昨年12月の全日本選手権フリーダンスの村元哉中・髙橋大輔組 昨年12月25日、さいたま。全日本フィギュアスケート選手権のアイスダンスは全日程を終了し、リンク内に表彰台が設置されていた。場内のアナウンスを受け、優勝した小松原美里・尊組が一番高…



昨年12月の全日本選手権フリーダンスの村元哉中・髙橋大輔組

 昨年12月25日、さいたま。全日本フィギュアスケート選手権のアイスダンスは全日程を終了し、リンク内に表彰台が設置されていた。場内のアナウンスを受け、優勝した小松原美里・尊組が一番高い台に立った。

<おめでとう!>

 次にコールされた村元哉中・髙橋大輔組は心の底から祝福する様子で、小松原組に抱きつかんばかりの"エアハグ"をした。コロナ禍でなかったら、死力を尽くして戦った者同士の抱擁を交わしていただろう。

 人生をかけ、勝負をした直後、勝者を純粋に祝うのは簡単ではない。たとえば、サッカーの表彰式では、準優勝に終わった選手が首にかけられたメダルをその場ではぎとるという光景も珍しくない。口惜しさや後悔や不甲斐なさなどさまざまな感情に飲み込まれる。自制心がきかず、怒りに似た憮然(ぶぜん)とした態度をとってしまうのだ。

「かなだい」と呼ばれ親しまれるふたりは、最後まで愛嬌よく笑顔で記念撮影に収まっていた。その明るさが、かなだいが行く道を照らすのだろう。

【ひとつのミスに泣く】

「悔しいです」

 全日本選手権後の会見、ふたりは何度も正直な心境を吐露していた。迫りくる後悔を、笑顔で振りきるようだった。

 前々日に行なわれたリズムダンス、パターンダンス・ステップシークエンスでふたりは交差し、転倒した。「練習ではすることがない」というミスが響いて、得点は伸びなかった。フリーダンスでは巻き返して1位になったものの、合計スコアは1.86点という僅差で敗れた。結果的に、たったひとつのミスが五輪への道を閉ざしたとも言える。

 五輪選考基準は4つの項目で、①全日本選手権勝者、②世界ランキング、③今シーズン世界ランキング、④国際スケート連盟(ISU)最高得点だった。③、④はかなだいがリードし、小松原組と2対2になったが、最後は全日本の結果が考慮された。大会前に決まっていた明確な基準ではなかっただけに、不条理さを感じる人も少なくなく、物議をかもした。

 ただ、かなだいは前向きだった。

「世界選手権の枠取りという部分でも、2枠取って帰って来られたら、2023年の世界選手権では(小松原組と)一緒の場に立てるかもしれない。その意味でも僕たちは精一杯、頑張りたいです」

 五輪代表発表の翌日、髙橋は健闘を誓っていた。いささか人がよすぎるかもしれない。しかし、その真摯な人柄が躍進を生んだ、とも言える。

【ふたりにしか出せない世界観】

 2021−2022シーズン、かなだいはNHK杯、ワルシャワ杯で立て続けに日本選手1位になっている。しかも、歴代得点記録を鮮やかに更新した。アイスダンサーとしては時間の足りなさが明白だったが、「100%以上を出すしかない」という覚悟で、瞠目(どうもく)に値する結果を出した。北京五輪出場は大きな目標だったはずだが、すべてではない。四大陸選手権、世界選手権の出場選手として選出されたのは快挙で、そう考えたら勝ち取ったもののほうが大きかった。

 髙橋に至っては、シングルから転向して2年目である。2010年バンクーバー五輪で男子初のメダルを勝ち取り、同年の世界選手権では優勝。2018年には4年ぶりの復帰で全日本2位になり、まるで別の競技と対峙した。尋常ではない熱意で肉体改造から挑み、エッジワークをあらためて磨き、調和を高め、抜群の音感覚で物語を表現するまでになった。そしてアイスダンスという人気面で発展途上だった競技に、革命的変化も与えた。

 フィギュアスケーターとしてのまっすぐな探究心が、その道を切り拓いているのだ。

「アイスダンスを、もっと知りたいと思いました。そうすれば、スケートの広がりが感じられるはずで」

 かつて髙橋は子どもが夢中になるモノを見つけたように、アイスダンス転向の理由を説明していた。

「できるだけ長く、スケートで表現がしたいと自分は思っています。舞台などもやらせてもらって、まだまだスケートの可能性があると感じました。そのためには、(アイスダンスで)"人と組む"という面白さと大切さも感じて。今の自分は競技者か、プロか、その境をなくしています。どっちか、というのはありません」

 アイスダンスでふたりが引き合ったのは、運命的だった。

「大ちゃん(髙橋)は、音の捉え方がやっぱり違います。腕の使い方ひとつから体の動かし方、エッジの使い方。どれもダンスに生かせるはずです。ふたりにしか出せない世界観が出せるんじゃないかって」

 村元はカップルを組んだ当初の会見で語っていたが、その予感は当たっていた。今シーズン取り組んだリズムダンスの『ソーラン節&琴』も、継続で使ったフリーの『ラ・バヤデール』も、もはや「かなだいのプログラム」だ。

「大ちゃんとカップルを組んだ当初は、どこまで成長できるかというのは想像していませんでした。でも、頭の隅では世界と戦えるチームになるとも感じていて。それを証明できたのは、大ちゃんの努力があってこそです。自分も一緒に滑ることで人間的にも成長できたし、大ちゃんがアイスダンスをしてくれなかったら、たぶん引退していたので」

 村元は全日本後に語っている。

 ふたりの物語は、これからも続く。序章から山あり谷あり、大盛り上がりだった。佳境はまだ先か。

 次の舞台は、1月18日に開幕する四大陸選手権だ。