全国高校サッカー選手権大会の記念すべき第100回大会は、青森山田高校が制した。抜きんでた強さを示した一方で、細部にまで…
全国高校サッカー選手権大会の記念すべき第100回大会は、青森山田高校が制した。抜きんでた強さを示した一方で、細部にまでこだわる勝利へ徹底する姿勢も見せていた。また、敗れた側に立てば違う見方ができる。サッカージャーナリスト・後藤健生が、高校サッカーを通じて、あらゆる角度からサッカーの奥深さを考える。
■話題のCKと、その対策
今年度で「第100回」を迎えた全国高等学校サッカー選手権大会では、青森山田高校が圧倒的な強さで優勝した。
準決勝では山口県の高川学園を6対0、決勝戦では熊本県の大津高校を4対0という大差で破っての優勝だった。決勝戦では大津にシュートを1本も撃たせないという完勝。高川学園もシュートわずかに2本に抑え込まれてしまった。
今年度の大会で話題になったのが高川学園が取り入れた、あの“グルグルCK”だった(「トルメンタ」とスペイン語を使うともっともらしく聞こえるのだが……)。たしかに、目新しい方法で、対戦相手としてはマークの付け方の約束事をはずされてしまうのだろう。そこに意識を向けられて集中を保てないという効果もあるかもしれない。
準決勝で対戦することになった青森山田は、さっそくトレーニングで控え選手にこれを再現させてCKの場面での守備対策を練っていたと伝えられている。圧倒的な戦力の差があっても、細部にもこだわって準備をするあたりが、さすがに常勝軍団の青森山田らしいところだ。
だが、この試合の高川学園のCKはゼロ。そして、青森山田のゴールキックは1本だけだった。つまり、高川学園が青森山田陣内のゴールラインまで辿り着いたのが、わずか1回だけだったというわけである。CKやゴール近くでのFKを獲得することができなければ、いくらセットプレーのトリックを用意しても勝負にはならない。
■相手の上を行ったセットプレーの有効性
高川学園は青森山田に対して5人のDFを並べて対抗した。
とにかく失点を抑えて、セットプレーかカウンターによる“一発”に懸けたわけである。たしかに、あれだけの戦力の差があれば、それが勝利の確率を上げる最良の選択だったのは間違いないだろう。
だが、開始3分に青森山田の方がセットプレー(FK)から先制。前半のうちにCKから2点目を決められた時点で勝敗は決してしまった。“強者”である青森山田の方がセットプレーから得点を重ねたわけである。
青森山田は、セットプレーを実に有効に使った。
決勝戦でも、前半37分の先制点はCKからだった。藤森颯太の左CKの場面。ファーサイドにいたDFの丸山大和がニアサイドに向かって走り込む。藤森のキックは、その丸山の頭にピンポイントで届いた。完全にパターン通りのCKだった。
そして、青森山田はCKのバリエーションが実に豊富だった。ニアサイドに速いボールを蹴ったり、同じニアでもグラウンダーのボールを入れたり、ファーサイドに直線的に入れたり、高いフワッとしたボールを入れたり……。左CKは藤森の右足、右CKはキャプテンの松本玖生の左足と決まっているが、時折、キッカーを変えることもある。
それが、青森山田の最大の武器だった。
青森山田との試合ともなれば、対戦相手は当然のように守備を固めてくる。いくら戦力に差があると言っても、守りを固める相手を崩すことは容易ではない。そんな時に、セットプレーが非常に有効なのだ。
■意図的に使われていた「捨て球」
とくに、決勝戦では青森山田は慎重の上にも慎重に戦っていた。
準決勝の高川学園との試合は青森山田の大勝に終わったが、細かい部分では青森山田にも攻守にわたってミスが多発した。パスがズレてタッチラインやゴールラインを割ってしまったり、マークの受け渡しがうまくいかなかったりする場面が何度もあった。強い相手だったら、致命的なミスになりかねないミスだった。
そんな反省点があったのだろう。決勝戦では青森山田はけっして無理にパスをつないだりしなかった。つなぐのが難しいと見れば、割り切ってロングボールを蹴り込んだ。いわゆる“捨て球”だった。相手にポゼッションは渡してしまうが、危険な場面でカットされてショートカウンターを受けるリスクを避けようとしたのだ。
一見すると、青森山田がパスミスをしているように見えるかもしれないが、それは意図的にやっていたことなのだ。
したがって、攻撃のリズムがなかなか生まれないで、時間だけが経過していった。そのままゼロに抑えられていると、いつかはセットプレーやカウンターで失点する危険があるのがサッカーという番狂わせの多い競技なのだ。
そこで、威力を発揮したのがセットプレーというわけだ。
数多く準備したCKのパターンを駆使して、37分に先制ゴールを決めた青森山田は、その後も着実に得点を重ねて、3年ぶりの優勝を確実につかみ取った。