元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説~2022年初場所編元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、1月9日から始まった初場所(1月場所)における注目力士、躍進が期待される力士について語…

元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説
~2022年初場所編

元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、1月9日から始まった初場所(1月場所)における注目力士、躍進が期待される力士について語ってもらった――。

 遅ればせながら、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 大相撲初場所が1月9日から両国国技館で始まりました。昨年末には落ちつきを見せていた新型コロナウイルスですが、ここに来て感染者が急速に増加。そうした状況を受けて、私たち相撲協会員も改めて気持ちを引き締めて、本場所に臨んでおります。

 ともあれ、一年の始めとなる初場所とあって、各力士たちの気合いは相当なものです。その分、土俵上では初日から内容の濃い戦いが繰り広げられています。

 なかでも、横綱3場所目となる照ノ富士は、本当に"強い"相撲を取っています。初日、横綱にとっては取りづらい相手と思われた小結・大栄翔戦でも、土俵際まで攻め込まれながら、最後は叩き込みで白星を飾りました。

 その後も、6日目の玉鷲戦では敗れたものの、順当に白星を重ねています。崩れない、慌てない、負けない。安定感の横綱がいると、やはり場所が引き締まりますね。

 その他、序盤戦で目を引いたのは、御嶽海と隆の勝の両関脇です。

 御嶽海はこの連載コラムでも、ほぼ毎回のように名前を挙げてきた"期待の力士"です。実際、優勝2回、関脇在位18場所の実力者であり、早くから「大関候補」と言われてきました。しかし、安定した成績が続かず、年下の貴景勝や、一昨年に三役入りを果たした正代らに先を越されてしまいました。

 そして、昨年末には29歳となった御嶽海。先を考えると、そろそろ結果を出してほしいところですが、昨年の九州場所(11月場所)では11勝と好成績を挙げて再び大関昇進を狙える機会が巡ってきました。

 大関昇進の目安は、3場所の勝ち星が33勝以上と言われていて、基本的にはふた桁勝利を3場所続けることが必要となります。そのあたりは本人も認識しているようで、場所前には「30代になれば、力は落ちる。それを少しでも遅らせるためにも、20代最後の年はしっかり稽古したい」と、この一年に向けての決意を口にしていました。さらに、「久しぶりに優勝したい。でも、まずは一歩、一歩。ふた桁勝利を狙いたい」と意欲満々。そうなると、周囲の期待も膨らみます。

 現に場所前に見せた意欲が、今場所の相撲っぷりにも表れています。4日目の小結・明生戦では、取り直しの一番で一気に相手を押し出す最高の相撲を見せました。ああいう相撲が取れれば、"次"につながると思いますし、「15戦全勝したら(大関)昇進もありうる」と審判部の親方も発言しています。今後も御嶽海の動向から目が離せません。



諦めない姿勢を見せて奮闘している関脇・隆の勝

 一方の隆の勝は、地味ながら確実に力をつけてきた力士です。一昨年の九州場所から4場所連続で関脇を張って、一度は転落するも今場所から関脇に復帰。「おにぎり君」のニックネーム同様、体に厚みが出てきて、一段と楽しみな存在になってきました。

 攻め込まれても最後まで諦めず、横の動きもできるようになりました。4日目には相撲巧者の遠藤との一番に敗れて2敗目を喫しましたが、ここでも"諦めない"姿勢を披露。その粘りは評価できると思います。

 彼は幕下時代、実は錣山部屋に出稽古に来ていた時期があったんです。私が教えたのは「準備運動を大切にすること」ぐらいでしたが、そういったつながりのある力士が幕内の土俵で活躍してくれるのはうれしいものですね。

 彼も場所前に「大関を狙う」と決意表明。今場所はまだ、白星を積み上げることができていませんが、大関を狙える"器"であることは間違いありません。この一年、注目していきたい存在です。

 若手に目を向ければ、新入幕の王鵬の活躍ぶりが際立っています。昨年の夏場所(5月場所)で再十両を果たした時にも触れましたが、祖父が横綱・大鵬関、父が関脇・貴闘力というサラブレッド。さらに、次男(幕下・納谷)、四男(幕下・夢道鵬)も力士という相撲一家です。

 十両を1年ほどで卒業し、「新入幕の今場所はどうかな?」と注目していましたが、初日から期待以上の相撲を見せています。幕内の土俵でのびのびと取っているし、これまでテレビで見ていた力士たちと実際に相撲を取れるうれしさが満ち溢れている感じがします。

 技術的にはまだ決まった"型"はないようですが、左からのおっつけがいいので、個人的には押し相撲を伸ばしたほうがいいと思っています。

 現在はコロナ禍にあって出稽古ができないため、王鵬にとってはほぼ毎日が初めて対戦する相手との取組。ベテラン力士にはうまく取られてしまうこともあるでしょうが、負けても自分の相撲を取りきってほしいところ。経験を重ねた1年後、どんな力士になっているのか、すごく楽しみです。

錣山(しころやま)親方
元関脇・寺尾。1963年2月2日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は得意の突っ張りなどで活躍。相撲界屈指の甘いマスクと引き締まった筋肉質の体つきで、女性ファンからの人気も高かった。2002年9月場所限りで引退。引退後は年寄・錣山を襲名し、井筒部屋の部屋付き親方を経て、2004年1月に錣山部屋を創設した。現在は後進の育成に日々力を注いでいる。