バルセロナに到着したとき、アンディ・マレー(イギリス)はモンテカルロ・オープンの3回戦で敗れたあと、急きょ「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月24~30日/賞金総額232万4905ユーロ/クレーコート)に出場する…

 バルセロナに到着したとき、アンディ・マレー(イギリス)はモンテカルロ・オープンの3回戦で敗れたあと、急きょ「バルセロナ・オープン・バンコサバデル」(ATP500/4月24~30日/賞金総額232万4905ユーロ/クレーコート)に出場することを決めた理由をこう説明した。

 「モンテカルロで負けたあと、ここでプレーするか、ブダペストに行くか、ただトレーニングするか、僕のチームと話し合った。でもこのところあまり試合をやっていなかったから、どんなにトレーニングしようと関係ない、違いを生むのは試合だ、と僕は感じたんだ。バルセロナには多くの優秀なクレーコートプレーヤーが出場を予定していたから、完璧だったよ。実戦を通しての非常にいい練習ができるはずだ」

 確かに今大会にはラファエル・ナダル(スペイン)、ドミニク・ティーム(オーストリア)、ダビド・ゴファン(ベルギー)や、クレーでは常に手ごわいスペイン選手や南米選手など、多くのクレー巧者がひしめいている。しかし、試合経験をというマレーの意図は初戦から挫かれてしまった。というのも、マレーの初戦(2回戦)の相手となるはずだったバーナード・トミック(オーストラリア)が、試合当日の朝、背中の故障を理由に棄権してしまったのだ。トミックは前日の1回戦でダスティン・ブラウン(ドイツ)をフルセットの戦いの末に下していた。

 マレー自身も今季初めに、ちょっとした故障に苦しめられたが、彼は大会前の記者会見の際に故障からの回復具合をこう説明していた。

 「僕の肘はもう大丈夫だ。先週のモンテカルロでも、かなりいい状態だった。この大会の終わりまでには、完全に回復するよう願っている。故障をしていた間は、練習はできたけどサーブを打てなかった。何週間もサーブを打てないでいると、ふたたびリズムを取り戻すのに時間がかかる。まだこれからコンディションを上げていかなければならない」

 故障もあって今季のスタートぶりはあまりよくなかったマレーだが、いまや全仏のタイトルを狙いうる力をつけた彼にとって、クレーシーズンは、例えば5年前とは違う意味を持つ。

 「僕はクレーコートでの自分が、5年前よりずっといいプレーヤーになったと感じている。当時はクレーの大会で優勝したことはなかったし、クレーでは偉大な選手を倒せていなかったけど、それも今は変わった」とマレーは言う。昨年、彼はクレーのマドリッドでナダルを倒して決勝に至り、ローマではノバク・ジョコビッチ(セルビア)を倒して優勝していた。

 多くの専門家が、今のマレーなら全仏で優勝することは可能だと考えている。その意味でも、今季復調した元『クレーの帝王』ナダルとマレーの前哨戦での対決には注目が集まっている。これについてマレーは、「ここはラファ(ナダル)の庭のような大会だが、僕らが対戦するには双方が決勝に進む必要がある。彼と対戦することができたら素晴らしいと思うよ」と言うにとどめた。

 バルセロナはマレーにとって懐かしい場所でもある。ユース時代、この町にテニス留学していたことがあったからだ。マレーはサンチェスーカサル・アカデミーでトレーニングをしていた時代を、「ここに2年間住んでいたことがある。あれは僕の人生でもっとも素晴らしい年のひとつだ。ここには素晴らしい思い出がある。家族の下を離れたのは初めてだったが、初めて自由を手にした期間でもあった」と振り返った。

 マレーはまた、ナダルとロジャー・フェデラー(スイス)が“第二の春”を経験した今季初めの活躍を振り返り、「昨年故障していたナダルとフェデラーが素晴らしいプレーをし、今季の初めはエキサイティングだったよね。すべてのトップ選手が少し年齢を重ね、より故障をする可能性が出てきている。いずれにせよ、シーズンの残りで何が起こるか見るのが楽しみだよ」と言った。

 一方、このバルセロナに参上しているズベレフとティーム、そしてニック・キリオス(オーストラリア)らの次世代スターについては、「キリオスとズベレフのことはすごく気に入っている。若いときには多くのことが変わりかねないけど、キリオスは本当にいいね。彼はすべてのサーフェスでいいプレーをしているよ」とし、賛辞を送った。

 マレーは、今や定着した感じさえある世界ナンバーワンという地位について、「ナンバーワンだからと、よりプレッシャーを感じるということは今はもうない」とも明かした。「昨年末にはナンバーワンになるための大きなプレッシャーがあったんだ。でも一度、1位に至ったら、プレッシャーがそれ以上増えるということはなかった」。

 今、マレーは世界一という形容句に注意を払うことはないと言う。

 「コートの上に立ったときには、ランキングのことなど考えない。僕が世界3位や4位のときだって、ランキングなんて関係なかった。コートでは、ランキングではなく、勝つことを考えるものなんだ」

 全仏に向けての実戦調整を目指すマレーは、3回戦で第16シードのフェリシアーノ・ロペス(スペイン)と対戦する。

(テニスマガジン/ライター◎木村かや子)