世はクリスマス・イブの12月24日、D.LEAGUE(Dリーグ)、セカンドシーズンのラウンド4が開催された。ホリデーシーズンに突入し、会場の有明ガーデンシアターには通常より多くの子供達が詰めかけ、闘いの場は、いつもの程よい緊張感とは少し異なる、より温かな空気に包まれていた。
ラウンド4は、セカンドシーズン全12ラウンドの一区切りであり、今年最後の闘いでもある。クリスマスのイルミネーションが最も輝く聖夜、各チームのダンサーはそれぞれに、煌めく素材のコスチュームや正装を思わせる衣装を身に纏い、演目にはクリスマス的な演出が取り入れられたものも多く、この特別な一夜にDリーグを観戦する全ての人々へ向けて、彼らの踊りそのものがプレゼントとなるような、趣向が凝らされたナンバーが披露された。
多くの観客が、思いがけず受け取った聖夜にぴったりの贈り物に、心が愉しさと嬉しさでいっぱいになってゆくのを感じたに違いない。スポーツ・エンターテイメントの分野広しといえど、試合の観戦のみに留まらず、そのように季節や風物が映し出しだされた世界を併せて愉しむことが出来るのは、この“表現するスポーツ”としての分野を切り開いた、Dリーグならではの醍醐味と言えよう。
■「ハッピーなクリスマス」を演出したDREAMSと8ROCKS
さて、そんなスペシャルな趣向で彩られた今ラウンドで印象に残った特筆すべきチームとして、最後のオーディエンスポイント加算で逆転され、結果2位となったが、エンターテイメント・ショーの王道ともいうべきナンバーを踊りきり、ジャッジポイントではダントツ首位の最高得点75点を叩き出していたKADOKAWA DREAMSをまず取り上げたい。
今回のドリームズのテーマは「Happy」。演技前の登場シーンでは、ステージから延びた花道に揃いの青いチームジャケットで現れたメンバーだったが、そこから舞台中央に駆け上がり上着を脱ぎ捨てると雰囲気がガラリと一転。男性はボルドー色の優雅な燕尾服に白いハット、女性はブルーのオーガンジー仕立ての瀟洒なドレス姿となり、男性の優美さ、女性のしなやかさが強調される出で立ちで踊りが始まった。
KADOKAWA DREAMSの、毎回感心するフォーメーションの良さ、スピードに乗った凝った振り付け、そして今回は特に、スピンによってひるがえる衣装の美しさが際立ち、オーセンティックなスタイルとストリート感を掛け合わせた迫力満点の構成で、まさに“That‘s Entertainment!” と叫びたくなるような見応えたっぷりのナンバーを届けてくれた。
メンバーのHINATAも語っていた通り、「楽しい!と無条件で思えるショー」はクリスマスにピッタリだ。削ぎ落されたミニマルな衣装や振り付けも素敵だが、時にはこんなゴージャスな衣装で、素直に華やぎを楽しみたいという欲求があることに改めて気が付かせてもらった。会場でライブで見た観客はもちろん、Dリーグサイトからの配信を通して見たファンも、心が浮き立ち、ホリデー気分も大いに盛り上がったことだろう。
ショーアップという視点では、KOSE 8ROCKSのクリスマス感いっぱいのブレイキンもKADOKAWA DREAMSに劣らず秀逸だった。普段、激しさが身上のブレイクダンサーたちがいつになくドレスアップし、ブリキの兵隊やフランス人形に扮して踊る姿は、束の間、子供の頃クリスマスシーズンに感じた、童心のときめきを思いださせてくれた。
おとぎの国の一員に扮した彼らはとびきり楽し気で、リーダーのISSEIの言う通り、「ブレイキンが魔法みたいに見える」演出が施されているのだ。兵隊や人形たちから繰り出される、ブレイキンならではの高度な技を見て、本気で「魔法みたい!」と感じた観客席の子供たちも大勢いたことだろう。
こんな見せ方も出来るのだ、という新鮮な驚きに満ちた、ブレイキンの新しい可能性に挑戦した夢いっぱいの素晴らしいナンバーはまた、8ROCKSの持つ大らかな明るさにとても良くマッチしていた。
結果としては、オーディエンスポイントでは3位を取ったが、ジャッジポイントが伸びず、ラウンド4の順位は8位にとどまった。が、もしも8ROCKSがこの路線で興行を始めたとしたら、大変な人気を博すのではないかと思わせる、観客をウキウキさせるというエンタメの重要な要素を多分に含んだ作品となっていた。
■作り込まれた筋肉と贅肉のコラボレーション
そして、ジャッジポイント70点の2位から、オーディエンスポイントの加点で見事逆転し、ラウンド3に続いて2連覇を果たしたのは、男気光る筋肉集団のFULLCAST REASERS。
前回の優勝インタビューで、「ラウンド4は女性のSP(ゲスト)ダンサーを迎えます」と予告していたレイザーズ。男気満タンで踊ってきた彼らが、満を持して迎える女性ゲストダンサーとなれば、どんな色気の立ち上る美女ダンサーが登用されるのだろうと想像を逞しくしていたが、登場したのは、本人自ら「普段9割は顔で踊ってます♪」と楽しく語り、TikTokでも“バズる”人気のコミカル・ダンサー&振付師の“えりなっち”。
「水抜き」で筋肉をより絞り込んで作り上げたレイザーズの肉体に対し、えりなっちはこの日のためにふくよかなボディーをさらに「米増し」で作り込んだという。最初に舞台に彼女が登場した時は、筆者の脳に疑問符が浮かび、違和感を覚えてしまった組み合わせだったが、いつも通り強く逞しく踊る、筋肉集団レイザーズのクランプダンスに交じり、彼女が負けじと放つ「ふくよかな肉」の踊りは絶妙な図式を作り出した。
今ラウンドのテーマは、前シーズンでも優勝した「レイザーズ学園」のリバイバル。
男ばかりのレイザーズ学園に、「女性」のえりなっちが登場して繰り広げられる、ドタバタ劇ともいえる流れも、巧みに計算されたものに違いない。企みの勝利ともいえるこの作品。
作り込まれた“筋肉と贅肉”のコラボレーションが紡ぎ出すストーリーに、人々は可笑しみを感じながらも不思議に心動かされ、また驚嘆したのだろう。それがオーディエンスポイント20点という最高得点につながった。
全競技終了後のコメントで、ダンサージャッジの長谷川達也さんが、「恰好いいだけではトップになれない現実がある。」「ダンススキル、振り付け、音楽とストーリー。そのすべてのバランスが整い、その上でそれらが相乗効果をもたらすかどうか。非常に難しい闘い。」と語っていたが、まさにその通り。
ラウンドを経るごとに、表現も重層的になり、1チームわずか2分余りのダンスを11チーム分見終わる頃には、ブロードウェイのミュージカルをじっくり数時間見たような満腹感を覚えるほどに観る側の手ごたえも確実に増してきている。が、その分、闘い方もより高度に複雑になってゆくということだろう。
Dリーグは今後、スポーツ・エンターテイメントの域を超えて、さらなる高みの「闘う総合芸術」へと向かってゆこうとしているのだろうか?
ともあれ、この華麗なる闘いの進化と変貌がますます勢いを増していることは確かだ。年明け、新年初試合となるラウンド5の開催は1月10日。年末年始を挟んでもペースは変わらず、ほぼ2週間隔で新ナンバーを仕上げなくてはいけないDリーガーに休む暇はあるのかと心配しつつ、次のラウンドに向けて走り続けるに違いない彼らのさらなる飛躍を祈り、新年の闘いの火蓋が切り落とされる時を待ちたい。
◆Dリーグラウンド3の覇者はFULLCAST RAISERZ 圧倒的存在感で“突き上げた”男気
◆THE GREAT HEART of “8ROCKS” ブレイキン世界一のISSEI率いる熱き魂
◆“ダンスの救世主”カリスマカンタローかく語りき 「絶対やり遂げてから死ぬ」覚悟
著者プロフィール
Naomi Ogawa Ross●クリエイティブ・ディレクター、ライター 『CREA Traveller』『週刊文春』のファッション&ライフスタイル・ディレクター、『文學界』の文藝編集者など、長年多岐に亘る雑誌メディア業に従事。宮古島ハイビスカス産業や再生可能エネルギー業界のクリエイティブ・ディレクターとしても活躍中。齢3歳で、松竹で歌舞伎プロデューサーをしていた亡父の導きのもと尾上流家元に日舞を習い始めた時からサルサに嵌る現在まで、心の本業はダンサー。