ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 先週のGIIアメリカジョッキークラブCでは、ここで「ヒモ穴馬」に取り…
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
先週のGIIアメリカジョッキークラブCでは、ここで「ヒモ穴馬」に取り上げた11番人気のマイネルファンロンが2着と好走。脚質転換を図っていた鞍上の松岡正海騎手が3度目の騎乗できっちりと結果を出してくれました。
道中ではじっくりと脚をタメて、勝負どころから手応えよく進出。直線坂下で先頭に立った時は、僕も思わず声が出ましたね。最後は仕掛けをワンテンポ遅らせた勝ち馬(キングオブコージ)の末脚に屈しましたが、見せ場十分の内容。あそこまでいったら、松岡騎手も勝ちたかったと思いますが、彼がずっとやりたかった競馬がようやく形になったことで、本人の満足度は高いのではないでしょうか。
さて、今週から関東開催の舞台は東京競馬場に替わります。1月30日には、GIフェブラリーS(2月20日/東京・ダート1600m)の前哨戦となるGIII根岸S(東京・ダート1400m)が行なわれます。
ダート1400mという条件で行なわれるJRAの重賞は、この根岸SとGIIIプロキオンS(中京・ダート1400m)の2つしかありません。芝・1400mの重賞が何鞍も組まれていることを考えると、ダートの番組はかなり少ないですよね。
そういうこともあって、1200mと1600mのちょうど中間となる1400m戦では、スプリンターとマイラーの両方が顔をそろえるので、激戦になりやすいです。また、根岸Sの傾向としては"差し、追い込みが炸裂しやすい"という特徴があります。その理由としては、快速馬が道中緩みのないラップを刻むことが多いからでしょう。
よって、激戦になればなるほど、有利になるのはマイラータイプ(距離短縮組)。なおかつ、マイル戦でも強靭な末脚で追い込めるような馬に、最もチャンスがあるのではないかと思っています。
今年のメンバーを見渡してみても、短距離戦でスピードを生かして結果を残してきた馬がちらほらいて、1400m戦でもスプリント戦並みに逃げるリアンヴェリテ(牡8歳)が参戦となると、今回も序盤からハイペースは必至でしょう。最後は決めて比べになりそうな雰囲気が漂っています。
そうした状況にあって、僕が注目しているのはタガノビューティー(牡5歳)です。東京コースにおける末脚の信頼度では、この馬が最も高いと見ています。
ダート重賞に挑戦したのは、これまでに2度。一昨年のGIIIユニコーンS(東京・ダート1600m)と、昨秋のGIII武蔵野S(東京・ダート1600m)です。それぞれ13着、6着と結果は出ていませんが、ともに不利があってのこと。ユニコーンSでは向こう正面で落馬寸前の躓きがあって、武蔵野Sでは直線で前が壁になり、完全に仕掛けが遅れてまともに走れませんでした。
その2戦以外は、東京コースでは一度も馬券圏内(3着以内)を外しておらず、マイル戦でも上がり最速の脚が使えるスタミナは魅力。今回は乗り慣れた石橋脩騎手が乗れず(津村明秀騎手へスイッチ)、重賞実績のなさが嫌われて人気を落とすようならば、絶好の狙い目になるのではないでしょうか。
ということで、このタガノビューティーを根岸Sの「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。

根岸Sでの勝ち負けが期待されるタガノビューティー
ところで、少し話は逸れますが、先にも少し触れた"当該距離以上の距離をこなしている馬が有利"というのは、僕自身の実体験からも感じることです。
だいぶ古い話になるのですが、僕は2003年にマイネルセレクトという馬でGIIIシリウスS(阪神・ダート1400m。2007年から施行条件がダート2000mに変更)を勝って、その後に地方交流GIのJBCスプリント(大井・ダート1190m)に挑みました。
当時のダート短距離路線ではサウスヴィグラスという最強馬がいましたが、同レースに臨むにあたっては、僕は同馬が作るハイペースにも強気についていって、早めに勝負しようと考えていました。その強気の理由は「(前走の)1ハロン長い距離でも脚が持った」という事実から、「少々強気に攻めても大丈夫」という自信があったからです。
実際、マイネルセレクトは僕が思っていたとおりの走りを見せてくれました。ただ、当時の大井競馬場はスタンドの改修工事に伴って、1200mではなく1190mで行なわれたのです。その結果、逃げるサウスヴィグラスを必死に追い詰めたのですが、あと一歩届かずのハナ差2着に終わりました。
ゴール前の勢いは僕の馬のほうが勝っていましたから、ゴール板が本来の位置である"10m後ろ"にあれば、勝てていたと思います。その分、僕の騎手人生のなかでも苦い思い出というか、相当な悔しさが残るレースのひとつになってしまいました。
僕はこの一戦を最後にマイネルセレクトの主戦を交代させられてしまったのですが、翌年には武豊騎手を背にしてJBCスプリントを完勝。見事にリベンジを果たしてくれました。やはり、この馬は強かったですね。
何はともあれ、この時の騎乗経験から僕は"大舞台における距離短縮のメリットは大きい"と強く感じました。競馬予想においても役立つ知識だと思いまして、最後にこの話を加えさせていただきました。