2021年のシクロクロス全日本選手権が12月11日から12日に、茨城県土浦市で開催された。会場は茨城が誇るナショナルサイクルルートに指定された「つくば霞ヶ浦りんりんロード」のゲートウェイである「りんりんポート土浦」を中心としたエリア。都心に…
2021年のシクロクロス全日本選手権が12月11日から12日に、茨城県土浦市で開催された。会場は茨城が誇るナショナルサイクルルートに指定された「つくば霞ヶ浦りんりんロード」のゲートウェイである「りんりんポート土浦」を中心としたエリア。都心に近く、土浦駅から徒歩でのアクセスも可能であり、十分な量の駐車場も用意された注目の施設だ。コースは「りんりんポート土浦/川口運動公園周辺特設コース」として、隣接するマリーナのヨットやクルーザーも眺められる川口運動公園周辺に設営された。
このコースのスタートは川口運動公園内の陸上競技場「J:COMフィールド」のトラックに設定されている。ここから広場内のテクニカルなエリアを抜け、りんりんポート方面に向かい、斜面を生かしたアップダウンを越えたのち、マリーナに向かい「J:COMスタジアム」「J:COMフィールド」の外周を回るという計2.7kmのコースが使用される。ほぼ平坦と言ってよい設定で、天候次第ではあるが、高速の展開が予想された。
11日はマスターズを含むカテゴリーが開催され、12日には男女のトップカテゴリーであるエリート女子、男子のレースが開催された。
はにかんだ笑顔を見せる渡部春雅(明治大学)
誇らしげに1番を指差す福田咲絵(AX cyclocross team)
エリート女子の有力選手の多くがU23に分類される若手選手。今季はJCX戦を連勝し、この全日本に臨む福田咲絵(AX cyclocross team)やジュニアを連勝してきた渡部春雅(明治大学)が注目を集めた。2018、2019年のエリート女子の覇者である松本璃奈(RIDE MASHUN SPECIALIZED)らの存在も気になるところだ。ただし、今回は平坦に近く、水分を含んだ泥区間が一部あるとはいえ、テクニックに長けたMTB系よりも、スピードのあるロード系の選手の方に分があると言えるかもしれない。
リラックスした笑顔でスタートラインに並ぶ女子選手たち
午後1時、28名のトップ選手が参加する女子エリートのレースがスタートした。最初に飛びだしたのは川崎路子(PAXPROJECT)だ。一団はフルスピードでトラックエリアを抜け、コースへと飛び出していく。
スタート。川崎路子(PAXPROJECT)が飛び出した
すぐに優勝候補の渡部がトップに躍り出た。ここにピタリと福田がつく。さらには、今シーズンから本格的にシクロクロスに参戦しはじめ、じわじわと頭角をあらわしているMTB出身の矢吹優夏(B.B.Q)もここに食らいついた。早々に先頭3名のパックを作り、ハイペースのまま周回をこなしていく態勢となった。
早々に渡部春雅(明治大学)、福田咲絵(AX cyclocross team)、矢吹優夏(B.B.Q)3名のパックが形成された
落ち着いて先頭を行く渡部
後ろには松本や、昨年全本選手権で3位に入っている小林あか里(信州大学)らが続き、先頭3名を追うが、ハイペースで周回を刻む3名との差を詰めることができない。
※優勝争いの行方は!? 続きは2ページ目→
先頭は誰にも渡さないという気迫をみなぎらせながら、渡部が前を行く。渡部は自転車競技ではロード、シクロクロス、MTB、トラックレースに参戦し、いずれの種目でもそれぞれの年代での国内トップを経験しており、その他トレイルランニング、スノーシュー、トライアスロンなど他競技でも勝利を量産してきた逸材だ。一方、福田は慶應大学在学中にインカレロードを制した経験を持ち、タイムトライアルなどでも力を発揮していた選手だ。
テクニカルなエリアもハイペースで越えていく3名の集団
安定した走りを見せる渡部
つづらが続く区間で、渡部が軽く転倒し、その隙に福田がわずかに前に出た。差を広げようとペースアップする福田を、渡部が全力で追う。
ペースの落ちない2名から、徐々に矢吹が離されていく
この2名に食らいついていた矢吹だが、ついに堪えきれず脱落してしまう。ここで、事実上、日本一を決める戦いは、渡部と福田の2名の間で争われることになった。
1対1の緊迫した時間が続く
スピードに自信を持つロード出身の福田か、MTBでも強さを発揮している渡部か。前を行く福田に、ぴったりとついて走る渡部。
終盤に入り、疲れを見せない渡部がわずかに先行し、軽快なバイクさばきでハイスピードのまま突き進む。福田との差が大きく開かくことはなかったが、それでも、福田はこの絶対的に存在する差を埋めることはできなかった。
ホームストレートに現れた二人。先行していた渡部に福田がスプリントで迫る
渡部が先行したまま、二人がホームストレートに現れた。フィニッシュラインを目指し、全力でペダルを踏み込む渡部に、全ての力をかけ、スプリントで迫る福田。だが、渡部は福田を寄せ付けぬまま同じくスプリントでフィニッシュに向かう。軽く後方を振り返り、自分が勝利を掴もうとしていることを確認。そのまま力を抜くことなく、フィニッシュラインに達すると、ようやく地面を叩きつけるように力強く、そしてもう一度今度は上体を起こし、ガッツポーズを決め、はじけるような笑顔でフィニッシュ。新女王の座を掴み取った。矢吹は粘り、3位表彰台に食い込んだ。
勝利を確信し、笑顔で手を突き上げた渡部
渡部の脚には転倒と健闘のあとが残っていた
MTB(クロスカントリー)、シクロクロスの両種目でトップを走っていた今井美穂が東京五輪を最後に、競技引退を決め、新たな女王は誰になるのかと注目を集めた女子エリート。その座に輝いた渡部は、まだ18歳。自転車競技のあらゆる種目で注目を集める渡部のポテンシャルは計り知れない。これからどんな成長を見せるか、楽しみだ。
女子エリート笑顔の表彰台。3名は達成感のある表情を見せた
レースが終わり、プレッシャーから解き放たれたメダリストたちは屈託のない笑顔を見せた
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【結果】シクロクロス全日本選手権2021(女子エリート)
1位/渡部春雅(明治大学)47:30
2位/福田咲絵(AX cyclocross team)+0:01
3位/矢吹優夏(B.B.Q)+0:39
4位/小林あか里(信州大学)+1:25
5位/西形舞(TRC PANAMA REDS)+3:01
画像:Satoshi ODA