いよいよ2月8日から始まる、北京五輪フィギュアスケートの男子シングル。日本は羽生結弦、宇野昌磨、鍵山優真の3選手が出番を待つ。先立って行なわれた団体戦では宇野がSP、鍵山がフリーに出場し、ともに自己最高得点を上回る圧巻の演技を見せた。個人戦…

いよいよ2月8日から始まる、北京五輪フィギュアスケートの男子シングル。日本は羽生結弦、宇野昌磨、鍵山優真の3選手が出番を待つ。先立って行なわれた団体戦では宇野がSP、鍵山がフリーに出場し、ともに自己最高得点を上回る圧巻の演技を見せた。個人戦への期待も高まるなか、2014年ソチ五輪に出場したプロフィギュアスケーターでタレントの村上佳菜子さんに各選手の見どころやライバルとなる海外選手について語ってもらった。



北京大会で五輪3連覇に期待がかかる羽生結弦選手

【羽生結弦の優勝を超越した戦い】

村上佳菜子 2月4日に開幕した北京五輪に出場するフィギュアスケートの男子シングル日本代表は、27歳の羽生結弦選手、24歳の宇野昌磨選手、そして18歳の鍵山優真選手とバランスの取れた布陣となり、やっぱり今の日本を率いる3人なのかなと思うので、ベストメンバーではないでしょうか。この3人で、もしかしたら表彰台独占もあり得るかもしれません!

 この北京大会で94年ぶりの五輪3連覇がかかっている羽生選手は、もう優勝を超越した領域に立っているなと感じています。彼が一番求めているのは、4回転アクセルを跳ぶことで、その目標の延長線上で五輪代表に選ばれましたので、きっと北京五輪でも、優勝を目指すよりも先に4回転アクセル成功に向けた挑戦をしてくるとは思います。

 正直なところ、本番当日までどうなるかはわかりません。もしかしたら、練習をしている間に優勝したいという気持ちが強くなって(4回転アクセルを)回避してくる可能性もあるかもしれないですし、五輪の舞台に立つ羽生選手がどんな戦いを見せるのか、楽しみです。

 私たちが一番注目するところは、4回転アクセルを跳んで成功させるかどうかだと思います。その次が、世界選手権3連覇中のネイサン・チェン選手(アメリカ)との対決でしょう。ただ、羽生選手自身は、ネイサン選手との戦いについては、それほど意識していないように感じます。とにかく、4回転アクセルを跳ぶことに集中して3度目のオリンピックに臨み、超高難度の大技を成功した暁には優勝があるのかなと思います。



2014年ソチ五輪に出場した、プロフィギュアスケーターの村上佳菜子さん(写真=事務所提供)

【大きく成長した宇野昌磨】

 平昌五輪銀メダルの宇野昌磨選手の今季は、これまでとは違い、「トップを争う選手になる」と戦う姿勢を見せています。平昌大会後の翌々(2019-2020)シーズンにコーチを変えて大きく調子を崩し、2019年GPフランス杯のキス&クライで泣き崩れた時は相当つらい思いをしたと感じました。しかしステファン(・ランビエール)コーチと出会った今はしっかり壁を乗り越え、やっとこの五輪シーズンに合わせてきたなと言うか、合ってきたなと思います。

 最初はステファンコーチの指導でいろんな勝手が違ってなかなか自分の身につかなかったり、よい方向にきていましたがジャンプが安定しなかったりという状況でした。しかし、昨年(2021年)くらいからだいぶジャンプがまとまってきたというところが見えていて、ポイントが定まってきました。滑りや動きもすごく軽やかになったし、ステファンコーチのイズムを習得してきて、相当に難しいプログラムもこなせるぐらいに成長してきたと思います。

 昨年12月の全日本選手権は大会直前のケガでちょっと右足の痛みがあったのにあそこまでまとめられたというのは、やっぱりすばらしいことだと思います。ですので、北京五輪の本番までに右足をしっかり治せば、いい演技が期待できるのではないかなと私は思っています。

【鍵山優真の「見ていたい」ジャンプ】

 3番手の鍵山優真選手は、私が一度中身を代わってもらって滑ってみたいなと思うぐらい、スケートが伸びる選手だと思っています。「プッシュしてます」というふうに見えないのに、どんどんスケーティングスピードが伸びていくのは、膝や足首の使い方が本当にしっかり連動しているんだなと思っています。

 この話を(山田)満知子先生にすると、「お父さん(鍵山正和さん)に滑り方がそっくり」だって言うんです。ジュニア時代からのライバルである佐藤(駿)選手とはお互いをリスペクトしながらいいライバル関係で歩んできました。そして今、鍵山選手には、宇野選手が目の前にいて、その先には羽生選手がいて、そのふたりを追う立場にいるだけでもさらに伸びるはずです。

 今季は、本当にどんどんどんどん成長していく背景があったからこそ、この北京五輪をいい形で迎えることができ、またサルコウとトーループの4回転ジャンプも安定したのかなと思います。やっぱりあれだけのスピード感をつけたスケーティングから跳ぶジャンプの安定感はすばらしく、本当にジャンプにブレがなくて、私は何回も見ていたいと思うくらいの大好きなジャンプなんです。あのジャンプを跳ばれると、GEO(出来ばえ点)でも加点につながっていくと思います。

 男子シングルでは、冒頭に述べたとおり、本当にメダル独占もあり得ると思うぐらいのレベルの高さが日本代表選手にはあります。世界を引っ張っていっている3人なので、ミスをしなければメダルの可能性というのは高くなってくるはずです。そこに立ちはだかるのがアメリカ勢のネイサン選手でしょう。私の注目は、ネイサン選手がどんな演技構成のプログラムで挑んでくるのかですね。線の細さですごくキレのあるジャンプを跳ぶヴィンセント・ジョウ選手(アメリカ)も今季調子がいいので、油断できない選手だなと思っています。

 五輪ではメダルを獲るためにどういうジャンプ構成を組めばいいのか、基礎点が1.1倍になる演技後半に難しいジャンプを入れて挑戦していかないと勝てないのか、そこは選手それぞれによって違うはずです。たとえば、羽生選手は4回転アクセルの成功率をどこまで高めて挑むのか、またネイサン選手は前回五輪で悔しい思いをしているからこそ、どうやれば勝てるのかをすごく悩んでいる感じがしますし、今回にかける思いは皆、強いと思います。北京五輪の表彰台争いは、日本勢3人と米国勢2人が有力候補だとは思います。

【プロフィール】
村上佳菜子 むらかみ・かなこ
プロフィギュアスケーター。1994年、愛知県生まれ。フィギュアスケート選手時代には、ソチ五輪出場(2014年)や四大陸選手権優勝(2014年)などの成績を残す。2017年に引退後は、プロフィギュアスケーターやフィギュアスケート解説者として活躍。タレントや女優として数々のテレビ番組にも出演中。