「オープン球話」連載第97回 第96回:五十嵐亮太から直電で引退報告>>【第一印象は「角富士夫に似ている」】――さぁ、2…

「オープン球話」連載第97回 第96回:五十嵐亮太から直電で引退報告>>
【第一印象は「角富士夫に似ている」】
――さぁ、2022年の幕開けです。今回からは、「代打の神様」として昨年の日本一の立役者となり、日本シリーズ第6戦で決勝タイムリーヒットを放った川端慎吾選手について伺います。川端選手は2005年高校生ドラフト3巡目でのプロ入りでした。
八重樫 慎吾が入団してきた時は、僕は一軍のバッティングコーチでした。印象としては、「とにかくバットの使い方が柔らかいな」と感じたし、「これは面白いぞ」と思いましたね。最初はずっと「誰かに似ているな」と思っていたんだけど、角富士夫に似ていることに気づいたんだよね。

プロ入り当初から打撃センスが高く評価されていた川端
――くしくも、両者とも背番号5を背負っていましたね。1980年代にヤクルトのサードのレギュラーとして活躍した角さんと川端選手はどういう点が似ていたんですか?
八重樫 入団当初は高校を出たばかりでまだ体もできていなかったから、スイングスピードが特別に速かったわけじゃないけど、ボールをとらえるポイントがしっかりしていたんです。そして、タイミングの取り方も抜群だった。右打者と左打者の違いはあるにしても、角の打ち方にそっくりだったんですよ。
――高卒野手としてはかなり完成されていたんですね。以前、この連載では「岩村明憲がプロ入りした際も、すでに完成されていた」とのことでしたが、岩村さんと川端選手を比較した場合、いかがですか?
八重樫 バッティング全般に関して言えば、パワーも兼ね備えていた岩村のほうが完成度は高かったと思います。でも、慎吾も高校生とは思えないセンスの持ち主でした。バッティングで大切な「ポイントとタイミング」がすでに完成されていた。これは天性のものだから、あとは力強さだけ。これは体ができてきたら、すぐにクリアできる問題でした。
――バッティングに大切なふたつの要素を入団時から兼ね備えていたということは、数年後にレギュラー選手になる姿はすでに見えていたんですね。
八重樫 体が完成すれば問題なく打つだろうな、とは思っていました。きちんと筋トレをして、走り込み、振り込みをしていけば何も問題はないだろうと。もちろん、同時に守備もプロのレベルまで鍛え上げなければいけなかったですけどね。
【同世代では珍しい、チャラチャラしない「昭和の男」】
――守備に関しては、長く不動のショートとして君臨していた宮本慎也さんがベテランの域に差しかかり、「ポスト宮本」が重要課題となっていた頃の入団でした。
八重樫 入団した時から、慎吾は「ポスト宮本」の最有力候補だったし、レギュラーは確実視されていましたよ。ただ、僕からすればちょっと猫背気味だったのも気になったし、ショートとしてはスピード感がないのも気になっていました。
――入団から数年は故障にも悩まされましたが、2010年あたりから徐々に試合出場も増え、2011年にはショートのレギュラーに定着しました。
八重樫 僕はもうコーチの職は離れていたけど、この頃には課題のスイングスピードも上がっていたし、ゲームへの慣れも生まれていたし、しっかりと下半身を使えるようにもなっていたと思います。とにかく真面目だったのがよかったです。
--------八重樫さんは一貫して「真面目さ」を重視していますよね。
八重樫 ああいうタイプの男は好きですね。川端はあまり感情を表に出すタイプじゃないんです。でも、陰ではコツコツと自分のやるべきことをしっかりできるタイプなんですよ。彼は1987年生まれだけど、同年代の選手と比べても珍しくチャラチャラしていない。ひとりだけ「昭和の男」という感じですね。私生活のことは知らないけど、たぶんふだんから浮ついたところがないタイプなんじゃないかな?
----2015年、真中満監督の下で優勝した時には首位打者も獲得しました。
八重樫 故障に苦しんだことも多かったけど、彼の能力からすれば首位打者というのは当然の結果だと思います。あの年は「攻撃的2番打者」として活躍しましたよね。彼の技術があれば、バントなんかしなくても進塁打は打てるし、ヒットだって打てますから。ホームランは少なかったけど、この頃にはもう力負けしないスイングはできていました。あの年のヤクルトの優勝は、慎吾の活躍がとても大きかったと思うな。
【椎間板ヘルニアからの見事な復活劇】
----川端選手といえば、バットコントロールのすばらしさが特徴です。この点に関して、技術的にはどのようなところが優れているんですか?
八重樫 彼は入団1年目から、「ギリギリまで手元に引きつけて打とう」という意識を持っていました。以前、この連載で話した土橋勝征と同じように、慎吾も試合前のバッティング練習の時、マシンを使ってファールの練習をしていましたから。それが可能なのは、最初に言ったようにタイミングがいいのと、ボールをとらえるポイントがしっかり確立しているからなんですよ。
----右打者の土橋さんは、「あえて一塁側ベンチにファールを打つ練習をしていた」とおっしゃっていましたが、川端選手も同様の意識だったんですね。
八重樫 土橋ほど明確に練習していたわけじゃないけど、慎吾も「ボールを手元に引きつけよう」という意識は強かったですね。そして、徹底的に粘りながら、相手ピッチャーに少しでも球数を投げさせる。そんな意識も強かったんじゃないかな? 彼の場合はローボールが大好きで、低めの球でもきちんとボールをとらえたり、カットしてファールにしたりする技術があったから、首位打者も獲得できたんだと思います。
--------しかし、2015年以降は椎間板ヘルニアを発症。腰の手術も経験し、苦難のシーズンが続いていました。
八重樫 一度、彼が腰をかばいながら歩いている姿を見たけど、まるで老人のようでとても痛々しかったです。最初は「できるだけ手術を回避しよう」と考えていたと思うんだけど、最終的に手術を決断したのは、「手術しなければ引退だ」というところまで追い込まれていたのかもしれない。ひょっとしたら、日常生活に支障が出るまで悪かったのかもしれないですね。
----その後はリハビリを続けながらの出場が続きましたが、昨年は代打の神様として大活躍しました。八重樫さんも現役晩年は代打として活躍されましたが、2021年の川端選手についてはどのように見ていますか?
八重樫 長いリハビリ生活は本当に大変だったと思います。僕としても彼の活躍は嬉しかったし、代打の切り札として、精神的にも、技術的にも「さすがだな」と感心する点がたくさんありました。次回はその辺りをお話ししましょうかね。
(第98回につづく>>)