メジャー2年目の2021年、タンパベイ・レイズで開幕を迎えた筒香嘉智は26試合で打率.167と結果を残せず5月中旬にリ…
メジャー2年目の2021年、タンパベイ・レイズで開幕を迎えた筒香嘉智は26試合で打率.167と結果を残せず5月中旬にリリースされ、移籍したロサンゼルス・ドジャースでも12試合の出場にとどまった。だが、3チーム目のピッツバーグ・パイレーツでは43試合で打率.268、8本塁打、チーム2位のOPS.883と活躍。オフには契約を1年延長した。飛躍のメジャー3年目に向け、どんな手応えをつかんだのか。日本で自主トレ中の筒香に話を聞いた。

2021年オフにパイレーツと1年契約を結んだ筒香嘉智
【今の自分の形なら勝負できる】
── 2021年シーズン終了後にFAとなり、パイレーツと単年契約を結びました。複数球団のオファーがあったなか、どんな理由で決めたのですか。
「まずひとつは、ドジャース傘下のマイナーにいる間に(パイレーツに)獲っていただいたことがあります。あとは代理人と話していくなかで、パイレーツという選択になったということですね。細かいことは、シーズンが終わってから言えればと思います」
── パイレーツと再契約した際の会見で、「毎年楽しみな部分はあるが、来年は楽しみの種類が変わるのかなと思っている」と話していました。
「2021年シーズンを経験し、バッティングや生活のことを含めて環境に慣れた部分があります。今の自分の形だったら勝負できると思うところがあったので、2022年はそういった意味で楽しみだと思っています」
── パイレーツでの活躍の要因として、ドジャースでの経験が大きかったとテレビ番組で振り返っていました。とくに3Aに行った際、「マイナーでもレベルが高くて、打たないと出られなくなると思った時にスイッチが入った」と。
「僕の伝え方が少し間違っていたかもしれないですけど、もちろんずっとスイッチが入っている状態でした。ドジャースでは自分のバッティングを取り戻すためにいろいろ試しながら試合に出ていたのが、マイナーではとにかく結果だけを求められる環境に変わったということです」
── マイナーを経験し、アメリカ野球の厳しさをより実感しましたか。
「そうですね。マイナーでは最短の場合、トレードで来て次の日にはもうチームにいない選手もいました。戦力外を受ける選手は2週間に1人か2人、必ずいましたし。日本ではあり得ないような環境でした」
── 移動は格安航空で3、4時間の遅延は当たり前。食事はパンとハム、ピーナッツバターが用意されるくらいで、取り合いだったとか。よりハングリーになった部分はありましたか。
「これまでに経験したことがない環境で野球をしたので、自分が強くなったと感じる部分は多々ありますね」
── 2015年オフにドミニカ共和国のウインターリーグでプレーしましたが、中南米と同じようなハングリーさを思い出しましたか。
「いや、アメリカの場合、ハングリーという感覚は選手たちにない気がします。もちろん、みんなハングリーですし、それが当たり前のように存在しているという感覚ですね」
【進化している感覚はある】
── パイレーツに移籍して、結果が出た理由はどこにあったと思いますか。
「改善という点で言うと、バッティングが自分の感覚に限りなく近い状態に戻りました。ドジャースにいる時に、そこにプラスアルファが乗っかったので、ピッツバーグではああいう結果が出たのかなと思っています」
── ドジャースに移籍した当初、「最初に日本のスイングに戻しつつ、何かプラスアルファをつくっていこう」と伝えられたそうですね。手首を返さないで打つとか、フリスビーを投げるとか、独特な打撃ドリルに取り組んだと話していましたが、球団に言われたことを信じて取り組んだ結果、よくなっていったのですか。
「本来やりたいことと、自分自身の感覚がすごく一致したことはありました。だから、あらためて信じるとか、疑うとか、そういうことはありませんでした。ドジャースに加入して、ありのままの自分でやっていたという感じです」
── 5月中旬にドジャースへ移籍する少し前、筒香選手がトレーニングなどで師事している矢田修先生に話を聞く機会があり、「お尻の位置が低くなっている」と話していました。
「その感覚はすごくありましたね。矢田先生とも連絡を取らせていただきましたが、レイズの時は本当に自分の感覚とはかけ離れているような状態で打席に立っていました」
── バットを最短距離で出すなど、今までと違うことに取り組むなかでズレていったのですか。
「そうですね。レイズのヒッティングコーチはよくしようと言ってくださっていたのですが、その感覚が僕には合わなかった......ということでした」
── それをドジャースで戻したわけですね。今は日本時代と違う感覚はありますか。
「もちろんあります。アメリカの野球に対応しようと常に考えてやっていますが、ドジャースのドリルをやっていくなかで自然にプラスアルファが生まれていた、といったほうが近いですね」
── そういう意味では、ベイスターズ時代より進化していますか。
「僕の感覚では、それはかなりあるかなと思います」
【批判に対して心揺らぐことはない】
── シンシナティ・レッズに移籍した秋山翔吾選手は「メジャーの投手が投げるボールは重く感じる」と話していました。
「重さはやっぱり感じますね」
── となると、重さに負けないように出力を発揮しないといけない?
「重いボールに負けないように力で勝負しようとすると、絶対に負けます。だから、矢田先生に教えていただいているいろんなエクササイズをしながら、日々、体の中をつくっています」
── 体の中をつくる?
「僕の表現で言うと、体の中が詰まっていくような感覚です。スカスカの状態にならないように、詰まっていくような作業をしながら、自分の体を自由に操れるためのエクササイズを日々やっています」
── 力をロスせず、バットに力を伝えてボールを打ち返すのですか。
「ロスしないように打つのではなく、体の中がしっかり詰まっていけば、ロスしなくなるということです。あくまで体が先です」
── 秋山選手は「メジャーの投手は変化球が強い」とも話していました。
「アメリカの場合はストレートに近いような強さ、重さがありますね。そこが日本とまったく違うと感じています」
── いわゆる"動く球"ですか。
「すべての球ですね。変化球も軽くはなく、強くて重たいんです。変化球は(ストレートより)回転数が多いので、日本の時はよく飛ぶという感覚がありましたけど、アメリカはストレートのように強いので、軽く打って飛ぶという感覚は持てません。日本とは全然違うボールですね」
── メジャーでは「ストレートを打ち返せていない」と指摘されましたが、本人としては変化球への違和感のほうが強かったのですか。
「そうですね。変化球がすごくハードで速い。そのうえ、変化が大きいボールもありますし、重くて小さい変化の球もあります。カーブにしても、『日本ではこんな軌道は見たことがない』という球がたくさんありました。そうなると、ストレートに振り遅れるという現象が起きてしまいます。要するに、変化球も打てていないし、ストレートも打てていないので、ストレートだけ打てていないということはなかったです」
── 「ストレートが打てない」とか、レイズからリリースされた時には「日本に帰ってこい」という声もありました。
「もちろん僕の耳にも入りましたし、記事を拝見することもありました。でも、それに対して心が揺れることはなかったですね」
── 思うような結果が出ず、焦ったり悩んだりしたことはありましたか。
「バッティングの変化する方向で悩むことはありましたが、しんどいとか、日本に帰りたいとか、そういう気持ちはまったくなかったです」
【筒香を突き動かす原動力は?】
── 筒香選手の原動力はどこにあるのでしょうか。
「自分の夢であったメジャーリーグという舞台に立てて、挑戦していることです。ただ、そういうことを思わないと、強い心を維持できないということはないです」
── 前だけを見て取り組んでいるのですか。
「もちろん、前だけを見られない時はあります。とにかくひたすら自分と向き合い続けて、毎日を生きていくことしかできないので......。ただ、自己対話をたくさんしながら生きていたという感覚ですね」
── 「日本人打者はメジャーでは難しい」という声を覆したいという思いはありますか。
「そうした声を覆すというより、将来のスーパースターになる可能性がある子どもたちに対して、夢を与えられるような存在になりたいというか......メジャーリーグは間違いなく世界トップの場所だと思うので、子どもたちがそこでプレーしたいと思えるような活躍をしたい気持ちはずっとあります」
── 子どもたちから「どうしたらメジャーリーグになれますか」と聞かれたら、どういうアドバイスを送りますか。
「メジャーリーガーになりたいという目標があれば、それを強く思っていれば必ず行動も変わってくると思います。その目標が5年後、違う仕事をやりたいと変わってもいいわけですし。現在の目標を強く思って行動することがすごく大切かなと思います」
── 筒香選手に確固たる自分があるのは、大きな目標を明確に見据えているからですか。
「いや、僕もまだまだ弱いと感じる部分はたくさんあります。とにかく、たまたまうまくいったことを『よし』としないことですね。たまたまうまくいってしまったことを『よかった』と思うと、次に進むまでの時間が必ずかかります。でも、自分で考えてうまくいったことは、その要因を自分がよくわかっているので、すぐに新しいことが頭に思い浮かんで、次の行動につなげられると思います」
── 活躍の土台にあるものが見えた気がします。最後に2022年シーズン、どんなパフォーマンスを見せたいかを教えてください。
「まだ世の中にはコロナ禍で大変な思いをされている方がたくさんいらっしゃると思います。そういったなかで、少しでもみなさんの生きる活力だったり、何か参考になるようなことを、プレーで示すことができればいいと思っています」