往路・復路ともに天気にも恵まれ、好コンディションのなかで行なわれた第98回箱根駅伝は、青学大が速さと強さを見せつける結果になった。 秋には1万mの28分台の選手が24人になったという充実の戦力。原晋監督は「復路には往路に回ってもいい選手が…

 往路・復路ともに天気にも恵まれ、好コンディションのなかで行なわれた第98回箱根駅伝は、青学大が速さと強さを見せつける結果になった。

 秋には1万mの28分台の選手が24人になったという充実の戦力。原晋監督は「復路には往路に回ってもいい選手がそろっていましたが、その5人を復路に持ってくるくらいに往路の選手が成長したことが今回の強さになりました」と、2位に10分51秒差をつけた圧勝の要因を説明する。



第98回の箱根駅伝は青学大の圧勝だった

 前回の箱根で青学大が総合4位に終わった原因は、2区と3区で区間14位、5区は区間17位と、想定外のミスが出たからだった。だが、今回はミスが出ない布陣を徹底したと原監督は言う。そのなかでも見事としか言いようのない采配は、3区と5区に1年生を起用したことだった。

 1区の志貴勇斗(2年)は区間5位ながら、2強と言われていた駒澤大に6秒差と絶好の位置につけた。2区は駒澤大の田澤廉(3年)の力が飛び抜けていたが、近藤幸太郎(3年)が自分のペースで着実に走って、56秒広げられただけの2位でつないだことが勝利の前準備だった。そして3区を走った1年生の太田蒼生は、東京国際大の日本人エースの丹所健(3年)に詰められたものの、そこから引き離そうとしなかったことに救われた。

 丹所について走り駒澤大を抜き、18.7km地点でスパートすると12秒差をつけて先頭で中継。原監督は往路で先頭から遅れることも覚悟していたようだが、4区からは青学大のひとり旅で余裕が生まれ、5区では1年生の若林宏樹が期待どおりに区間3位の快走。2位の帝京大に2分37秒、3位駒澤大には3分28秒差をつけて優位に立った。

 若林の起用は、あと3年間は5区が安泰というアピールもでき、他校に脅威を与えることとなった。

 復路も7区の岸本大紀(3年)が1カ月前に左仙骨を疲労骨折した状態だったが、1年で2区をきっちり走った底力を発揮して区間賞を獲得し、2位に上がった駒澤大との差を4分51秒に広げて勝負を確定させた。そして9区と10区でも、前回2区でミスをした中村唯翔(3年)と11月の世田谷ハーフ2位の中倉啓敦(3年)が、守りの走りではなく攻めの走りをし、ともに狙いどおりに大幅な区間記録更新と青学大らしさを見せる走りをして総合優勝に花を添えた。

【駒澤大はどこでコケたのか】

 対して駒澤大は、1万m27分41秒68を持つ準エース・鈴木芽吹(2年)の状態が上がらなかったことが敗戦の大きな要因になった。1区にチーム3番目の28分02秒52を持つ唐澤拓海(2年)を起用して、2区で田澤、3区で鈴木と速い3人を並べ、そこで差を広げて往路優勝ができるという狙いがあったはず。

 だが、故障明けの鈴木の調整が間に合わず、2区の田澤も東京国際大のイェゴン・ヴィンセントの不調で、「追いついてきたヴィンセントと競り合って1時間5分台を出す」という構想が崩れて思っていたよりもスピードが出ず、2区終了時点で2位の青学大との差を1分2秒にしかできなかった。

 大八木弘明監督は、3区と4区に出雲駅伝と全日本で堅実に走った花尾恭輔(2年)と安原太陽(2年)を起用したが、最初は3区に花尾、4区に安原と考えていた。しかし5000mで記録のいい安原のほうが、下りが得意だと判断して3区に起用したものの、レースでスタミナ練習不足が出てしまった。12.9kmで青学大と東京国際大に追いつかれ、14.2kmからは遅れる展開。青学大の太田には3分01秒負ける区間16位で順位を5位に落とすと、4区の花尾も攻めきれず、区間9位で6位という結果になった。5区起用の金子伊吹(2年)が区間4位とよかっただけに、3区と4区が惜しまれる走りだった。

 翌日の復路は大八木監督も4人を当日交代する勝負に出て、6区では10秒詰めたが、7区の白鳥哲汰(2年)が区間10位と伸びず。8区の鈴木は大八木監督が「10kmで一杯いっぱいになったと話していた」と言うように、故障箇所に痛みが出て区間18位と失速。9区、10区と粘り、東洋大とゴール前まで競り合った3位争いでは2秒差で勝利したが、逆転優勝へ向けた賭けは外れてしまった。

【順天堂大の復活】

 一方、順天堂大が15年ぶりのトップ3となる2位に復活したのは、総合力の高さの賜物とも言える結果だったが、往路の出足が足を引っ張ったのは惜しかった。長門俊介監督の当初の構想は、エースの野村優作(3年)の前回に次ぐ2区への起用だった。野村は前回の箱根で区間10位、出雲は区間16位と失速していたが、全日本では5区で区間2位と自信を取り戻したかに思えた。だが、12月に入っても調子が上がらず、その時点でよかった三浦龍司(2年)を、「2区のタフな条件に対応できる力はまだついていない」という状況ながら起用することにした。

 1区が18位と大きく遅れて、三浦も区間11位で17位にしか上げられなかったが、長門監督の「3区から再スタートというイメージだった」というとおりに、3区は区間3位、4区は区間2位でつないで7位まで上げると、5区の四釜峻佑(3年)が区間5位で5位まで上げた。ただ、四釜は「全日本のあとは思うように(調子が)上がらず、区間賞を狙えるまでの状態にはならなかった」と長門監督が言うなかでの結果だった。

 復路で2位まで上げたのは、4年生の力と長門監督の戦略だった。まずは、6区で当日変更された主将の牧瀬圭斗(4年)が区間賞獲得で3位に上げた。

「当初は7区に吉岡智輝(4年)で10区が西澤侑真(3年)の予定でしたが、早めに勝負しようと考えて変更した」という理由で西澤を7区に起用し、区間7位の走りで2位の駒澤大を1秒差まで追いつめた。そして8区の津田将希(4年)が、駒澤大の鈴木をうまく使って走り、中盤から突き放して単独2位を確保。9区と10区は二桁順位になったが、しっかり逃げきって2位を堅持し、来年への期待を膨らませた。

 また4位に入った東洋大は、4区で区間18位の12位まで順位を落として苦戦。本来なら4区はスーパールーキーの石田洸介(1年)を使いたかったが、それは「石田は20kmで勝負するという調子まで上がってこなかった。彼の場合は箱根を超えたレベルを目指している選手。ここで出し尽くさせるとそのあとのフォローも大変なので、あえて走らせなかった」という、酒井俊幸監督の覚悟の決断だった。

 今後を見れば、走ったメンバーが青学大は8名、駒澤大は9名残り、来年もまた2強を形成しそうだ。そこに「来年は今回5人走った3年が主になるが、彼らも今回の4年生のように圧倒的な力をつけてくれると思う」と長門監督が期待する順天堂大や、8名が残った上に石田も入ってくるであろう東洋大。さらには今回のメンバーが9名残り、主力のヴィンセントと丹所、1区の山谷昌也が4年になって充実する東京国際大がどう絡んでくるかが見どころになってきそうだ。

 終わったばかりながら、すでに次の箱根駅伝が楽しみだ。