「第22回全日本パラ・パワーリフティング選手権大会」が29日、東京都江東区の東京国際クルーズターミナルで開かれた。女子8階級、男子9階級が行われ、新人からベテランまで36人が参加。ジュニアも含めて11個の日本新記録が誕生した。新型コロナウイ…

「第22回全日本パラ・パワーリフティング選手権大会」が29日、東京都江東区の東京国際クルーズターミナルで開かれた。女子8階級、男子9階級が行われ、新人からベテランまで36人が参加。ジュニアも含めて11個の日本新記録が誕生した。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で無観客開催となったが、競技の様子はライブ配信され、映像を通して多くのファンが見守った。

東京パラリンピック日本代表も出場


ハプニング直後の試技に臨む坂元智香選手(女子79㎏級)。「こんなこともある」と気丈に語った

注目を集めたのは、東京パラリンピックに出場した選手たちだ。日本女子として初めてパラリンピックの舞台に立った79㎏級の坂元智香(メディケアアライアンスあおぞら病院)は、順調に記録を伸ばすなか、第3試技で車いすからベンチ台に乗り移る際に床に落下。そのハプニングが響いて試技に失敗し、記録は77キロに留まったが、「こんなこともあるんだという経験になった」と気丈に振り返った。

昨年は急成長を遂げて東京パラリンピック代表の座をつかみ取り、その後の世界選手権(ジョージア)では日本記録を更新(146キロ)した男子59㎏級の光瀬智洋は、左ひじの違和感もあり、記録は135キロ。「パラリンピックではアスリートとして世界の舞台に立ち、重圧も感じた。今まで勢いで勝ってきたけれど、頭を使って建設的に考えるようになった」と語り、変化をかみしめている様子だった。

56歳で3大会連続日本代表として東京パラリンピックに出場した男子49㎏級の三浦浩(東京ビッグサイト)は、今大会の2週間前に白内障と診断されといい、「ぼやけた状態」ながら120キロをマーク。「70歳になってもパラリンピックを目指したいので、怪我をしないように、ゆっくり伸ばしていくことを心掛けたい」と話した。

限界突破の日本新記録が続々誕生


第3試技で日本記録を塗り替える139キロに成功し、喜びを爆発させる西崎哲男選手(男子49㎏級)とJPPFの荒川龍一コーチ

この階級を制したのは、三浦と東京パラリンピック代表を争った西崎哲男(乃村工藝社)。第3試技で139キロに成功し、自身が持つ日本記録を1キロ更新。2020年10月以来の新記録樹立となり、「新しいスタートが切れた」と喜んだ。東京大会の出場を逃したあと、自身を見つめ直し、「まだいける、と思った」と西崎。東京大会後に退任したジョン・エイモス前ヘッドコーチの教えを受け継ぎつつ、新体制後の吉田進ヘッドコーチの練習プログラムに取り組む。「まずは世界のトップ8に少しでも近づけるように心身を鍛えていきたい」と話し、前を向いた。

男子54㎏級の市川満典(コロンビアスポーツウェアジャパン)は順調に重量を上げ、第3試技で日本記録となる143キロに成功。さらに特別試技で145キロを力強く挙げて記録を塗り替えた。同72㎏級の樋口健太郎(同)も、特別試技で日本記録を1キロ更新。「練習ではあまり良くなかったので、とりあえず安心した」と話し、表情を崩した。また、同97㎏級の佐藤芳隆(関彰商事)は155キロ、162キロを危なげなくクリアすると、第3試技で日本記録タイの165キロをマーク。そして、特別試技で2キロ上回る167キロに挑戦して見事に成功させ、ガッツポーズを作ってみせた。

女子では61㎏級の龍川崇子(EY Japan)が68㎏の日本記録をマーク。特別試技は失敗に終わったが、「自己ベストが出せてよかった」と笑顔を見せた。また、同67㎏級の森﨑可林(立命館大)も68㎏を挙上し、2年ぶりに日本記録を更新した(同時にジュニア日本記録も更新)。

ジュニア勢や他競技のパラリンピアンも存在感


高校2年の17歳で今大会最年少の大宅心季選手(ジュニア男子65㎏級)。今後のさらなる成長が楽しみな選手だ

女子55㎏級に出場した19歳の見崎真未(希望の里ホンダ)は48キロに成功。60キロを挙げた山本恵理(日本財団パラスポーツサポートセンター)に次いで2位だったが、ジュニア日本記録は更新した。

また、男子は3選手がジュニアの部に出場。それぞれジュニア日本記録を塗り替える好成績を残した。注目選手の高校2年の大宅心季(おかやま山陽高)は、男子65㎏級で96キロに成功。第3試技と特別試技で挑戦した100キロは失敗したが、果敢なトライに会場から拍手が送られた。大宅は昨年のアジアユースパラ競技大会(バーレーン)の17歳以下のユースの部に出場し、95キロに成功して金メダルを獲得している。出場したのは大宅が唯一で他に競う選手がいなかったが、同階級の18歳以上のジュニアの部の選手を含め、同世代アスリートの活躍を肌で感じ、「自分も強くならないと、と思った」と振り返る。帰国後は週に2回から3回へと練習時間を増やして強化に励み、今大会はその成果があらわれた。

“理想のパワーリフター”に、故シアマンド・ラーマン氏(イラン)の名を挙げる大宅。ラーマン氏は男子107㎏超級で310キロの世界記録を持つ「超人」として知られ、東京大会でパラリンピック3連覇が期待されるなか、2020年3月に心臓発作で亡くなった。故人となってもなお多くの人の心に残り、大宅も「彼みたいに強い選手になりたい」と力強く語った。

また、車いすテニスの選手としてロンドン、リオと2大会連続でパラリンピックに出場した堂森佳南子(日本オラクル)が女子50㎏級に初出場。すべての試技で成功し、54キロを記録した。トレーニングの一環として2019年からパワーリフティングに取り組んでいたといい、車いすテニスは続けつつ「世界への挑戦を違う形でやってみたい」と、昨年3月から正式に練習をスタートさせた。練習拠点は名門のパワーハウスつくばで、自宅も近くに移し、週に3~4回のトレーニングを課している。「今大会が初めての公式戦。3回とも確実に成功させることができてほっとしている。まだ試行錯誤しているところだけれど、パリパラリンピックの出場を目指したい」と話し、前を向いた。

昨年10月から日本パラ・パワーリフティング連盟(JPPF)の選手強化委員長も務める吉田進ヘッドコーチは大会を振り返り、「ジョンからバトンを受け継ぎ、新体制になって3カ月。11個の日本記録が誕生し、良い形で再出発ができた」と話し、これまで取り組んできた強化の成果がレベルアップにつながっていると総評した。