全国高校サッカー選手権大会の記念すべき第100回大会は、青森山田高校が制した。抜きんでた強さを示した一方で、細部にまで…
全国高校サッカー選手権大会の記念すべき第100回大会は、青森山田高校が制した。抜きんでた強さを示した一方で、細部にまでこだわる勝利へ徹底する姿勢も見せていた。また、敗れた側に立てば違う見方ができる。サッカージャーナリスト・後藤健生が、高校サッカーを通じて、あらゆる角度からサッカーの奥深さを考える。
■各カテゴリーで頻発した番狂わせ
さまざまな工夫をしてジャイアントキリングを起こしたチームのことも、勝負にこだわって勝ち抜いた青森山田のことも大いに称えておきたい。
ちなみに、「ジャイアントキリング」が多発したのは高校選手権だけではなかった。
12月の初めにJリーグが終了すると、年末から年始にかけて、男女の各年代のさまざまなカップ戦が開催される。そして、2021/22年シーズンのカップ戦では実に多くの「ジャイアントキリング」が発生した。
第1種の選手権、つまり第101回天皇杯全日本選手権大会では、準決勝ではJ1リーグで圧倒的な強さを発揮した川崎フロンターレが、J2降格が決まったばかりの大分トリニータに敗れるという大波乱が起こった。
大分は守備を固めてアップセットを狙ったのだが、延長戦で残り時間がないところで川崎に先制される。「万事休す」かと思われた。だが、そこから実にスムースにパワープレーに切り替えて、最後はトップに上がったDFのエンリケ・トレヴィザンが同点ゴールを決めた。スムースにやり方を変えたあたりが、片野坂知宏監督が長い時間をかけて作り上げてきたチームの完成度を示していた。
皇后杯全日本女子選手権大会では、日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織である日テレ・東京ヴェルディメニーナ(18歳以下のチーム)が、“初のプロリーグ”と銘打って発足したWEリーグで首位を独走しているINAC神戸レオネッサと、同じくWEリーグ所属の大宮アルディージャVENTUSをともに2対1のスコアで連覇して準決勝まで勝ち上がってきた。
そして、準決勝では準々決勝で“姉貴分”のベレーザを破ったジェフ・ユナイテッド市原・千葉レディースと対戦したのだが、メニーナが90分間ボールを握って、まるで川崎フロンターレのようなリズムでパスを回し続けた。ただ、決定力に欠けて、前半立ち上がりの失点を返すことができずに決勝進出は逃してしまった。しかし、いくら堅守が特徴のチームとはいえ、WEリーグ所属のジェフ・レディースが18歳以下のチームを相手に守りを固めて逃げ切って勝利をつかんだというのは、実にシュールな光景としか言いようがなかった。
「ジャイアントキリング」こそがカップ戦の華なのではあるが、今シーズンの各カテゴリーのカップ戦では何度もそんな光景を目にしたのだった。
■サッカーを面白くする弱者と強者の駆け引き
基本的には歓迎すべきことだ。
戦力的に劣るチームが、「自分たちのサッカー」と称して普通に戦って、そして“普通に敗退する”のでは、サッカーの醍醐味を味わえない。サッカーという競技は、ラグビーやバスケットボールなどに比べるとはるかに番狂わせが起こりやすい競技なのだ。
戦術的に工夫をして、全員が気持ちを一つにして戦い、そこにちょっとした幸運が付け加われば、かなりの戦力差でもひっくり返すことができる……。それが、サッカーというスポーツの面白さなのだ。
そして、一方では強者の側のチームは、そうした「ジャイアントキリング」を起こさせないために、いかに効率的にゴールを決めるかという方法論を追及していくことでこのスポーツは発展していく。
川崎フロンターレは、リーグ戦では他を寄せ付けない強さを誇っていた。だが、参加した3つのカップ戦(天皇杯、YBCルヴァンカップ、そしてACL)ではいずれも、試合自体には敗れなかったものの、PK戦やアウェーゴール・ルールによって決勝進出を阻まれてしまった。
2022年シーズンでも川崎はJ1リーグ優勝候補の最右翼にいる。彼らが目指すべきは、カップ戦でも勝てるようになることではないか。守りを固める相手から、確実にゴールを奪い取る方法の確立だ。
たとえば、青森山田がやったようにセットプレーを改善することなども、考えるべきポイントの一つだろう。
そして、そうした戦術的な戦い方が広まっていけば、それは日本のサッカー文化をさらに豊かにすることにつながる。
■ワールドカップでの日本代表の勝利に必要なもの
日本代表チームは、アジアでの戦いでは守りを固めてくる相手をどう崩すかが課題となる。アジアのチームで日本と互角の戦いを挑んでくるのは、韓国、オーストラリア、サウジアラビア、そしてイランの4つだけだ。他のチームは、日本(韓国などの4か国)相手の試合では守りを固めてカウンターを狙ってくる。
そんな相手に確実に勝たなければいけないのだ。
日本代表については、かねてからセットプレーのバリエーションの貧弱さが指摘されている。かつてのように直接FKを決める選手もいないし、CKのパターンもそれほど多くはない。
青森山田の優勝を見ても、セットプレーの整備が重要なのは間違いない。
また、日本代表はワールドカップ本大会に参加すれば、逆にアップセットを狙う側の立場で戦わなければならないのだ。そうした意味でも、国内のトーナメントで「ジャイアントキリング」が多発するようになれば、それが日本の選手の血肉となり、ワールドカップで巨人を倒す結果につながるかもしれない。
青森山田の圧勝という大会からも、読み解くべきことはたくさんあった。