【このオフのFA移籍はひとりだけ】 2021年オフのFA有資格者は97人いたが、宣言して他球団に移籍した選手は又吉克樹(…

【このオフのFA移籍はひとりだけ】

 2021年オフのFA有資格者は97人いたが、宣言して他球団に移籍した選手は又吉克樹(中日→ソフトバンク)のみだった。そして、又吉の人的補償として岩嵜翔が中日に移籍することになった。

 又吉は、独立リーグの香川オリーブガイナーズから2013年にドラフト2位で入団。プロ8年間で400試合に登板し、41勝26敗143ホールドを挙げたサイドスローの中継ぎ投手だ。オールスターにも2度出場し、今回独立リーグ出身で初めてFA権を行使した選手となった。

 一方の岩嵜は、2007年に高校生ドラフト1巡目で入団。スリークォーターから繰り出す150キロを超すストレートが武器の投手である。2017年に72試合の登板で40ホールドを挙げ、最優秀中継ぎ投手のタイトルに輝いている。ここまでのプロ14年間で299試合に登板し30勝33敗96ホールド。オールスターにも1一度出場。

 もともと2007年のドラフトでソフトバンクと中日が「外れ1位」で競合し、ソフトバンクに入団した経緯がある。



FAで中日からソフトバンクに移籍した又吉克樹(写真左)と人的補償の岩嵜翔

 FA資格を簡単に説明すると、国内FAは計8シーズン(一軍登録145日。大学・社会人出身の選手は7シーズンで可)、海外FAは計9シーズンを必要とする。

 旧球団の年俸によりA(上位3名)、B(上位4〜10位)、C(11位以下)ランクに分けられ、AとBランクの選手の移籍には金銭補償や人的補償が伴う。

 だからFA選手を獲得した球団は、チームに残したい選手を支配下登録70人の中なかからプロテクトする28人を選択しなければならない。つまり、プロテクトから漏れた選手は、いくらベテランや高給であっても移籍の対象となる。

 たとえば最近で言うと、2018年オフに西武から巨人にFA移籍した炭谷銀仁朗の人的補償として内海哲也、広島から巨人に移籍した丸佳浩の人的補償に長野久義が選ばれチームを去った。

 ともに入団時は巨人を熱望し、最多勝、首位打者とタイトルを獲得した功労者であったが、人的補償での移籍を余儀なくされた。

 プロテクトされなかった選手は、厳しい言い方をすれば中心戦力から外れたわけだ。しかしFA選手とともに、人的補償により移籍した新天地で輝いた選手もいる。今回、双方が活躍した"win-win"の成功例を探してみた。

【人的補償からタイトル獲得】

 過去、FAの人的補償は31人いるが、ともに活躍した例は決して多くない。そんななか、2007年オフに成立した3例はまさに"win-win"だったと言える。

 ヤクルトから西武にFA移籍した石井一久の人的補償は福地寿樹だった。福地は2006年の開幕直前に広島から西武にトレード。同年、俊足をの生かし、レギュラー格として91試合に出場。翌年も117試合に出場したが、すでに32歳という年齢と生え抜きの若手が成長してきたことでプロテクトから漏れた。

 ヤクルトから白羽の矢が立った福地だったが、幸いしたのは2008年から高田繁監督が指揮を執ったことだ。高田監督は現役時代、俊足・好打のプレーヤーとしてON(王貞治、長嶋茂雄)の脇を固め、前人未到のV9に貢献。引退後は、日本ハムでGMとしてチームの戦力編成を担った。福地のほかにも、日本ハムから川島慶三(現・楽天)、押本健彦をトレードで獲得し、彼らを積極的に起用した。

 福地は1番打者として131試合に出場し、打率.320と活躍。また、42盗塁で自身初のタイトルを獲得した(翌年も盗塁王を獲得)。

 石井も西武移籍後の6年間で2ケタ勝利2度を含む計45勝をマーク。日米通算182勝まで積み上げた。

 西武から中日にFA移籍した和田一浩の人的補償は岡本真也。中日時代の岡本は、2004年からリリーフとなり、フォークを武器に63試合で9勝を挙げ最優秀中継ぎのタイトルを獲得。岩瀬仁紀とともに"勝利の方程式"を担った。

 その後も2005年は57試合で10勝、17ホールド、2006年は56試合で4勝、18ホールド、2007年は62試合で5勝、33ホールドをマーク。2004年、2006年のリーグ優勝と2007年の日本一に貢献した。

 西武に移籍した2008年、岡本は47試合に登板して18ホールドを挙げ、日本一に貢献。結果的にリーグをまたいで2年連続日本一の美酒に酔った。

 一方、和田は36歳での移籍だったが、中日でも主力打者として2010、2011年の優勝の原動力となった。

 また、現役時代通算2050安打を記録している和田だが、西武時代の11年間で1032安打、中日でも8年間で1018安打と、史上3人目となる両リーグ1000安打の快挙を達成した。

 2007年オフに広島から阪神にFA移籍した新井貴浩。その人的補償に指名されたのが赤松真人だった。移籍初年度の2008年に2試合連続"初回先頭打者"を含む、3試合連続本塁打を記録。

 2010年には本塁打性の打球をフェンスによじ登って好捕。このスーパーキャッチもあって、この年ゴールデングラブ賞を獲得するなど、広島に欠かせない戦力となった。しかし、2016年オフに胃ガンが発覚して、2019年に引退を余儀なくされたが、2016年に25年ぶりの優勝を味わえたことは最高の思い出になったに違いない。

 新井は、2009年から3年連続全試合出場と80打点以上を果たすなど、阪神移籍後も主軸として活躍。しかし2014年オフに規約を上回る大幅減俸の提示を受けると、自由契約を申し入れ退団。その後、広島が獲得に動き、8年ぶりの古巣復帰となった。復帰後はチームの精神的支柱として2016年からのリーグ3連覇に貢献した。

 はたして、又吉と岩嵜は"win-win"移籍となるのか。ともにタイトルを獲得した経験のある実力者だけに、その期待は大きい。