サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「試合後のひ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「試合後のひと仕事」。90分間を過ぎても続く場外での「延長戦」の意義を、サッカージャーナリスト・大住良之が考える。

■ミシャが口にしたオーストリアでの逸話

 浦和レッズを率いていた時代のミハイロ・ペトロヴィッチ監督(ミシャ、現在はコンサドーレ札幌監督)が、大敗した後の記者会見に出てきて、こんな話をしたことがある。

「オーストリアでプレーしていたとき、ある試合で大敗を喫した。ロッカールームで、監督は『こんな試合の後に記者会見などに行きたくない』とつぶやいた。するとひとりの選手がこう言った『監督、0-6で1試合負けるのと、0-1で6試合負けるのとどっちがいいですか』。その言葉を聞いた監督は、気を取り直して記者会見に出ていった」

 私は、監督に意見を言った選手はミシャ本人ではないかと直感したが、確認することはできなかった。

 そのミシャが憔悴しきって記者会見に出てきたのは、2014年の第33節、サガン鳥栖とのアウェーゲームだった。数試合前までは2位ガンバ大阪に勝ち点で5もの大差をつけて首位を走っていた浦和。第32節のG大阪との直接対決で勝てば優勝が決まる状況だったが、終盤に逆転されて敗戦。それでも勝ち点2のアドバンテージがあり、第33節の鳥栖戦で勝てば優位な立場のままで最終節を迎えられるはずだった。そしてもしこの第33節でG大阪が敗れれば優勝決定もあった。

■浦和に訪れた悲劇

 浦和は後半24分に阿部勇樹のPKで先制し、相手がそのときの反則で10人になっていたこともあってそのまま危なげなく試合を進め、90分を過ぎた。しかし「4分間」と示されたアディショナルタイム3分を回ったとき、鳥栖に左CKが与えられる。鳥栖GK林彰洋が上がってきたのに気を取られた浦和だったが、MF藤田直之がけったボールは、後半22分に退場になったDF菊池直哉の穴を埋めるべくFW池田圭と交代してはいっていたDF小林久晃の頭にぴたりと合った。ボールが浦和ゴールの右隅に吸い込まれたのは、私の時計で後半48分54秒のことだった。

 同じ日にホームでヴィッセル神戸と戦ったG大阪は3-1の勝利。この時点で、G大阪が浦和と勝ち点で並び、得失点差により首位が入れ替わった。

「いまの状況でコメントするのは難しい…。シーズンの半分近く保持ししてきた首位を、最終節を前に譲ったが、あきらめずに、可能性がある限り戦いたい」

■小さな声でミシャが語った一言

 試合後、会見場に出てきたミシャは、絞り出すように最初のコメントを語った。いつもなら、どんな結果でも真っ先に手を上げてミシャに質問する私も、このときはそれ以上彼に話をさせる気にはなれなかった。結局誰も質問をせず、司会をしていた鳥栖の広報が会見を終了させた。立ち上がりながら、ミシャは小さな声でこう言った。

「質問せずにいてくれてありがとう」

 だが、こうした例はごく希と言っていい。記者たちはときに残酷と言っていいほどストレートに「敗軍の将」に詰問する。私もあからさまに監督から怒りの言葉を浴びせられたことがあったし、そうでなくても、監督たちが怒りを腹に収めて話したことが何回もあったはずだ。ときにそれは、痛みはともなっても必要な質問であることもあったはずと思いたいが、馬鹿げた質問であることも多かったに違いない。

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