農学部4年の脇悠大、昨年10月に「京大ベースボール」を設立 昨年10月末、京都大学の4年生・脇悠大(農学部/膳所高)が創…
農学部4年の脇悠大、昨年10月に「京大ベースボール」を設立
昨年10月末、京都大学の4年生・脇悠大(農学部/膳所高)が創立後初となる学生記者団「京大ベースボール」を発足させた。硬式野球部の活動を中心にホームページ上で情報を発信し、将来的には取材対象を大学内の他のスポーツ団体にも広げて発信していく予定だ。
脇は昨年まで硬式野球部の主将を務め、中軸打者として活躍。大学卒業後にどんなステージにも進めそうな経歴を持つ脇が、なぜ引退後すぐに学生記者団を立ち上げたのか。その理由や背景を本人に聞いた。(取材・文=笠川真一朗)
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「記者団を設立した一番の理由は『京大の野球部に優勝してほしい』という純粋な気持ちからです」
脇は開口一番にそう言い切った。
「京大で野球が上手くなりたい」と、滋賀県髄一の進学校・膳所高校から京大の門を叩くと、下級生の頃からメンバー入りし、2年時から4番を任されるなど順調な活躍を見せた。しかし、試合に出場して活躍すること以上の衝撃が脇を待っていた。
「試合に出ていても出ていなくても、結果が出ても出なくても、チームのためにならなんでもする先輩たちの姿勢に大きな衝撃を受けた」
“先輩たち”の姿勢は、チームスポーツなら当然のことだと思う読者は多いだろう。だが、決してそうではない選手も実在する。
「京大で野球をやるまでは、チームの勝ち負けは自分の中でそこまで重要じゃなかった。個人として結果を残すという価値観が圧倒的に大きかった」
そんな脇の「自分本位」な考え方を大きく変えたのが京大野球部だった。勝利に向かって団結するという価値観を知り、それが自身の成長につながった。だからこそ主将に選ばれ、チームの勝敗によって得られる様々な感情を最も実感できた。
脇は野球部に感謝しているからこそ、その恩返しとして記者団を設立した。では具体的に、どのように恩返しをしたいのだろうか。
「そこを考えた時に主将としての経験が活きると思いました」
当時から直面していた“良くない現状”と向き合った。それは金銭面の問題だ。
京大野球部の「練習環境を整えてあげたい」
新チーム結成当初のミーティングで決算の振り返りを行っている京大野球部。ここで脇は引っかかりを感じていた。それはチケット代を各選手で負担していることだ。
関西学生野球連盟では、1枚1000円の観戦チケットを所属する6チームで分け合って購入する仕組みがあるという。各チームはリーグ戦に参加する時点でかなりの金額が必要となる上に、購入したチケットをそれぞれが試合会場などで販売しているが、実際に観に来るのは選手の保護者や友人、OBが中心。そうした人たちにも毎試合観に来てもらえるわけではないため、チケットを売りさばくことができていないのだ。これは京大のみならず、他の大学や競技でも耳にすることがある。
脇は「有難いことにOB会からの援助もありますが、それでも部費での負担がまだまだ大きいのが現状です」と語ると、「チケット代だけではなく、京大は連盟に所属する他大学と比べて練習環境も整っていない。節約も大事ですけど、それよりも整えたいんです。チームとしてより強くなっていくには、恒常的に優勝を目指すにはお金のやりくりもすごく重要だと考えています」と続ける。主将を務めていた頃から考えてはいたが、ここに取り組むよりも学生として勉強に励むこと、選手として個の力を磨くことに時間を注いだ。
そして引退後に動く。お金をかけずに自分ですぐに取り組める活動が、チームをPRすることだった。
「かなりの遠回りですが、リーグ戦の観客数を増やせば金銭的な支援に繋がります。1人でも多くの京大生や野球が好きな人たちに、球場まで足を運んでもらいたい。そのためにまずは硬式野球部の様々な活動や人を伝えていこうと考えました」
脇は卒業後、大学院の森林化学科で木製バットの研究をしていく。その傍らで野球部のグラウンドで後輩たちにノックを打ち、練習のサポートをする。そして取材・執筆を行い、現場のありのままの姿や創意工夫などを発信。チームの内側から、時には外側から京大野球部を見て盛り上げていくつもりだ。
京大野球部をリーグ初優勝へと向かわせる覚悟
脇は強い思いを口にした。
「取材を受けたり、記事として形になると選手はモチベーションになります。それが京大にはずっとなかった。注目されることで、良い意味で勘違いできると思うんです。この勘違いは大事で、『凄い』と言われたら本当に凄い人になれる。覚悟も生まれます。責任を持って人に見られている意識を持ってプレーして、プレッシャーも乗り越えてほしい」
京大は連盟に所属して以来、リーグ戦での優勝は一度もない。本気で優勝を目指していると聞けば、どこかの誰かは笑うかもしれない。それでも脇は、こう力説する。
「やっている自分たちが心からダメだと思ったら、できることもできない。『勝ち』を一番に置けないようなチームでは存在意義が分かりません。人間的な成長だとか、そういう副産物は結果的に得られることであって、そこを目的にしてしまうとその副産物すら得られないと思うんです。『リーグ優勝』という一つの目標に向かって戦うことで、得られるものがあると僕たちは思っています」
京大野球部の本気の覚悟を、前主将が現役さながらの熱い気持ちで拡げていく。(笠川真一朗 Shinichiro Kasakawa)