四大陸選手権で2度目の優勝を果たした三原舞依【原点は楽しさ】「小学2年生の時、初めて氷の上に立ったんですけど、とにかく滑るのが楽しくて。すぐに『習ってもいい?』ってお母さんに言いました。陸で歩いたりするのと、氷の上は全然違うんです。"こんな…



四大陸選手権で2度目の優勝を果たした三原舞依

【原点は楽しさ】

「小学2年生の時、初めて氷の上に立ったんですけど、とにかく滑るのが楽しくて。すぐに『習ってもいい?』ってお母さんに言いました。陸で歩いたりするのと、氷の上は全然違うんです。"こんなに前に進むんだぁ"っていうのがあって」

 三原舞依(22歳、シスメックス)は弾むような声で言う。

「最初は貸し靴だったし、どんな感じかもわからず、ヘルメットをかぶって。でもバランスは取れていたらしく、すぐにヘルメットを外して。両親からは『くるくる回っていたよ』って聞きますけど。何回かリンクに連れて行ってもらい、教室で(坂本)花織ちゃんがくるくる回る姿を見て、"楽しそう! テレビの(浅田)真央ちゃんと同じ! 自分も滑れるようになりたい"って」

 その楽しさの原点を、三原はいつも忘れない。

 競技生活とは、苦楽をともにすることである。そのなかで、楽しさは多くの場合、すり減っていく。ライバル、不調、伸び悩み、ケガ、あるいは、病気。無念さを抱えながらも、やがて原点はぼやけ、すべてを出し尽くせなくなる。

 しかし、三原はリンクで命を燃やす演技ができる。

【五輪代表落選の悔しさを晴らす】

 その人生が2017年以来、5年ぶり2度目の四大陸選手権優勝に結実したと言えるかもしれない。

 2022年1月、タリン。エストニアの首都で、三原は自身、4度目の四大陸選手権のリンクに立っている。過去すべての大会でメダルを獲っている"験のいい"大会で、ショートプログラム(SP)からノーミスで72.62点を記録。北京五輪にも出場する韓国勢をも抑えて、堂々の首位に立った。

 三原は冒頭から『レ・ミゼラブル』で悲劇の女性の愛にかけた姿を浮き上がらせ、観客を虜にしている。ダブルアクセル、3回転ルッツ+3回転トーループ、3回転フリップと、自然で完璧なジャンプ。滑り込んできた質と量の証左だろう。スピン、ステップはすべてレベル4。うしろで留めた髪は上品で、指先まで使って表現した演技は命が脈打っていた。

「すごく、すごく落ち込んだけれど、完璧な演技をしようって考えて、1月1日から練習を開始しました」

 そう語る三原は昨年12月の全日本選手権で4位と健闘したが、惜しくも北京五輪代表からは外れていた。病気から1年半ぶりの復帰2年目で、今シーズンの成績は十分に代表に値するものだった。それだけに辛く、葛藤もあったはずだ。

 しかし、出場が決まった四大陸選手権に向け、彼女はリンクで滑ることに打ち込んでいる。たとえば、リカバリーも含めたノーミスを完成させるため、プログラムのなかでコンビネーションジャンプを2本入れ、「たとえどんなことが起きても大丈夫なように」と念には念を入れた。最大限でスケートに向き合い、気づいたら大会の日になっていたという。周囲も瞠目する集中力だ。

 フリースケーティングでは、本人も認めているように緊張が透けて見えた。練習ではすべてノーミスでも、本番一本で崩れるのがフィギュアスケートの難しさだろう。舞台に立ったら、たったひとりで不安と対峙しなければならない。ネガティブな思考にとらわれると、体がどうあがいても動きは悪くなる。会場では、韓国の選手が次々に高得点を記録していた。

「ショート以上に緊張がすごくて、始まる前から涙をこらえていました」

 三原は言う。

「(本拠地の)神戸でノーミスだったのに、全日本では思いどおりにできなくなって。今回も、同じようになったらどうしようと不安でした。でも、周りの方々が『あれだけ練習したんだから大丈夫』って言ってくださって。一つひとつを大切に自分がやってきたことを信じて滑ろうって」

 そしていまや彼女の代名詞になった『フェアリー・オブ・ザ・フォレスト&ギャラクシー』で、妖精と化す。

 3回転ルッツ+3回転トーループ、ダブルアクセル、3回転フリップ、3回転サルコウと完璧に降り、高い出来ばえ点(GOE)もたたき出した。コンビネーションスピンも優雅で、力強さにこだわってきた練度の高さが出ていた。得点が1.1倍になる演技後半のジャンプも、ダブルアクセル+3回転トーループ、3回転ルッツ+2回転トーループ+2回転ループ、3回転ループと次々に成功。スピン、ステップ、コレオと曲の盛り上がりとともに、観客をもうひとつの世界へ引き込む。最後のスピンはほどけたが、体力を出し尽くしたからだろう。万雷の拍手を一身に受けた。

【「自分は本当に幸せ者だな」】

 キス・アンド・クライに座った三原は、膝の上に乗せたゆるキャラ「なんぼーくん」をなでながら、得点発表を待った。祈るように手を組み、顔を伏せる。得点が出た瞬間、表情は崩れ、両腕を振り下ろした。フリーも1位の145.41点。嗚咽しながら、カメラへ向けて手を振った。

「みなさんに、お手紙をもらったり、絵を描いてもらったり、メッセージをもらって、自分は本当に幸せ者だなって。その方々が少しでも笑顔に、元気になってもらえる滑りがしたい、そう思うことで、四大陸も負けずに滑りきることができました。感謝の思いしかないです」

 三原らしい前向きでやさしい勝ち方だった。合計218.03点で、四大陸選手権を完全制覇。リンクに笑顔の花を咲かせた。

「スケートに出会って、私は本当に幸せで。スケートがあるから、自分らしくいられるって思う」

 まっすぐにスケートを生きてきた三原の祝祭である。