全日本選手権は2位に終わった村元哉中・髙橋大輔組 12月下旬に開催された全日本フィギュアスケート選手権のアイスダンスでは、小松原美里・尊組に1.86点差で敗れ、北京五輪代表の座を逃した村元哉中・髙橋大輔組。リズムダンス(RD)での転倒もあり…



全日本選手権は2位に終わった村元哉中・髙橋大輔組

 12月下旬に開催された全日本フィギュアスケート選手権のアイスダンスでは、小松原美里・尊組に1.86点差で敗れ、北京五輪代表の座を逃した村元哉中・髙橋大輔組。リズムダンス(RD)での転倒もあり自分たちの力を発揮しきれずに終わった。

「(北京五輪の代表については)ぎりぎりまでわからないところだったけど、結果は素直に受け入れることができました。ただ、世界選手権の代表は、最初に呼ばれたシングル(の代表)は全員が五輪代表だったから、もしかしたらないかもしれないと思ったけれど、名前を呼ばれたのはうれしかった。世界選手権も出られなかったら、本当に落ち込んだかもしれません」

 髙橋は代表発表から一夜明けた12月27日にこう言った。そして村元も「(世界選手権代表で)名前を呼ばれたのでホッとしたし、もう一回世界と戦えるチャンスをもらえたのがうれしかった」とさっぱりした表情で話していた。

 そして、世界選手権とともに2022年1月の四大陸選手権の代表にも選ばれ、「五輪シーズンの四大陸はチャンスがある。表彰台を目指したい」と気持ちを切り替えている。

【結成からの2シーズン】

 カップル結成からの2シーズン、ここまで成長した道のりを、ふたりはこう振り返る。

村元哉中(以下、村元) 本当にすべての面で成長しているんじゃないかと思います。技術面でも表現面でも、ダンサーとしてひとつのチームになっているというのはすごく実感している。今季はNHK杯とワルシャワ杯にも出て実際に評価も得られて。それは"かな・だい"が成長しているという評価。アイスダンスを始めたばかりの大ちゃん(髙橋)がここまでこられたことは本当にすごいし、すごく成長をしているというのは感じています。

髙橋大輔(以下、髙橋) 先シーズンがスタートした時は、五輪は本当に夢みたいなところで、いけるとは思えないくらいで。実際に大変なことばかりでなかなかうまくいかなかった。コロナの影響で(コーチの)マリナ(・ズエワ)先生の指導もほとんど受けられず、自分たちでやるのがほとんどだった。でも、今季はじっくりレッスンを受けられていていい練習になっています。NHK杯とワルシャワ杯、全日本選手権と本当に自信がつくような演技や結果だった。先シーズンと比べると、自分のなかでもいろいろなことを考えずに演技ができる時が増えてきて、だいぶふたりの世界観もつかんできたのではないかと思います。もっと時間をかけてやっていけばもっともっといいものになると思うし、世界選手権で世界のみんなと戦えるチャンスをもらったので、そこで自分たちの立ち位置もわかる。自分たちの成長を確認できるのでワクワク感を感じています。

 最初のシーズンはコロナ禍で国内でのスタート。7月にアメリカへ行ってマリナ・ズエワコーチの指導を受けられるようになったものの、髙橋が肋骨にひびが入るケガをして3週間ほど練習ができず。髙橋のケガが治ったあと、今度は村元が転倒で脳震盪になり、約1カ月間練習ができなかった。そんななかでも、ふたりは「心配しすぎることもお互いを焦らせるだけだ」と考え、適度な距離感を保ちながら、相手が復帰してきたらすぐに対応できるようにと、ふだんと同じようにトレーニングに取り組み、それぞれが自分を磨くことを心掛けていた。

髙橋 先シーズンはリフトでけっこうコケることや落とすことも何回もあった。今シーズンはそういうことは減ったけれど、哉中ちゃん(村元)も体を預けるのが怖かったと思います。でも、それを見せると僕が自信をなくすというのもわかっていたので、見せないようにして頑張ってくれていたのにも気がついていました。そういったところで乗り越えられたものもあると思うし、今シーズンは自分でも安定していると思えるようになりました。

村元 リフトされる側もちゃんとした位置に乗ってあげないと支える側の負担にもなるので。お互いに考えなくてはいけない部分はありますが、今は不安なく体を預けられるようになりました。大ちゃんもこの短期間でそうなったのはすごいと思います。

 不安のほうが大きかった時期を経験したからこそ、ふたりの信頼関係も深まり、今季の躍進につながったという。

【互いに得たもの】

髙橋 いろんなことを我慢してくれていたと思います。カップル競技だと人間関係をつくっていくこと自体も大変だと思いますが、練習でもかなり気を遣いながらだった。今回は五輪へいくという結果は出せなかったけれど、4年前の平昌五輪を見にいかせてもらった時は、まさかこの年齢になって違う競技をして世界を見ているとは想像すらしてなかったです。哉中ちゃんが誘ってくれなかったら、(アイスダンスの)この世界には絶対に入ってなかったのですごく感謝していますし、まだまだもっといい景色を見たいなという気持ちがあります。

村元 カップルを組んだ当初はどこまで成長できるかというのはまったく想像してなかったけれど、頭の隅では、たぶん世界と戦えるチームになるというのは感じていました。それを証明できたのは、大ちゃんの努力があってからこそだけど、自分も一緒にやることで人間的にも成長できたし、大ちゃんがアイスダンスをしてくれなかったら私もたぶん引退していたので。北京五輪は目指していたけれど、最終的な目標ではなかった。今回の全日本選手権では、すごく多くのお客さんが見に来てくれていたのを実感したし、今までにないくらいにアイスダンスが盛り上がった。アイスダンスを日本の皆さんにも知ってもらいたいというのもひとつの大きな目標だったので、すごくよかったなと思います。

 ふたりでカップルを組んでアイスダンスをしたことで、互いに得たものがあった。

髙橋 エッジワークの深さも、先シーズンからできていると思っていましたが、今シーズンと比べると、全然できてなかったと思えるくらいで。今シーズンさえも、最初と今とを比べると、こんなにも滑れるんだとかこんな深いカーブができるんだと思うようなことだらけ。スケーティングひとつ、ステップひとつ、ターンひとつでも、アイスダンスってこんな世界を滑っているんだなというのを、技術的な面ですごく感じられておもしろいですね。それに何も考えずにふたりでいけた時の一体感の気持ちよさや、そこでうまく表現できた時に素直に喜べるのは、シングルでは体感できないものだと思います。

村元 大ちゃんのスケーティングスキルは一緒に滑っていても本当にすごいんです。カーブだったり、自分がどう身体を持っていけばいいというのを本当に理解している部分がある。ステップでサイドバイサイドをやる時も、大ちゃんのカーブに合わせると自分が今まで経験していなかったカーブの傾斜などを体感できるし、身長差がない分、合った時の一体感もすごく感じます。大ちゃんの表現というか、曲の捉え方もすごく独特で大ちゃんにしかできないものもあるから、一緒にやることでアイスダンスはもっと深いものだなとも感じます。

髙橋 アイスダンスを続けるとしても、不安要素はまったくないですね。ただリフトの種類はもっと増やさないといけない。今はイーグルができないから、脚のつけ根に哉中ちゃんを乗せるのを覚えなくてはとか、こういうプログラムをやってみたいというのもあって。

村元 私も同じですね。むしろこの2年間で本当にたくさんのことを収穫できたから、それこそ次は何にチャレンジできるだろうとか、大ちゃんとどんなジャンルのプログラムが滑れるだろう、どんな技ができるだろうって、本当にワクワクしているんです。

【にじみ出る来季への思い】 

 来季以降の競技続行については、互いに言葉をにごす。アイスダンスはふたりで行なう競技であり、趣味ではなく世界と戦う以上はふたりが同じ意思や考え方を持ち、同じ方向を向いてやる覚悟が必要だ、と。だから世界選手権が終わった時点で、もう一度しっかり話し合って決めたいし、続けるとしても一年一年と考える、と。

 だが、髙橋の言葉の端々には、来季への思いも漏れ出している。2023年の世界選手権はさいたま市での開催。「僕自身、シングル最後の五輪だったソチ後の世界選手権はさいたま開催でしたが、脚の故障で出場することができなかったという、まだちょっと悔いが残る思い出もあるので......」と話す。

 また今シーズン、村元と髙橋は小松原組について「ライバルとして競り合うことで互いに成長することができた」と話す。髙橋は「世界選手権の枠取りという部分でも、2枠取って帰ってこられたら2023年には一緒に世界選手権という場に立てるかもしれない。そういう意味でも僕たちは世界選手権を、精一杯頑張りたいです」と口にした。

 四大陸選手権や世界選手権だけではなく、来季への期待もある村元・髙橋組の演技は、もう少し見られそうな予感もさせた、全日本選手権後の一夜明け会見だった。