前半戦に推薦出場を重ね、リランキングで狙う後半戦出場権 女子ゴルフで話題の岩井姉妹が、下剋上を期している。19歳で双子の姉明愛(あきえ)と妹千怜(ちさと)。昨年6月の最終プロテストではともに一発合格を果たし、9月のステップ・アップ・ツアーで…

前半戦に推薦出場を重ね、リランキングで狙う後半戦出場権

 女子ゴルフで話題の岩井姉妹が、下剋上を期している。19歳で双子の姉明愛(あきえ)と妹千怜(ちさと)。昨年6月の最終プロテストではともに一発合格を果たし、9月のステップ・アップ・ツアーでは、史上初の姉妹2戦連続優勝を飾った。一方で、12月のツアー最終予選会(QT)では、明愛70位、千怜90位。今季前半戦の出場権は得られなかった。しかし、今は前半戦に推薦出場を重ねて、リランキングで後半戦の出場権獲得を目指している。そのために、弟の光太(こうた=埼玉栄高2年)を含めて家族は一致団結。「チーム岩井」の力で今季に臨む。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

 東京・神田のビル街。関係先の挨拶回りを終えた明愛が言った。「私はゴルフのことでは悩みません。仮に調子が悪くなっても、このチームあって相談もできますから、心強いです」。千怜がうなずき、2人を父・雄士さん、母・恵美子さん、光太が見守った。

 姉妹がプロとして初めて迎えたオフシーズン。温暖な地域に行く予定はなく、光太と3人で雄士さんが考えたトレーニングメニューに取り組み、打撃練習を重ねている。

雄士さん「このオフは例年通り、地元で過ごしています。暖かい所に行って練習するのもいいと思うのですが、私たちはずっとこの地でやってきましたから、ここで寒さに耐えながらじっくりと体作りをしています。小学校の校庭で冷たい上り棒をつかみ、背筋、胸筋などを鍛えています。もちろん、ラウンドも重ねています」

 岩井家が居を構えるのは埼玉県川島町。3きょうだいは、幼少期と変わらず、走り込み、筋力トレーニングを続け、自宅に設置した器具での懸垂も日課にしている。そして、拠点のリンクスゴルフクラブ(毛呂山町)でショット練習。ラウンドも、埼玉県内のゴルフ場で繰り返している。

明愛「1月上旬までは、千怜と一緒に茨城県内にある父の実家に泊まって自動車教習所に通っていましたが、教習後は2人で83段ある階段を10往復し、その後に練習場でボールを打っていました。まずは1シーズンをしっかり戦える体を作ることに取り組み、1月中旬からラウンド練習もするようになりました」

注目された2021年、最終QT70位で明愛「不甲斐ない」

 岩井家にとって、2021年は忘れがたい年になった。姉妹はアマチュアとしてツアー大会出場を重ね、明愛はパナソニックオープンレディースで3位、6月のリゾートトラストレディスで12位に入った。埼玉栄高時代からの実績も踏まえ、姉妹で注目度が高まる中、プロテストにそろって一発合格(明愛3位、千怜9位)。雄士さん、恵美子さんは祈る思いだったというが、光太は違っていた。

光太「僕は『2人ともテストは通るっしょ』という感じでいました。でも、600人以上が受けて20人程度しか通らないわけで、今は『すごいことをしたんだな』と思っています」

 プロになった姉妹は、9月のステップ・アップ・ツアーで史上初の姉妹2戦連続優勝を果たした。千怜はカストロールレディースで首位に3打差からの逆転、明愛は山陽新聞レディースカップで逃げ切り優勝。2位に3打差リードで迎えた最終18番パー5では、グリーン右の池から2度のウォーターショットを放った。

千怜「自分のやるべきことをやっていたら、スーッと自分の世界に入った状態になり、最後まで強気でプレーできました」

明愛「池の中から打ったのは初めてでした(笑)。最初のは、深め(水深約10センチ)で迷いはありましたが、『行っちゃえ』という感じでした。打ってみると、水圧はあまり感じなかったので、もっと振れば良かったです」

 姉妹への期待値はさらに上がった。だが、最終QTの結果は想定外のものになった。千怜は4日間を通して、アンダーパーがなく通算16オーバーの90位。明愛は第3日に69をマークして81位から59位に浮上、ツアー前半の大半に出場できる40位以内に入るチャンスはあったが、最終ラウンド(R)は75で通算8オーバーの70位で終えた。

千怜「調子が悪く、気分が乗らないという状態が続きました。終わってみて、最後まであきらめない心、調子が悪い中で修正できる力が必要だと感じました」

明愛「難しかったですね。気を抜いていい試合はないということも実感しました。3日目はいいゴルフができてあきらめてはいませんでしたが、不甲斐ないです」

 父も悔やんでいた。娘たちに、プロテストにも匹敵するQTの重要さを伝えきれていなかったことにだ。

「『普段通りでいいよ』『楽しんでこい』と伝えていたので、緊張感が足らなかったかもしれません。結果については2人ともショックだったと思います。同じ93期生でも、前半の19試合に出られる選手がいますから」

「チーム岩井」が立てた2022年の戦略とは

 だが、終わったことをいつまでも悔やんではいられない。2022年シーズンはステップ・アップ・ツアーが主戦場になることを受け入れた上で、「チーム岩井」は事務所のマネジャーとともに下記の戦略を立てた。

<1>前半戦に可能な限り出場

 1シーズン最大8試合の主催者推薦出場をできるだけ使い、メルセデス・ランキングのポイントを稼いでいく。

<2>リランキングで後半戦の出場権を獲得する

 シーズン19試合目のニッポンハムレディース(7月7~10日)終了時、シード選手及び当該年度優勝者以外は、メルセデス・ランキングのポイント順に並び替えられる。このリランキングで後半戦出場権の獲得を目指す。

<3>稲見萌寧の成功例を手本にする

 18年度のプロテストに合格した稲見は、同年の最終QTに進めず、同ランキング103位で19年シーズンを迎えた。しかし、前半戦7試合に出場し、1012万7333円を獲得。リランキング14位に入り、後半戦の出場権を獲得した。

 昨季賞金女王の稲見も、初めてのQTでは失敗していた。しかし、19年シーズンの前半戦7試合で3試合は予選落ちも、残り4試合は9位、29位、5位、3位と上位に入っている。そして、後半戦へとつなげている。つまり、岩井姉妹も、同様にトップ10入りなどの結果が求められる。

 文字通り、1試合も無駄にはできない状況。だが、出場した試合でトップ3に入れば、次戦の出場資格を得ることも踏まえ、姉妹は「試合に出られたら、必死になって頑張りたいです。そして、レギュラーツアーで優勝したいです」と声をそろえた。

 昨季もプロデビュー後、明愛はツアーに5試合、千怜は4試合出場もトップ10入りはない。ともに結果を残したステップ・アップ・ツアーとの「差」も痛感している。

明愛「私が言える立場ではないですけど、ステップは楽しみながらプレーできましたが、レギュラーツアーは常にバチバチで、1打の重みがとても大きい。それを感じました」

千怜「会場の雰囲気が違いますし、レギュラーツアーはグリーンを含めて難しいセッティングになっています。やはり、慣れている選手の方が有利というのを感じました」

 だが、状況でもプロの価値は結果で決まる。2人には新人ながら数多くのスポンサーが付くなど、注目度、期待値は高いままで、足踏みをするつもりはない。

目標は姉妹でのプレーオフ、千怜「お互いを応援しながら」

明愛「早く千怜とレギュラーツアーで優勝争いがしたいです。千怜が優勝したステップの試合で、私は最終日を首位でスタートしましたが、千怜に逆転優勝されて『悔しい』とは思いませんでした。でも、今度は負けたくないですし、一緒にお客さんを沸かせたいです。ボールが池に入って、10センチより浅かったらまた打つかもしれないですね(笑)」

千怜「私が勝った次の試合に明愛が優勝しましたが、最終ホールでウォーターショットするとか、見ていて楽しかったです。私は慎重なタイプなのでマネはしませんが、お互いに強い気持ちでレギュラーツアーを戦い、いつか姉妹プレーオフをしたいです。そうなっても、最後まで話をして、お互いを応援しながらプレーすると思います(笑)」

 日本プロゴルフ史上、親族でのプレーオフは89年、国内男子ツアーのジュンクラシックで尾崎健夫、直道が通算9アンダーで並んで実現した1例がある。2ホール目で弟に勝利した健夫は「もう、こんなのは嫌」と話しているが、幼少期から競い合い、高め合ってきた岩井姉妹は、その状況さえも楽しむことだろう。ともに「長くトップレベルで活躍できる選手」を目指しており、支え合う存在。その目標に向け、今日も走り、クラブを握る。

 〇…光太は、大学を経てのプロ転向を目指している。8歳でゴルフを始め、全国中学選手権4位、高1で日本オープン出場などの実績がある。身長179センチでドライバー平均飛距離は約280ヤード。将来を嘱望されている選手の1人で、千怜に「いつか私たちが抜かされそうな気がします。ショット力は他の男子選手と比べてもすごいと思います」と言わしめている。将来の目標は、海外メジャー大会優勝。昨年のマスターズで松山英樹が初優勝したシーンを見て、「鳥肌が立ちました。そして、本気でここを目指したいと思いました」。当面の目標は、今年の全国高校選手権で団体、個人の優勝。そして、日本アマ、日本ジュニア、レギュラーツアーのいずれかで優勝することで、「特待生として大学に入りたいです」と話している。

■岩井明愛、千怜(いわい・あきえ、ちさと)2002年7月5日、埼玉・川越市で生まれ、3歳の時に川島町に転居。小1でゴルフを始め、千怜は中学で、明愛は高校で個人の全国優勝を経験。直近のデータで、明愛は161センチ。千怜は162センチ。弟の光太は、04年10月19日生まれ。8歳でゴルフを始め、179センチ、84キロ。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)