単独インタビュー、最強柔道家がジュニア世代に贈るメッセージ 柔道の大野将平(旭化成)が「THE ANSWER」の単独インタビューに応じ、スポーツの礼儀・礼節について考えを明かした。日本のスポーツ現場では特に尊ばれる価値観。しかし、なぜ勝つた…

単独インタビュー、最強柔道家がジュニア世代に贈るメッセージ

 柔道の大野将平(旭化成)が「THE ANSWER」の単独インタビューに応じ、スポーツの礼儀・礼節について考えを明かした。日本のスポーツ現場では特に尊ばれる価値観。しかし、なぜ勝つために礼儀・礼節は必要なのか。現代の子供たちはそんな疑問を持ち、答えに窮する指導者もいるだろう。武道の流れを汲み、その精神にこだわりを持つ柔道の五輪連覇王者はどんな哲学を持っているのか。今スポーツに励んでいる子供たちにメッセージを送り、現代のスポーツ教育についての想いを語った。(文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 強くなるために礼儀・礼節は必要なんですか? 

 もし、子供にそんな質問をされたらどう答えるだろうか。ひょっとしたら、答えに窮したこともあるスポーツ指導者もいるかもしれない。礼儀・礼節を重んじ、柔道界の頂点に上り詰めた男の考えはどうか。同じ質問を大野に投げかけた。

 畳の上でガッツポーズをせず、表情を変えることもない。独自の哲学を持つ柔道家は、こんな答えをくれた。

「礼をする時、頭を下げるじゃないですか。自然と足元を見る。その時に(取材を行った部屋の)このカーペットもそうですが、床の“目”がある。試合前、同じように畳の目が見えたら冷静である。浮足立ってない。『よし、見えている。落ち着いている』と。

 どうしても緊張していたり、興奮していたりということもありますが、礼をすることで相手の敬意を払い、なおかつ自分自身の状態を測る意味も生まれる。戦う前の一つの所作として、自分の心の状態を確かめる上で大事なんだと、私は伝えたいです」

 リスペクトの表現のみならず、アスリートの大切なルーティンになる。試合前に礼がない競技も少ない。礼という動作にメンタルを落ち着ける意味合いをつければ、競技に生きる。大野の考えはジュニア指導者の一つのヒントになるだろう。

 それは、礼儀・礼節を最も重んじる柔道らしい発想と言える。武道として始まった競技、「歴史的に、そもそも戦場でのものだった」と大野が言う通り、他のスポーツと一線を画す成り立ちがある。

「それが道となり、今は教育に生かされ、国際化され、オリンピック競技になった。我々がオリンピックで戦っている姿はスポーツと武道のそれぞれの二面性が表現できる。その柔道独自のものを表現する我々の一つの役割であり、一つの見えやすい礼儀作法なのではないか。

 形式上になるのではなく、確認作業の一つとして考えてもらえれば、柔道競技としての礼儀も大事なんだと思える。教育としての柔道精神は自他共栄・精力善用など理由はいくつもありますが、『強くなるために』と考えた時、そういう部分も広めないとなかなか伝わらない」

「負けることを想定する練習」から始まる柔道の次世代に伝えたい魅力

 東京五輪ではスケートボードなど、ストリート発のスポーツも注目された。スポーツ界に新しい潮流が訪れる中で、柔道という伝統ある競技がさらに発展していくためにどうあるべきか。

 他競技もよく見る大野は、特に「1対1の戦いが好き」という通り、相撲やボクシングなどに惹かれる。「自分が投影しやすく、心情が分かってしまうので」。個人競技の面白さについて「勝ったら自分のおかげだし、負けたら自分のせい。“おかげ”と“せい”という潔さ」と表現する。

 個人競技の代表的な存在の一つである柔道について、その魅力をこう考える。

「柔道は過酷な競技で組み合っていて痛いし、投げられて痛いし、耳も潰れるし。正直、得をすることなんてないんです。柔道は最初にやる練習が受け身。試合で受け身を取るのはどういう時かを考えるというと、負ける時です。

 つまり負けることを想定する練習から始まる競技。しかも受け身は面倒くさくて楽しくもない。サッカーやバスケはシュートから始まり、楽しさが先に来るもの。そういう面ではマイナスの前提に立つ面白い競技だと思います」

「我慢」という言葉を好む大野は「でも、それは人生と一緒。生きていれば、うまくいかないこともいっぱいある。柔道に飛び込んで我慢して継続できることは、どんな社会人になっても我慢し、継続できる証拠だと思います」と力説した。

「今は世の中の考え方が変わり、教育とは何かと改めて考え直さなければいけない時代に柔道という過酷な競技がまだ存在し、柔道人口が減りつつある中でも、まだ武道を志す子供たちがいてくれることを嬉しく思います。

 そういう子供たちが、『つらい』『苦しい』ばかりの稽古の中で、我々が戦い、あんな選手になりたい、あんな風に投げたい、金メダルを獲りたいと、一つの光となり、彼らを照らせるような選手にならないといけない」

 礼儀・礼節と共に成り立つ「柔道」を誰よりも追求してきた大野。その道の先頭から、大きな背中を次世代に示し、競技の発展を願っている。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)