスイスでトレーニングを続けていますが、結果的に今シーズンW杯に1度も出場していません。

先月オリンピック前、国内最後のメディア向け全体会見で「70%くらいの調子です」と中村は発言しましたが、フィジカルの数値はほぼ100%戻っています。

――あとは中村選手次第ということですね。そして今回の北京オリンピックから新種目「混合団体スノーボードクロス」が加わりました。これはどんな競技ですか?

五十嵐:まずは男子選手4名がスタート。その後男子選手がゴールしたら女子4名がスタートします。少し前までは1位の男子選手がゴールすると1位のチームの女子選手ゲートが開いてスタート。1秒遅れで2位の男子選手がゴールすると、スタートラインのゲートが1秒遅れて2位チームの女子選手がスタートでした。

ただルールが変わりました。レース中、選手が転倒しコース上で動けなくなると、後方から来た選手とぶつかる危険がでてきます。そういったリスクを回避する意味も含め、男子選手がゴールしたらコース上の確認を行い、問題がなければコースクリアとなり、男子選手のタイム順で女子選手がスタートすることになりました。

――最後に北京オリンピックを楽しみにしている日本の方々にメッセージお願いします。

五十嵐:スノーボードクロスは4人同時にスタートし順位を競い合うスポーツです。スピード感、選手の駆け引き、抜きつ抜かれつのレース展開。本当に最初から最後まで目が離せません。

コロナ禍で我慢を強いられる日々が続いておりますが、「スポーツの力で北京から皆さんを元気にできたら…」と選手・スタッフ共々頑張ってきました。是非、応援宜しくお願いします。
 

<おわり>

五十嵐幸太 / イガラシ コウタ 宮城県出身
日本選手団 スノーボード/スノーボードクロスチーム ヘッドコーチ
実績
2001年 JSBA東北地区大会 SX 優勝
2006年 FIS ニュージーランド選手権 SX優勝
2007年 FIS 世界選手権 SX日本代表
2009年現役引退後、全日本スキー連盟コーチに就任。

取材・文/大楽 聡詞
写真提供/五十嵐幸太